2度目の有罪判決を受けるとき

2019-09-18 23:16:38 | 刑事手続・刑事政策

2023-03-04追記。

2024-01-29追記。

【例題】Aは、平成30年7月1日に万引きの疑いで現行犯逮捕され、7月13日に起訴された。公判廷でAは自認し、検察官請求証拠のすべてが取り調べられて結審した。Aには、次の前科がある。

(case1)平成28年10月1日に確定した「懲役1年、執行猶予3年」の執行猶予判決がある場合。

(case2)平成25年10月1日に確定した「懲役1年、執行猶予3年」の執行猶予判決がある場合。

(case3)平成25年10月1日に確定した「懲役1年」の実刑判決がある場合。

(case4)平成28年10月1日に確定した「懲役3年」の実刑判決があり、平成30年6月1日に仮釈放によって釈放されている場合。

 

[「進行中の執行猶予」の取消]

・実刑判決による必要的取消:執行猶予期間内に更に罪を犯した者が、今回の罪で禁錮以上の実刑を言い渡される(=再度の執行猶予がつかない)場合、進行中の執行猶予の言渡しは必要的に取り消される(刑法26条本文1号:いわゆる「弁当を食う」)。□下村130

・罰金判決による裁量的取消:今回の罪が罰金刑にとどまった場合も、進行中の執行猶予の言渡しが取り消されることがある(刑法26条の2第1号)。

・この「執行猶予の取消」の基準時は今回の有罪判決の言渡時であり、その言渡前に(執行猶予の言渡しが取り消されることなく)猶予期間が経過すると前刑の言渡しは効力を失う(刑法27条)。したがって、執行猶予期間の終期がせまっている被告人は、「弁当切り」(※)を狙うインセンティブがある。□下村130

※2024-01-29追記「さらば弁当切り」:2025年6月1日施行の令和4年改正法により、刑法27条に新設された2項以下が適用される。以後、「弁当切り」はできなくなったので、もはや公判を引き延ばしてもムダである。すなわち、刑の全部執行猶予期間中に再犯(罰金以上)が実行されて公判に至った場合、公判中に前刑の執行猶予期間の終期に達しても、前刑の言渡しは、刑法27条1項にかかわらずひきつづき効力を有し(改正法27条2項前段)、「今回の判決宣告までは、前刑の全部施行猶予期間が継続している」と擬制される(改正法27条2項後段)。そして、今回の量刑が「拘禁刑以上+全部執行猶予なし」だと、「擬制されている前刑の全部執行猶予」は原則として必要的に取り消される(改正法27条4項本文)。今回の量刑が「罰金刑」だと、「擬制されている前刑の全部執行猶予」は任意的に取り消すことができる(改正法27条5項)。

・刑の執行猶予の取消手続は、検察官による裁判所への請求をもって開始する(刑訴法349条1項:「刑の執行猶予取消請求事件」と呼称され、刑事の雑事件に分類される)。その際、執行猶予の言渡しをした判決謄本、取消原因となる判決謄本等が提出される(刑訴規則222条の5参照)。請求を受けた裁判所は、猶予の言渡を受けた者への求意見を経た上で決定をする(刑訴法349条の2第1項)。□条解刑訴970-6

・[参考]再度の執行猶予(いわゆるダブル):執行猶予中の者が再度の執行猶予を受けるには、「保護観察執行猶予中の犯罪でない」+「今回の罪が1年以下」+「特に酌量すべき情状がある」という要件を要する(刑法25条2項本文ただし書)。ダブルには保護観察が必要的に付される(刑法25条の2第1項後段)。もっとも、実務的には、執行猶予中の故意犯にダブルが付されることは原則的にない。□下村123、田村450

 

[「初度の執行猶予」の障害]

・有罪判決を受けようとする被告人に(一部)執行猶予をつけるには、「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない」旨を要する(刑法25条1項1号、27条の2第1項1号)。したがって、前刑のないものは問題無くこの要件を満たす。□読本(2)48-9、田村450

・ここでいう「処せられた」には執行猶予判決も含むものの、(新たな判決言渡し前に)猶予期間が経過すればその効力を失うので(刑法27条)、「禁錮以上の刑に処せられたことがない」として初度の執行猶予の要件を満たす。そのため、ここでも「弁当切り」を狙う動機が生じうる(→もっとも、実務的には、猶予期間中の判決宣告と同じ基準で量刑が判断されよう)。□読本(2)48-9、田村450

・さらに、「禁錮以上の刑に処せられたことがあ」る者であっても、すでに「前刑の執行終了日~今回の判決言渡し」の間に5年を超過している場合、初度の(一部)執行猶予の要件を満たす(刑法25条1項2号、27条の2第1項3号)。この5年ギリギリの被告人は公判の長期化を期待しよう(→だが、実務的には執行猶予が付されることはやはり例外的)。反対に、前実刑の執行終了から今回に判決言渡しまでが5年以内にとどまってしまう者には、(一部)執行猶予をする余地がない。□読本(2)48-9、田村450ー1

・[参考]法律上の復権:「禁錮以上の刑に処せられたこと」は種々の資格制限となるが、特に、その執行が終わっても制限が継続する資格(裁判官、弁護士、検察官等)もある。このような場合、「執行終了+罰金以上の刑に処せられないで10年経過→刑の言渡の効力消失」という法律上の復権規定(刑の消滅、前科の抹消:刑法34条の2第1項)が意味を持つ。□団藤546-50,556-9

 

[累犯加重の可能性]

・有罪判決を受けようとする被告人に前科があり、かつ、次の要件をすべて満たすときには刑法上の「再犯」に該当する(刑法56条1項)。□読本(2)37-9

[1]前科が懲役刑であること。

[2]その懲役刑が執行されて終了し(≠執行猶予判決)、「その前刑の執行終了日~今回の実行行為」の間が5年以内であること。※「仮釈放中の実行行為」はこれに該当しない(最二判昭和24年12月24日集刑15号583頁)。□新コンメ173〔成瀬幸典〕

[3]今回処断すべき刑が懲役刑であること。

・処断刑は、「法定刑→科刑上一罪の処理→刑種の選択→累犯加重→併合罪の処理→酌量減軽→処断刑」というプロセスを経て決定される。この累犯加重とは「再犯」「三犯」規定を指し、懲役刑の長期が2倍となる(刑法57条)。

・累犯加重の根拠を「理論的に説明することはなかなか困難であ」り、「刑事政策的見地から責任主義の例外を認めた制度として理解するほかはない」と説く見解もある。□井田622

・「累犯」の定義上、それに該当するか否かについて常習性の有無は問われない。なお、「累犯」という用語は、すべての法令において刑法典(+刑法施行法)にしか存在しない(たぶん)。□井田621

 

[常習累犯窃盗の可能性]

・昭和5年法律第9号(盗犯等の防止及び処分に関する法律)3条:「常習として前条に掲げたる刑法各条の罪(=窃盗、強盗、事後強盗、昏酔強盗)又はその未遂罪を犯したる者にして、その行為前10年内にこれらの罪又はこれらの罪と他の罪との併合罪につき3回以上6月の懲役以上の刑の執行を受け又はその執行の免除を得たるものに対し刑を科すべきときは、前条の例(=窃盗を以って論ずべきときは3年以上、強盗を以って論ずべきときは7年以上の有期懲役に処す)に依る」。同法は「累犯」との用語を用いていないものの、実務ではこれを「常習累犯窃盗(略して常累盗)」と称している。□団藤536-7、城77、検察193

・[参考]常習性概念:「累犯」と類似する「常習性」概念は、行為者の反復して一定の犯罪を行う傾向性を指す(一種の身分犯)。刑法総則に規定はなく、主として特別刑法が加重処罰事由として規律する。なお、刑訴法も権利保釈除外事由の一つとして「常習」を挙げる(刑訴法89条3号:→関連記事《権利保釈除外事由としての常習性概念》)。□井田621、検察193

[例]常習賭博(刑法186条1項)、常習特殊窃盗(or強盗、事後強盗、昏酔強盗)(盗犯等の防止及び処分に関する法律2条)、常習累犯窃盗(or強盗、事後強盗、昏酔強盗)(盗犯等の防止及び処分に関する法律3条)、常習特殊強盗致傷(or強盗強制性交等)(盗犯等の防止及び処分に関する法律4条)、常習的傷害(or暴行、脅迫、器物損壊)(暴力行為等処罰に関する法律1条の3第1項)、常習的面会強請(or強談威迫)(暴力行為等処罰に関する法律2条2項)、常習的買収(or利害誘導)(公職選挙法222条1項)

 

[量刑判断の考慮要素]

・量刑判断は、「犯情=行為責任=責任刑(責任枠)」の判断を基本として、その枠の範囲内で「一般情状」を考慮する。前科(or前歴)の存在は、「被告人の犯罪傾向の進展」「再犯のおそれ」と推認させる一般情状となる。同種前科ではこの点が一層強調されよう。□守下228

・さらに、前科は、かつて裁判所で警告を受けたにもかかわらずこれを無視して犯行を繰り返したという意味で、行為責任自体を加重する方向に働く(←一般情状でも時に犯情以上の比重を持つという意味??)。特に、覚醒剤自己使用・所持のような事案では、犯行動機・態様・結果の点では責任刑の違いが乏しく、同種前科の有無が責任刑を決定づけている。□守下228-30

 

[仮釈放の取消]→詳細は《仮釈放の実務》

・地方委員会による裁量的取消:実務的に使われる形式的要件は「仮釈放中の再犯による罰金刑以上の確定(刑法29条1項1号)」と「仮釈放中の遵守事項違反(同4号)」である。仮釈放が取り消されると(仮釈放後の)残刑期間が改めて執行されるので(刑法29条3項)、被告人には、特に1号事由との関係で「弁当切り」と同様に審理を引き延ばすインセンティヴが生じるか(たぶん)。

・なお既述のとおり、「仮釈放中の実行行為(犯罪)」は刑法上の「再犯」には該当しない。

 

団藤重光『刑法綱要総論〔第3版〕』[1990] ※後発の類書にはない網羅的な記載が多数。団藤先生、すさまじいぜ…。

司法研修所検察教官室『検察講義案〔平成18年版〕』[2006]

司法研修所刑事裁判教官室『刑事裁判修習読本2〔平成20年版〕』[2008]

城祐一郎『捜査・公判のための実務用語・略語・隠語辞典』[2011]

守下実「量刑判断の考慮要素」松尾浩也・岩瀬徹編『実例刑事訴訟法3』[2012]

田村政喜「執行猶予の判断基準」池田修・杉田宗久編『新実例刑法[総論]』[2014] ※実務家必読。

下村忠利『刑事弁護人のための隠語・俗語・実務用語辞典』[2016] ※まえがきでは何も触れられていないが城[2011]へのアンサーか(?)。 

松尾浩也監修『条解刑事訴訟法〔第4版増補版〕』[2016]

浅田和茂・井田良編『新基本法コンメンタール刑法〔第2版〕』[2017]

井田良『講義刑法学・総論〔第2版〕』[2018]

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