録音録画媒体と刑事証拠法

2019-11-30 00:10:26 | 刑事手続・刑事政策

【例題】被告人Aは、V女(当時10歳)に強いてわいせつな行為をしたとの公訴事実で訴追された。現在、Aは事件性を争っている。検察官は、次のものを証拠請求したいと考えている。

(1)Aが被疑者段階の際に捜査官から取調べを受けている様子を録音録画した媒体(DVD)。ここには、Aが「私(A)はVの性器をむりやり触りました」などと供述する様子が記録されている。

(2)Vが児童相談所職員と面談している様子を録音録画した媒体(DVD)。ここには、Vが「私(V)はAに性器をむりやり触られました」などと供述する様子が記録されている。

 

[伝聞証拠かつ機械的記録としてのDVD]

・「AがVの性器を触ったこと」を立証趣旨とすれば、DVDの記録は、原供述者(AやV)の供述過程が問題となる伝聞証拠そのものである。□堀江414

・DVDと類似するものとして、再現写真を実質証拠として使用する場合には、次の要件を要する(最二決平成17・9・27刑集59巻7号753頁);[1]刑訴法326条の同意が得られない場合には、 同法321条3項所定の要件(=撮影者の真正作成証言)を満たす必要がある。[2]再現者の供述の録取部分及び写真については、再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項2号ないし3号所定の、被告人である場合には同法322条1項所定の要件を満たす必要がある。[3]写真については、撮影、現像等の記録の過程が機械的操作によってなされることから前記各要件のうち再現者の署名押印は不要と解される。□石井193-4

・従前の支配的見解は、前掲最二決平成17・9・27が確認した「写真撮影の記録の過程は機械的に行われるので撮影者の心理プロセスを経ない(=非供述説)」とのロジックを録音や録画の場面にも用い、DVDを実質証拠として認めることを許容してきた。例えば、法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会において、井上正仁(委員)は「〔被告人の供述DVDは〕現行法でも証拠能力があるものなのですよ」(第10回会議議事録11-12頁)と断言している。□青木70-3、堀江414、酒巻522

 

[被告人供述DVDの実質証拠利用]

前掲最二決平成17・9・27を借用すれば、被告人Aの供述を録音録画した媒体を実質証拠として用いようとする場合、その伝聞例外の要件は、[1']録音録画した取調官の真正作成証言(刑訴法321条3号)、[2-1']記録されているA供述の不利益性(刑訴法322条1項本文)、[2-2']供述の任意性(刑訴法319条1項or322条1項ただし書)、となろう。□後藤122

・もっとも、以上の議論を前提にしたとしても、当該供述DVDの取調べの必要性が肯定できない事案は当然にある。原審によるその判断を肯定した東京高判平成28・8・10高刑集69巻1号4頁は、供述DVDを実質証拠として用いることの危険性を指摘した。□後藤124-5、岡49

 

[被害者供述DVDの実質証拠利用]

・被害者Vの供述を録音録画した媒体を実質証拠として用いようとする場合の伝聞例外要件は、その[1']録音録画した児童相談所職員の真正作成証言(刑訴法321条3号)、[2-1']原供述者Vの供述不能(刑訴法321条1項3号本文)、[2-2']当該供述による犯罪事実の証明の不可欠性(刑訴法321条1項3号本文)、[2-3']絶対的特信情況(刑訴法321条1項3号ただし書)、となろう。

・なお、司法面接のインタビュアーが検察官であれば、刑訴法321条1項2号が適用されよう。□緑b38

・児童虐待事案での否認事件において、司法面接の様子を記録したDVDがこれら要件(特に供述不能要件)を満たすかが問題となろう。□緑a316-8

 

石井一正『刑事実務証拠法〔第5版〕』[2011]

酒巻匡『刑事訴訟法』[2015]

青木孝之「取調べを録音・録画した記録媒体の実質証拠利用」慶應法学31号61頁[2015]

緑大輔「司法面接を証拠として用いる方法」仲真紀子編著『子どもへの司法面接ー考え方・進め方とトレーニング』[2016a]

緑大輔「司法面接結果の公判廷への顕出の可能性」法と心理16巻1号[2016b]

岡慎一「取調べの録音録画記録媒体の証拠利用」季刊刑事弁護91号[2017]

宇藤崇・松田岳士・堀江慎司『刑事訴訟法〔第2版〕』[2018]

後藤昭『伝聞法則に強くなる』[2019]

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