秋というと当然、紅葉が連想されるが、秋の風もまたいい。秋の奥行きを深めているのは風だと思う。初秋の爽やかな風から次第に冷ややかな風に移る、その移り行きが秋を深める。
風に色があると留学生に話したことがある。
石山の石より白き秋の風(芭蕉)
風についてこんな句を詠めるのは日本人の特質ではないだろうか。色があるからではないが、与謝野晶子に
おばしまにおもひはてなき身をもたせ小萩をわたる秋の風見る
という一首がある。風が見えるという感覚をもてばこそ、秋の彩りをより深く味わえるのだと思う。
風が見えるというのは勿論皮膚感覚ではない。かと言って、視覚でもない。思うに、心象風景だ。だから、「白き秋の風」、「小萩をわたる秋の風見る」などという表現が生まれる。
こんなことを徒然に思うのは、今朝の寒さを覚えるほどの涼しさに、無機質のパソコンに向かいながらも、本格的な秋の心象を抱いているからだろう。