刑期の計算

2017-09-19 16:31:48 | 刑事手続・刑事政策

2023-03-17追記。

【例題】勾留中の被告人Aは、平成25年5月17日、第一審において「懲役1年、未決勾留日数20日算入」との判決を宣告された。Aは控訴しない考えである。

 

[自然確定と刑の始期]

・上訴の提起期間は14日である(刑訴法373条、414条→373条)。上訴の提起期間は判決の宣告を受けた時点から進行するところ(刑訴法358条)、日・月・年で計算するものは初日を算入しない(刑訴法55条1項本文)。したがって、【例題】の控訴期間は判決宣告の翌日である平成25年5月18日を1日目として起算し、同日から14日目の5月31日が満了日となる。なお、満了日が「土日祝、年末年始」である場合は例外的に算入されずにその翌日が満了日となる(刑訴法55条3項本文)が、今回の平成25年5月31日は平日(金曜日)なので原則のまま。□コンメ刑訴89-90

・控訴期間満了日の翌日=判決確定日=受刑初日:控訴提起期間の満了日(5月31日)午後12時の経過(=6月1日午前0時の到来)をもって、宣告された判決は自然確定する。被告人が勾留されている場合は判決確定日(6月1日)から「懲役1年」の刑期が起算される(刑法23条1項:受刑初日算入)。□注釈刑159

・執行猶予期間の起算日:全部執行猶予期間の起算日も判決確定日である(刑法25条1項柱書)。他方、一部執行猶予期間の起算日は実刑部分期間の執行終了日である(刑法27条の2第2項)。

・在宅事件の場合:在宅の被告人が実刑判決を受けた場合、「判決確定」と「収容」までの間にタイムラグが生まれる(→《実刑判決の後》)。この「タイムラグ=拘禁されていない日数」は刑期に算入されないため(刑法23条2項)、身柄事件と比べて刑の始期が遅れる。□注釈刑159

 

[歴にしたがった刑期の計算]

・通常、有期刑は「●年●月」という単位(通例では偶数月)で宣告される。□原田51

・「月」「年」は歴法的計算法(not自然的計算法)にしたがうため(刑法22条)(なお、刑訴法55条2項も同様)、【例題】における懲役1年の期間は「判決確定日の平成25年6月1日から、暦の1年後である平成26年5月31日まで」となる。□注釈刑157

 

[未決勾留日数の通算と算入]

・自然確定の場合は、「上訴の提起期間中の未決勾留日数の全部」が法定未決勾留日数として本刑に通算される(刑訴法495条1項)。具体的には、上述の「上訴提訴期間の満了日が土日祝年末年始」とならない限り(刑訴法55条3項)、法定未決勾留日数は15日(=判決宣告日~満了日)となる。□注釈刑151,158

・さらに、未決勾留日数(勾留初日~判決宣告前日)のうちで判決主文において本刑に算入する日数が裁定されていれば、これも差し引く(刑法21条)。□注釈刑151,158

・【例題】では、「もともとの満了日である平成26年5月31日」から、「通算する法定未決勾留日数15日」と「算入する裁定未決勾留日数20日」を差し引くと、実際の満了日(刑執行終了日)は「平成26年4月26日」となる。

 

[参考:上訴権放棄と上訴取下げ]

・上訴提起期間中の放棄:上訴提起期間中であっても上訴権を放棄すると(刑訴法359条)、さらに上訴ができなくなる(刑訴法361条)。被告人に加えて検察官も上訴権を放棄すると、その時点(=放棄した日)をもって判決が確定する。ただし、確定日が前倒しになるだけ通算される未決勾留日数(刑訴法495条1項)も短くなるので、執行猶予事案を別にすれば実益は乏しい。□入門275、コンメ刑法48、情状A181-2

・上訴後の取下げ:一度は上訴をしたものの、被告人が上訴提起期間後にこれを取り下げた場合(刑訴法359条)、検察官控訴がされていなければ、やはり判決はその時点(=取下げをした日)をもって判決が確定する。判決の確定を遅らすために利用できるが(たぶん)、「上訴申立て~取下げ」までの未決勾留日数は刑期に通算されないので損。□入門275、コンメ刑法48、情状A173-4

 

[刑執行終了日と釈放日]

・満期釈放の場合:刑期は満了日(平成26年4月26日)の午後12時をもって終了する。もっとも、深夜に解放するのは実際的でないため、その釈放は「終了の日の翌日」に実施される(刑法24条2項)。この限りで受刑者に不利益であるものの、刑法24条1項が受刑初日を「丸1日」と算入とする点で受刑者にメリットを与えているためバランスが取れている、と解されている(ただし、未決勾留から刑に移行した者にこのメリットはない)。現行法は受刑者の不利益を小さくするため、「満了日翌日の午前中(4月27日正午)まで)に、できる限り速やかに釈放する」との制限を設けている(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律171条1号)。□逐条収容法890-7

・仮釈放の場合(→《仮釈放の実務》):仮釈放を許す処分の際に「釈放すべき日」が定められる(更生保護法39条2項)。この場合は「釈放すべき日の午前中」に釈放されることになる(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律171条1号)。□逐条収容法890-7

 

原田國男『量刑判断の実際〔第3版〕』[2008]

林眞琴・北村篤・名取俊也『逐条解説刑事収容施設法』[2010]

西田典之・山口厚・佐伯仁志編『注釈刑法第1巻』[2010]

三井誠・河原俊也・上野友慈・岡慎一編『新基本法コンメンタール刑事訴訟法〔第2版〕』[2014]

浅田和茂・井田良編『新基本法コンメンタール刑法〔第2版〕』[2017]

『情状弁護アドバンス(季刊刑事弁護増刊)』[2019]

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