解散した会社を当事者とする民事訴訟

2023-06-05 18:13:11 | 民事手続法

【例題】Xは、所有する甲土地を売却しようと考えている。甲土地には株式会社Yのために設定された抵当権が登記されているが、Xが商業登記を確認したところ、既にY社は解散していた。

 

[株式会社の解散:通常の解散]

・解散事由:株式会社の解散事由は会社法471条が列挙する。主たるものは、株主総会の特別決議による解散決議(会社法471条3号、309条2項11号)、合併(4号)、破産手続開始決定(5号)などである。解散により、当該会社は、原則として(※)清算手続に入る(会社法475条1項)。□神田331

※合併の場合は、清算は行われない(会社法475条1項)。吸収合併ならば解散した消滅会社が消滅するし、新設合併ならば解散した当事会社が消滅する。□神田371

※破産手続開始決定の場合も、破産手続内で清算がされるため、会社法規定の清算手続は行われない(会社法475条1号)。□神田331

・通常清算手続:清算手続に入った株式会社は「清算株式会社」と呼称され(会社法476条)、清算人によって、「現務の結了(=継続中の事務の完結)→債権の取立て&債務の弁済(会社法499条~503条)→残余財産の分配(会社法504条~506条)」が行われる(会社法481条各号)。

・機関の処遇:解散によって取締役は地位を失う(清算人が取って代わる)。これに対し、株主総会や監査役は継続する。□神田333

・清算人の就任:解散時の取締役は法定清算人となり(会社法478条1項1号)、代表取締役がいれば代表清算人となる(会社法483条4項)。定款や株主総会決議によって別の者を(代表)清算人に選任することもできる(会社法478条1項2号3号)。清算人の地位は取締役とほぼ同じである(会社法491条による規定の準用)。□神田333

・商業登記[1]:解散した時から2週間以内に「解散の登記」を要する(会社法926条)。通常は、代表清算人が申請人となり、1通の申請書で「株式会社解散及び清算人選任登記申請」を行う。取締役等に関する登記は抹消される(商業登記規則72条1項1号:監査役は抹消されない)。履歴事項証明書の記載事項は「請求3年前の1月1日~請求日の間に抹消された事項」に限るから(商業登記規則30条1項2号)、3年以上前に解散した登記の最後の取締役を知るには、閉鎖事項証明書(商業登記規則30条1項3号)の取得を要する場合がある。

・商業登記[2]:清算結了の登記がされると登記記録が閉鎖されるのが原則だが(商業登記規則80条2項、1項4号)、清算結了がされなくても解散登記から10年が経過すると閉鎖されることがある(商業登記規則81条1項1号)。

 

[株式会社の解散:休眠会社のみなし解散

・みなし解散の要件:12年間にわたって一度も登記をしていない株式会社(休眠会社)は、法務大臣による官報公告から2か月経過日をもって解散したものとみなされる(会社法472条1項本文)。□神田332-333

・商業登記:みなし解散により、職権によって解散の登記がされる(商業登記法72条)。清算人の登記はなされないが、実体法上は、通常の解散と同様に、みなし解散時の取締役が法定清算人となっている(会社法478条1項1号、483条4項)。上述の通常解散と同様に、みなし解散から3年以上が経過している場合、最後の取締役を知るため閉鎖事項証明書を見る必要がある。

 

[清算株式会社の訴訟行為]→《複数の代表取締役がいる会社では誰が訴訟行為をするか》

・代表清算人が存在する場合は、同人が清算株式会社を代表し(会社法483条1項ただし書)、代表取締役と同様に、清算株式会社の業務に関する一切の裁判上・裁判外の行為をする権限を有する(会社法483条6項、349条4項5項)。□コンメ493

・代表清算人が存在しない場合は、各清算人が清算株式会社を代表する(会社法483条1項本文)。

・平時と同様に、民事訴訟における法人の代表者の地位権能は、実体法の「訴訟無能力者の法定代理」の規律にしたがうので(民訴法37条、28条)、清算株式会社においては(代表)清算人が当該会社の訴訟行為を行う。□コンメ491,493

・受送達者=代表清算人:法人が当事者となる場合の受送達者(送達名宛人)は代表者なので(民訴法37条、102条1項)、清算株式会社の受送達者は(代表)清算人である。□講義案11-2,16

・送達場所:裁判実務では、法人が当事者となる場合、条文の原則例外を逆転させ、「まずは法人自身の営業所等を送達場所として送達を試みる(民訴法103条1項ただし書)→それが不奏功ならば代表者の住所を送達場所として再度送達を試みる(民訴法103条1項本文)」という運用をしている。この平時の運用にならえば、まずは清算株式会社の最後の本店所在地を送達場所とし、奏功しなければ、改めて「送達を受けるべき者=代表清算人」の現住所を送達場所として送達を試みることになろう(たぶん)。□講義案18

 

裁判所職員総合研修所監修『民事実務講義案2〔3訂版2刷〕』[2008]

神田秀樹『会社法〔第22版〕』[2020]

秋山幹男・伊藤眞・垣内秀介・加藤新太郎・高田裕成・福田剛久・山本和彦『コンメンタール民事訴訟法1〔第3版〕』[2021]

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