原告欠席の実務

2023-03-18 11:37:31 | 民事手続法

【例題】Xは、本人訴訟としてYに対する損害賠償請求訴訟を提起した。Yに訴状送達と期日への呼出しがなされたが、Xは第1回口頭弁論期日に出廷しない見込みである。

《被告欠席の実務》

 

[当事者双方が欠席した場合]

・休止:民訴法263条前段は「①当事者双方の口頭弁論期日(弁論準備手続期日)への不出頭(申述前の退席も含む)+②そこから1か月以内の期日指定申立てなし」を要件として、訴えの取下げを擬制する。実務では、要件①の事態が生じると「休止」とする。□コンメ(5)301

・取下げ擬制:休止を解消したい原告から「翌日から起算して1か月以内」に期日指定の申立てがあれば、裁判長は改めて口頭弁論期日を指定する(民訴法93条1項)。しかし、前回期日から連続して2回目の期日でも「当事者双方の口頭弁論期日等への不出頭(申述前の退席も含む)」があれば、訴えを取り下げたとみなされる(民訴法263条後段)。□コンメ(6)306

 

[被告のみが出頭した場合(1):原告側の攻撃防御方法の処理]

・第1回期日の主張陳述は擬制可能:「最初にすべき口頭弁論期日(※)」に被告のみが出頭した場合、原告から提出されている訴状や準備書面を陳述擬制させることができる(民訴法158条)。

※「弁論が事実上なされる第1回目の口頭弁論期日」を意味する。指定された第1回口頭弁論期日が延期された場合、つづく第2回口頭弁論期日がこれに該当する。□コンメ(3)396

・続行期日の主張陳述は不可:他方、続行期日では「欠席した原告側主張書面の擬制陳述」はできない(民訴法158条参照)。なお、簡裁事件ではこの例外が認められており、続行期日でも擬制陳述が可(民訴法277条)。

・書証申出は不可:期日前に「甲号証としたい文書の写し」が提出されている場合でも(民訴規則137条1項)、原告本人が期日にいないのだから、期日上での「文書の提出」ができず、つまり書証(甲号証)の申出はできない(民訴法219条)。□コンメ(4)82、コンメ(3)398

 

[被告のみが出頭した場合(2):被告側の攻撃防御方法の処理]

・送達済みの主張陳述は可能:原告欠席の期日において被告が事実の主張をするためには、あらかじめ、当該主張を記載した準備書面を原告に送達しておく必要がある(民訴法161条3項)。

・未送達の主張陳述の可否:他方で、原告への送達未了の主張書面の陳述や、期日席上での口頭での陳述は、主張内容で可否が決まる。特に、期日直前に原告主張が提出された場合には、期日の席上での口頭陳述が求められることがあるだろう。

[1]請求の趣旨に対する答弁:可能。□コンメ(3)457

[2]原告事実主張への否認:単純否認は可能。積極否認の可否は争いあり。□コンメ(3)457

[3]法律上の意見:事実を伴わない意見は可能。これに対し「事実を伴う攻撃防御方法(対抗要件の欠缺など)」は不可。□コンメ(3)457

[4]訴訟要件の存否に関する主張:可能。□コンメ(3)457

・送付済みの書証申出は可能:被告が書証(乙号証)の取調べを求めるためには、①時間的余裕をもって「乙号証としたい文書の写し」「証拠説明書」を事前提出しておく(民訴規則137条1項本文)、②裁判所書記官から原告へ上記写しなどが送付される(民訴規則47条2項3項)、との過程を経ておく必要がある。これを省いて原告欠席の期日に書証(乙号証)の申出を試みても、民訴法161条3項によって封じられる(※)。□コンメ(3)458

※同条は「相手方欠席の口頭弁論では、相手方に送達された準備書面に記載した事実でなければ、主張できない」との文言である。「証拠の申出=攻撃防御方法の提出=準備書面の記載事項」との理解から、書証申出も同項の規律を受ける。□コンメ(3)458

※これに対し、最三判昭和27年6月17日民集6巻6号595頁は、「控訴審が、準備書面に記載がなく写しの送達もされていない書証(被控訴人提出)について、控訴人不出頭の期日で取り調べて控訴人を敗訴させた事案」において、「欠席した控訴人が当該書証が提出されることを十分に予想できた」との留保を付して適法とした。□コンメ(3)457

 

[被告のみが出頭した場合(3):結審の可否]

・唯一出頭した被告が結審を求め(民訴法244条ただし書)、かつ、「審理の現状及び当事者の訴訟追行の状況を考慮して相当」と認められれば、裁判所は終局判決をすることができる(民訴法244条本文)。244条は243条の特則と位置付けられ、受訴裁判所の裁量の余地をより大きくしていると解される。□コンメ(5)27-8

 

[参考:控訴審における控訴人の欠席]

・控訴審の訴訟手続には、原則として「第一審の訴訟手続の規定」が準用される(民訴法297条本文)。なお、「控訴の取下げ」については個別の規定がある(民訴法292条)。

・控訴審の第1回口頭弁論期日に控訴人が欠席した場合、被控訴人は次のいずれかを選択することになる。

[1]被控訴人も欠席する場合:第一審と同様に、「休止(※)→1か月に控訴取下げ擬制」となる(民訴法292条2項、263条)。控訴が取り下げられたことにより、当初から控訴が提起されなかったものとみなされて控訴審の手続は当然終了する(民訴法292条、262条1項)。この時点で控訴期間は経過しているはずなので、控訴期間が経過した時に第一審判決が確定する。□コンメ(6)117,116,109、佐藤117-8

※裁判所の裁量により、あえて「休止」とせずに「延期」とする場合もある。□佐藤118

[2]被控訴人のみ出席する場合:第一審と同様に、「控訴審で最初にすべき口頭弁論期日」に被控訴人のみが出頭した場合、控訴人から提出されている控訴状などを陳述擬制させることができる(民訴法297条本文、158条)。この場合の「第一審口頭弁論の結果陳述(民訴法296条2項)」は、出席した被控訴人が当事者双方に係る陳述をする(最三判昭和33年7月22日民集第12巻12号1817頁)。被控訴人としては、即日の弁論終結を求めることになろう(たぶん)。□コンメ(6)168,149、佐藤119

 

秋山幹男・伊藤眞・垣内秀介・加藤新太郎・高田裕成・福田剛久・山本和彦『コンメンタール民事訴訟法3〔第2版〕』[2018]

秋山幹男・伊藤眞・加藤新太郎・高田裕成・福田剛久・山本和彦『コンメンタール民事訴訟法6』[2018]

秋山幹男・伊藤眞・垣内秀介・加藤新太郎・高田裕成・福田剛久・山本和彦『コンメンタール民事訴訟法4〔第2版〕』[2019]

秋山幹男・伊藤眞・垣内秀介・加藤新太郎・日下部真治・高田裕成・福田剛久・山本和彦『コンメンタール民事訴訟法5〔第2版〕』[2022]

佐藤陽一『実践講座 民事控訴審』[2023]

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