実は1年ほど前から、とろとろと清代を舞台にした歴史小説『紫禁城の月 大清相国 清の宰相 陳廷敬』の翻訳に関わっており、
出版されることになった暁には、このブログでもお知らせできたらいいなあ、などと思っています。
しかし今のところ、まだ引き続きとろとろと苦しみながら、訳を続けております。
さて。
訳の調べものをしている過程で、清代の轎(かご)について、興味が湧きました。
本書の中に、轎に乗るシーンが何度も出てくるからです。
清代も官僚は京官四品以上は全員「早朝」(朝政)への出席が義務付けられていました。
つまり皇帝を中心とした、朝の政務の質疑応答ですね。
清代、京城の内城に住めたのは、満人を中心とした八旗人だけですから、
科挙に合格して全国から集まってきた漢官は皆、正陽門より南の南城に住んでいたわけです。
朝政の開始時間は、大体朝六時ごろ。
朝政に間に合うため、朝三時、四時には起き出し(ひえええ)、
正陽門が開く朝五時前には、門前に長い轎の行列ができていた---。
清初、康熙年間の高官・王士禎の詩にこんな詩があるそうです・・・。
「行到前門門未啓 前門まで来たが、門が開いていない。
安坐轎中喫檳榔 安らかに轎の中に座り、ビンロウを喫す。」
ビンロウを喫すとは、現代でいえば、
ガムを噛んだり、タバコで一服するような感覚ですかねえ。
朝の通勤ラッシュ時間、正陽門前で轎が大渋滞を起こしていた--。
いつの時代もよく似たようなものなのですなあ。
白塔寺
ところで、ビンロウの話が出てきたので、
少し轎(かご)から逸れて、ビンロウとは何ぞや、という気になる点をはっきりさせてから
次に進みたいと思う。
ウィキペディア「ビンロウ(檳榔)」より。
「檳榔子(ビンロウし)を細く切ったもの、あるいはすり潰したものを、キンマ(コショウ科の植物)の葉にくるみ、
少量の石灰と一緒に噛む。場合によってはタバコを混ぜることもある。
しばらく噛んでいると、アルカロイドを含む種子の成分と石灰、
唾液の混ざった鮮やかな赤や黄色い汁が口中に溜まる。
この赤い唾液は飲み込むと胃を痛める原因になるので吐き出すのが一般的である。
ビンロウの習慣がある地域では、道路上に赤い吐き出した跡がみられる。
しばらくすると軽い興奮・酩酊感が得られるが、煙草と同じように慣れてしまうと感覚は鈍る。
そして最後にガムのように噛み残った繊維質は吐き出す。
檳榔子にはアレコリン(arecoline)というアルカロイドが含まれており、
タバコのニコチンと同様の作用(興奮、刺激、食欲の抑制など)を引き起こすとされる。
石灰はこのアルカロイドをよく抽出するために加える。」
ビンロウを喫する習慣は、一般に東南アジア、台湾、インドなどの熱帯/亜熱帯地域で見られ、
ビンロウの木自体が、気温がかなり暑くないと自生しないものらしい。
北京は農耕北限線を越えたユーラシアのステップ草原の南端にあり、
そんなものが生えているはずもなく、ビンロウを食す習慣は一般的とは言えない。
ポピュラーなのは、最北端で湖南/湖北あたりまでかなあ、という印象である。
それでも現代の北京でもタバコ屋さんや新聞スタンドなどに「檳榔」と書かれた張り紙を時々見かけるし、
北京でまったく手に入らないわけではない。
私の中国人男性の知り合い34歳、テレビ関係者、こてこての東北男は、ビンロウのヘビーイーターで
「ビンロウを食べ過ぎて、口の中が切れてんだ。辛い物はやめてくれ。」
などとしょっちゅう言っている。
そういう生まれと育ちにまったく関係なく食す人もいるらしい。
ちなみに前述の詩を書いた王士禎も出身は山東省。
ビンロウ喫しの盛んな地域とは言えない。
黄河以北の華北地域で、どれくらいビンロウ喫しが盛んだったのか、というテーマは、
別途、考察してみたい面白いテーマですなああ。
再び白塔寺
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出版されることになった暁には、このブログでもお知らせできたらいいなあ、などと思っています。
しかし今のところ、まだ引き続きとろとろと苦しみながら、訳を続けております。
さて。
訳の調べものをしている過程で、清代の轎(かご)について、興味が湧きました。
本書の中に、轎に乗るシーンが何度も出てくるからです。
清代も官僚は京官四品以上は全員「早朝」(朝政)への出席が義務付けられていました。
つまり皇帝を中心とした、朝の政務の質疑応答ですね。
清代、京城の内城に住めたのは、満人を中心とした八旗人だけですから、
科挙に合格して全国から集まってきた漢官は皆、正陽門より南の南城に住んでいたわけです。
朝政の開始時間は、大体朝六時ごろ。
朝政に間に合うため、朝三時、四時には起き出し(ひえええ)、
正陽門が開く朝五時前には、門前に長い轎の行列ができていた---。
清初、康熙年間の高官・王士禎の詩にこんな詩があるそうです・・・。
「行到前門門未啓 前門まで来たが、門が開いていない。
安坐轎中喫檳榔 安らかに轎の中に座り、ビンロウを喫す。」
ビンロウを喫すとは、現代でいえば、
ガムを噛んだり、タバコで一服するような感覚ですかねえ。
朝の通勤ラッシュ時間、正陽門前で轎が大渋滞を起こしていた--。
いつの時代もよく似たようなものなのですなあ。
白塔寺
ところで、ビンロウの話が出てきたので、
少し轎(かご)から逸れて、ビンロウとは何ぞや、という気になる点をはっきりさせてから
次に進みたいと思う。
ウィキペディア「ビンロウ(檳榔)」より。
「檳榔子(ビンロウし)を細く切ったもの、あるいはすり潰したものを、キンマ(コショウ科の植物)の葉にくるみ、
少量の石灰と一緒に噛む。場合によってはタバコを混ぜることもある。
しばらく噛んでいると、アルカロイドを含む種子の成分と石灰、
唾液の混ざった鮮やかな赤や黄色い汁が口中に溜まる。
この赤い唾液は飲み込むと胃を痛める原因になるので吐き出すのが一般的である。
ビンロウの習慣がある地域では、道路上に赤い吐き出した跡がみられる。
しばらくすると軽い興奮・酩酊感が得られるが、煙草と同じように慣れてしまうと感覚は鈍る。
そして最後にガムのように噛み残った繊維質は吐き出す。
檳榔子にはアレコリン(arecoline)というアルカロイドが含まれており、
タバコのニコチンと同様の作用(興奮、刺激、食欲の抑制など)を引き起こすとされる。
石灰はこのアルカロイドをよく抽出するために加える。」
ビンロウを喫する習慣は、一般に東南アジア、台湾、インドなどの熱帯/亜熱帯地域で見られ、
ビンロウの木自体が、気温がかなり暑くないと自生しないものらしい。
北京は農耕北限線を越えたユーラシアのステップ草原の南端にあり、
そんなものが生えているはずもなく、ビンロウを食す習慣は一般的とは言えない。
ポピュラーなのは、最北端で湖南/湖北あたりまでかなあ、という印象である。
それでも現代の北京でもタバコ屋さんや新聞スタンドなどに「檳榔」と書かれた張り紙を時々見かけるし、
北京でまったく手に入らないわけではない。
私の中国人男性の知り合い34歳、テレビ関係者、こてこての東北男は、ビンロウのヘビーイーターで
「ビンロウを食べ過ぎて、口の中が切れてんだ。辛い物はやめてくれ。」
などとしょっちゅう言っている。
そういう生まれと育ちにまったく関係なく食す人もいるらしい。
ちなみに前述の詩を書いた王士禎も出身は山東省。
ビンロウ喫しの盛んな地域とは言えない。
黄河以北の華北地域で、どれくらいビンロウ喫しが盛んだったのか、というテーマは、
別途、考察してみたい面白いテーマですなああ。
再び白塔寺
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ありがとうございますー。