仮釈放の実務

2017-09-09 23:59:59 | 刑事手続・刑事政策

2023-02-21追記。統計を最新に改めるなどした。

刑法[抄]

(仮釈放)

第二十八条 懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、有期刑についてはその刑期の三分の一を、無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。

(仮釈放の取消し等)

第二十九条 次に掲げる場合においては、仮釈放の処分を取り消すことができる。
一 仮釈放中に更に罪を犯し、罰金以上の刑に処せられたとき。
二 仮釈放前に犯した他の罪について罰金以上の刑に処せられたとき。
三 仮釈放前に他の罪について罰金以上の刑に処せられた者に対し、その刑の執行をすべきとき。
四 仮釈放中に遵守すべき事項を遵守しなかったとき。

2 刑の一部の執行猶予の言渡しを受け、その刑について仮釈放の処分を受けた場合において、当該仮釈放中に当該執行猶予の言渡しを取り消されたときは、その処分は、効力を失う。

3 仮釈放の処分を取り消したとき、又は前項の規定により仮釈放の処分が効力を失ったときは、釈放中の日数は、刑期に算入しない。

更生保護法[抄]

(仮釈放及び仮出場を許す処分)

第三十九条 刑法第二十八条の規定による仮釈放を許す処分及び同法第三十条の規定による仮出場を許す処分は、地方委員会の決定をもってするものとする。※第2項以降は略

犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則[抄]

(仮釈放許可の基準)

第二十八条 法第三十九条第一項に規定する仮釈放を許す処分は、懲役又は禁錮の刑の執行のため刑事施設又は少年院に収容されている者について、悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、かつ、保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとする。ただし、社会の感情がこれを是認すると認められないときは、この限りでない。

 

[仮釈放の意義]

・刑法28条が規定する狭義の仮釈放は、「刑事施設に収容されている受刑者を、収容期間に満了する前に条件を付して釈放すること」をいう。□川出金232

・仮釈放の目的につき、旧犯罪者予防更生法(昭和24年法律142号)は「更生の措置」として規定されていた。現行の更生保護法(平成19年法律88号)も同様の理解を踏襲している(3条)。□川出金232-3

・仮釈放は自由刑の執行の一形態と解される(通説)。仮釈放中も刑期が進行し(刑法29条3項参照)、残刑期間が経過したときは刑の執行が終了する。□川出金233

 

[仮釈放の要件]

・形式的要件:有期刑は刑期の3分の1、無期刑は10年の経過を要する(刑法28条)(なお、少年受刑者の形式的要件は少年法58条1項)。実務では、この要件を満たす執行済刑期末日を「応当日」と呼称する。□川出金233-4

・実質的要件:「改悛の状」を要する(刑法28条)。ここでいう「状」とは、本人が悔悟しているという内心的状態のみならず、再犯することなく社会人としての自立生活が可能であるという客観的状況を意味する。法務省令である社会内処遇規則(28条)は、「仮釈放許可の基準」として、[1]悔悟の情及び改善更生の意欲、[2]再犯のおそれがない、[3]保護観察に付することが改善更生のために相当、[4]社会の感情が是認する、と具体化している(※)。さらにその運用を定めた依命通達として「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する事務の運用について」がある。□川出234-5、刑弁B249

※2023-02-21:旧稿では「委任の法理を逸脱していないか(私見)」としていた。しかし、刑法の規定は「できる規定」にすぎないところ、法務省令をもって地方委員会の裁量行使の基準を示しているにすぎない(むしろ裁量統制の密度を高めており望ましい)、と考えるべきか。

 

[仮釈放の手続(1)]

・矯正側(刑事施設)の申出:刑事施設の長は、仮釈放の要件(応当日が経過、かつ、社会内処遇規則が定める基準に該当)を満たすと認めるときは、地方更生保護委員会(更生保護法16条が「地方委員会」と略称する)に対し、仮釈放の申出をしなければならない(更生保護法34条1項)。このように、仮釈放の審理の開始は施設長の判断に委ねられており、受刑者本人には仮釈放申請権はない。なお、明文の要求はないにもかかわらず、「帰住先の存在」が審理開始の当然の要件になっていると解かれる。□川出金235-6、刑弁B249

・更生保護側(地方委員会)の審理:地方委員会は3人の委員をもって構成する合議体にて決定等を行い(更生保護法23条1項)、この合議体は仮釈放に係る調査を委員or保護観察官に行わせることができる(更生保護法23条3項)。更生保護実務では、まず保護観察官が調査を実施して「仮釈放等調査票」を地方更生保護委員会に提出する。さらに、指名された委員が審理対象者(当該受刑者)との面接等を行って「仮釈放等審理調査票」を作成し(更生保護法37条1項)、合議体での評議をする。□川出金236

・法務省が運用する「被害者等通知制度」を利用すれば、被害者等は、あらかじめ検察庁に申出をすることにより、加害者に関する事項の通知を受けることができる(被害者等通知制度実施要領第3,(5))。この通知を契機として、被害者等は、地方委員会に対して、「審理対象者の仮釈放に関する意見及び被害に関する心情」を述べたい旨の申出が可能(更生保護法38条1項)。申出の仕方は愛知県弁護士会ウェブサイトを参照。

 

[仮釈放の手続(2)]

・地方委員会の合議体の過半数が仮釈放を許すとの判断をしたときは、決定をもって仮釈放を許す処分がなされる(更生保護法39条1項)。釈放すべき日(更生保護法39条2項)、居住すべき住居の特定(更生保護法39条3項)も定められる。仮釈放を許された者は、仮釈放期間(=残刑期間)中、当然に保護観察に付されるから(更生保護法40条)、一般遵守事項を遵守する義務を負う(更生保護法50条1項)。合議体は、決定をもって特別遵守事項を定めることもできる(更生保護法52条2項)。□川出金237

・被害者等通知制度では、仮釈放された年月日も通知される。さらにこの通知にとどまらず、検察官が必要と認めれば、[1]受刑者の仮釈放直前における釈放予定時期、[2]仮釈放された後の住所地(※特に必要があるときは)、も通知される(再被害防止のための通知制度)。

・合議体が仮釈放を許さない旨の判断をした場合でも、「審理等経過記録」にその旨が記載されるにとどまる(「仮釈放不許可決定」はない)。したがって、審査対象者は不服申立権がない(更生保護法92条参照)。□川出237-8

 

[仮釈放の手続(3)]□川出金238-9

・釈放前指導(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律85条1項2号)

・帰住予定地の生活環境の調整(更生保護法82条)

 

[仮釈放の最近の運用]→犯罪白書

・有期受刑者の6割が満期前仮釈放:出所受刑者に占める仮釈放者の率(仮釈放率)は、2011年(平成23年)に50%を超えて以降は上昇しており、2021年(令和3年)は60.9%となっている(その余は満期釈放者)。□川出金239-41

・仮釈放者の大半は80%以上執行:仮釈放者における執行すべき刑期に対する出所までの執行期間の比率(刑の執行率)をみると、最近では70%未満で仮釈放となる者はほとんどなく、仮釈放者のほとんどが執行率80%以上(仮釈放者のうちの最大層が執行率80~90%)の刑期を消化している。特に刑期10年超で仮釈放を受けた者の執行率は極めて高く、2021年(令和3年)では仮釈放者の大半が刑期の90%以上の執行を終えている。□川出金241-2 

無期刑受刑者の仮釈放者は、最近では年間4~15件にとどまっている。うち、刑の執行期間が30年以内の者は1名のみであり、残りの仮釈放者は30年超の執行を終えている。無期懲役刑の実際は終身刑化しているといわれる。□刑弁B249

 

[仮釈放の取消し]→《2度目の有罪判決を受けるとき

・形式的要件:刑法29条1項は4つの要件を設けるが、現実に使われる大半は「仮釈放中の再犯による罰金刑以上の確定(1号)」と「仮釈放中の遵守事項違反(4号)」である。仮釈放中の再犯であっても「残刑期間中の新たな刑の確定」に至らなければ1号を満たさないので、この場合も4号で処理される。□川出金242

・実質的要件:形式的要件を具備しても、仮釈放を取り消すか否かは地方委員会の裁量に委ねられている。仮釈放期間がそもそも短いことも理由であろうが、仮釈放者の取消率は数%にすぎない。□川出金242-3

・手続:刑法29条1項4号を理由とする仮釈放の手続は「保護観察所長の申出→地方委員会による決定」との流れとなる(更生保護法75条2項、1項)。運用では書面審理が中心とされ、本人との面接をする例は少ない。□川出金243-4

・効果:仮釈放が取り消された場合、釈放中の日数は刑期に参入されないから(刑法29条2項)、「仮釈放による釈放の日~仮釈放の取消による刑事施設への収容日の前日」を含む残刑期間が改めて執行される。これは「仮釈放中も刑期が進行する」との原則に対する例外である。□川出金244、新コンメ72-3〔末道康之〕

 

川出敏裕・金光旭『刑事政策』[2012]★

『季刊刑事弁護増刊 刑事弁護ビギナーズver2』[2014]

浅田和茂・井田良編『新基本法コンメンタール刑法〔第2版〕』[2017]

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