刑事手続が在留資格に与える影響

2017-08-11 13:18:24 | 刑事手続・刑事政策

【例題】日本に居住する外国籍Aは、この度、●●の罪で検挙された。

(ポイント1)在留資格はあるか? 在留資格は何か? →関連記事《日本人とフィリピン人の日本国内での婚姻・離婚

(ポイント2)犯罪は特別法違反か? 一般の刑法犯(窃盗、傷害など)か?

(ポイント3)起訴猶予か? 訴追されて有罪刑が確定したか? 実刑か?

 

[起訴猶予の場合]

・特定の犯罪:不法就労活動関与(入管法24条3号の4)、在留カード等偽造関与(入管法24条3号の5)、売春関与(入管法24条4号ヌ)などは、有罪判決を待たずして退去強制事由となる。

・単純オーバーステイ:被疑事実が1回目の不法残留罪(入管法70条2項、1項1号2号[3年or/and300万円])のみならば、現在の運用では起訴猶予となる見込みが高い。もっとも、不法残留は当然ながら退去強制事由(入管法24条4号ロ)となるため、被疑者の身柄は起訴猶予処分と同時に入管に送られ、退去強制手続が開始される。2015(平成27)年における退去強制事由総数12,272件のうち、不法残留は9,982件を占める。□ビギナーズ182、よくわかる211-2

・その他の一般刑法犯:被疑事実が一般刑法犯などの場合、原則として「刑に処せられた(≒有罪の判決を受けた)」ことで初めて退去強制事由となる(入管法24条4号リなど)。したがって、起訴猶予をもって刑事手続が終了すれば、在留資格には影響しない。もっとも、在留取消事由(入管法22条の4第1項1〜10号)に該当する場合や、次回の在留期間更新許可申請時に「更新を適当と認めるに足りる相当の理由」(入管法21条3項)がないと判断されるリスクは残る。□ビギナーズ87-91,67-74

 

[公判請求された場合]

・薬物事犯:入管法は薬物事犯者に極めて厳しい。「覚せい剤取締法等の規定に違反して有罪の判決を受けた」ことは、在留資格(※特別永住者は別)を問わず、直ちに退去強制事由となる(入管法24条4号チ)。ここで「有罪の判決を受けた」とは刑が確定することを意味するため、在留資格のある外国人が薬物事犯の執行猶予判決を受けると、勾留中ならばいったん身柄が解放され、控訴期間の経過(=刑の確定)を待って入管から呼出しを受ける。□ビギナーズ192、コンメ258

・主要な刑法犯:殺人傷害、窃盗、住居侵入などならば、(1)在留資格が別表第1の上欄(留学、技能実習、興行、研修など)であり、かつ、(2)「懲役又は禁錮に処せられた」場合に、退去強制事由(入管法24条4号の2)となる。この規定につき、入管実務は「刑に処せられた=宣告刑が確定した」と解するので、たとえ執行猶予判決であっても有罪判決が確定すれば退去強制事由となる(執行猶予期間が経過しても救われない)。□コンメ257 

・さらに、「薬物事犯でなく、別表第2の在留資格の者」もまだ安心できない。罪名や在留資格を問わず、「1年超の実刑判決に処せられた」ことが退去強制事由になる(入管法24条4号リ)。さらに、起訴猶予事例と同じく更新許可申請が不許可になる事例も。

 

[退去・出国後に再上陸を目論む場合]

・薬物事犯で「刑に処せられたこと」は、無期限に上陸が拒否される(入管法5条1項5号)。

・罪名を問わず、過去に日本やその他の国で「1年以上の懲役禁固刑に処せられた」ことも無期限上陸拒否事由となる(入管法5条4号)。前刑が執行猶予判決であって猶予期間が経過していたとしても解消されないのが辛い。再上陸を目論む者は、前刑の段階で罰金や1年未満を狙いたい。□コンメ75

※【参考】刑法学において、執行猶予期間が経過した者は「刑に処せられたことがない」(刑法25条等)と扱われる。□注釈刑法(1)214〔金〕

・無期限上陸拒否事由をもつ者への救済策としては、上陸特別許可(12条1項3号)しかない。□ビギナーズ100-1

・以上の前科がなくても、次の者には各上陸拒否期間が設けられる:過去に出国命令制度を利用して出国した者は1年(入管法5条1項9号ニ)、過去に初回の退去強制を受けた者は5年(同ロ)、過去に2回以上の退去強制を受けた者は10年(同ハ)。□コンメ77

 

児玉晃一・関聡介・難波満編『コンメンタール出入国管理及び難民認定法2012』[2012]

外国人ローヤリングネットワーク編『外国人事件ビギナーズ』[2013]

山田鐐一・黒木忠正・高宅茂『よくわかる入管法〔第4版〕』[2017] ※高はハシゴ

入国管理局ウェブサイト

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