鼓楼のあたりで古城の雰囲気に浸った後は、北の城壁の上にたつ玉皇閣を目指し、
一路、北へ向かいます。
土っぽい道を進んでいきます。西のほうには、財神廟があるらしいのですが、今回は残念ながらいけず。
今度のための楽しみに取っておきましょうー。
はるか遠くに見えてきました。玉皇閣は北の城壁の上にあり、地形はその高さまでどんどん坂道で続いています。
城壁の上まで車で乗りつける形になります。
玉皇閣に到着。明の洪武十年(1377)の創建。
又の名を「靖辺楼」。辺境を靖(やす)らかにする楼なり。
蔚州は、明代でいえば、モンゴルとの最前線ではなく、やや内側に引っ込んだ位置にある。
大同から宣府、懐来のラインが「外辺」防衛ラインだとすれば、そこが突破されてしまったときに
さらに守るための「内辺」防衛ラインに位置する。
やや南側に東西の走る寧武、広武、老営から続くライン上だ。
とにかく敵は北からやってくる。
その敵を威嚇するような荘厳な建造物を建て、さらに望遠の役割も果たそうとしたものだろう。
なんと左側(東)を見てびっくりである。なだらかな下り坂の向こう側には、真新しい城壁が!
数年前に来たときにはなかったものである。
観光のために壊した城壁を立て直す作業を行っているらしい。
東側から中に入ると、まずは前庭がある。
実は、知り合いの紹介でここの門番という御年70歳のじいさまにご挨拶をした。
この一番右の人は、まったく関係ない人なのだが、まんなかの娘のような年の女性は、じいさまの「彼女」である。
彼女のお年は40すぎ。実に30歳近く年下の女性をゲットした「ちょい悪」じいさまなのだ。
「いい人」オーラを全身から出すじいさまは、見かけによらずやるもんだ、と感心していると、どうやら事情があるらしい。
じいさまと彼女がいっしょになったのは8年前。じいさまは60代前半。女性は30代。
じいさまはそれまでずっと独身だったという。
中国で男性が生涯、独身で通してきたというのは、
よっぽど耐えられないほどの欠点があるか、貧乏すぎるかのどちらかでしかない。
じいさまは五体満足だし、端正なる申し分のないお顔立ちだし、人に不快感を与えるような言動もない。
ということは、「貧乏」以外に特に欠点がなかった、と判断するしかない。
生活の糧にできるような農地がなく、がつがつとお金を稼げるほどの機敏さもなかったのだろう。
今の「仏顔」を見ると、若い頃は自ら進んでチャンスをつかんで行くようなしたたかさがなかったことが想像できる。
じいさまがお寺の門番となったのは、10年ほど前という。
つまりは市の文化局の立派な職員であり、毎月の給料を受け取ることのできる安定収入を得た。
おそらく若い頃は、エンジンのかかりの遅さのために人後に遅れをとって来たキャラが、
年とともに誠実さ、正直さ、人柄のよさがにじみ出る人相に熟成されていき、門番にふさわしい人選として評価されるようになったのだろう。
じいさまの月給は、月々600-700元くらいという。
その2年後にはこの彼女ができているのだから、どうやら30歳年下女性のゲットは、この600元の安定収入と関係あるらしい。
しかしまあ。。。
今どきの北京で600元なんて、家賃の足しにもなる値段ではない。
住み込みのお手伝いさんなら、月3000元が相場になってきたし、
2DKのアパートを4人でシェアし、2人一部屋で暮らして家賃がやっと800-1000元程度に納まる。
友人
しゃおりんさんのブログでも去年の北京の労働者の平均月給は4672元になったという記事があった。
わずか300km先から来た我々にとっては、「たった600元の安定収入を得た」だけで
一生嫁の来手のなかった男が、瞬く間に「モテ男」になるとは、おとぎ話のようである。
彼女の前夫は炭坑夫だったが、炭坑事故で死んでしまい、
お金もない、働くあてもない、年老いた母親一人を抱えているところをじいさまといっしょになったのだという。
ところがいっしょになってみると、女性は気が強いわ、給料はまるごと巻き上げられるわ、で、
じいさま、どうやらしまったと思ったらしい。
そこでほかの女性と浮気をし、乗り換えようと思ったところを彼女に現場を差し押さえられ、
さんざん暴れまわられた挙句、部屋の中の持ち物をすべて焼き捨てられたという。
それはまだしも、何よりもじいさまが恐れたのは、二人が実は役所の上司に引き合わされているためなのだ。
彼女は上司を味方に引き入れて、じいさまのあることないことを言い立てて、
この職を失わせることができる立場にある。
それにしてもまあ。みごとな「もてっぷり」ではないか。二人の女性を同時に抱えるとは。
どうやら女性には、困らない立場になってしまったようだ。
そして彼女もせっかく捕まえたじいさまを誰かほかの女に渡す気など毛頭ないのだ。
この町で公務員というのが、いかに「狭き門」であるかがわかる。
そしてわずか600元であっても、一生続く安定収入があることが、いかに大きなことか。
やはり生き馬の目を抜く北京から来ると、童話を聞いているような気分になる。
しかしまあ。じいさまが「しあわせオーラ」と「不幸オーラ」のどちらを出しているか、といわれれば、
やはり「しあわせオーラ」ではないだろうか。
がっちりと尻の下に引かれても、遅く訪れた春を存外楽しんでいるのではないだろうか。
二人の「愛の巣」。お寺の境内で暮らす。
室内には水道口と水がめがある。おそらく水の供給は時間制なのだろう。
心あたたまる植木の窓辺。
まだ肌寒いこの季節。この地方ではほとんどがまだストーブに火をいれていた。
ストーブの煙突にタオルかけを取り付ける。アイデアですなー。
さて。
二人の愛の物語に心もあったまったところで、先へ進みまっす。
前庭からさらに上へ上っていく。
上って東を見ると、今建設中の東側の城壁が見える。まだできたてほやほや。
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