自 遊 想

ジャンルを特定しないで、その日その日に思ったことを徒然なるままに記しています。

新年にあたって『きけわだつみのこえ』

2010年01月02日 | Weblog
 太平洋戦争下の軍隊という特殊な環境で、国家のために否応無く「死ぬ」運命に投げ込まれた学生たちの、不合理かつ非人間的な現実との葛藤と苦悩を、残された手記から再現したのが、『きけわだつみのこえ――日本戦没学生の手記』。
 学生たちは「遂に全ての人から人間性を奪ってしまう」軍隊で、上官や古参兵からしばしば奴隷や機械のように扱われ、「気持ちも死人同様」となる。「一層の事自殺でもしたら」と思う。しかし、「母がいる」、「年老いた御両親がある」からこそ生き続けた。
 或る者は「肉体的・・・精神的苦痛」から逃れるため、こうした時代に生きた自らの運命を呪い、迫り来る死を静かに見つめる。残酷な運命よりも、残される両親、兄弟姉妹、恋人に感謝し、彼ら彼女らの幸福を祈った。
 学生たちの多くは強く勉学を志しながら、途中で断念せざるを得なかった者たちである。だから、軍隊内での「前頭葉の脱落症状」、「人間の獣性」、「中枢神経をなくした人間」という異常性から脱するために、わずかな時間をぬすんで読む書物が唯一の清涼剤であり、それさえ出来ない文字に飢えた者は、古新聞や薬の効能書を繰り返し読み、人間回復を図ろうとした。
 死を前にした一人は「日本の軍隊のために犠牲になったと思えば死にきれないが、日本国民全体の罪と非難を一身に浴びて死ぬと思えば、腹も立たない。笑って死んで行ける」と語った。
 苦悩に満ちた彼らの想いを共有することができれば、本書には単なる反戦の書というだけではなく、平和と戦争、生と死の奥深い意味を問い直す、人生の書という性格がある。
 新年にあたって、襟を正して本書を読んでいる。

(今日はちょっと遠出してきます。)

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