谷沢健一のニューアマチュアリズム

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谷繁捕手のミット(その1)

2007-08-27 | YBC前進
 8月10日、この日は東海ラジオの中日巨人戦の中継解説のため、ナゴヤドームに早めに到着した。午後3時前と言うと相手チームのアップも始まっていないので、打撃練習の打球音が耳に響いてくる。打撃順の最後になるとウッズ、井上両選手の白球が鮮明な弧を描いて外野スタンドの椅子を直撃する。注目の一戦のせいか、打球音の谺(こだま)には反響の空しさも皆無で、ただただ力強さが耳を打つ。
 暫く練習を見ていたが、ティー打撃を終えた谷繁捕手がやって来て、打順を待つべく腰を下ろした。と、私の嚢中に電球がパッと点いた。私の足は谷繁君のもとへ向かっていた。
 昨年、小田捕手からYBCに望外のプレゼントがあった。ミットの寄贈である。プロが使用している用具はアマチュア選手にとっては、高嶺の花である。「プロはどんなグラブを使っているんだろう」と我が雛鳥たちが話しているのが聞こえることもあった。当時のYBCは、正捕手(今は北信越リーグで活躍している)の故障などで、捕手難だった。それで、他ポジションからコンバートを繰り返していた。タイミングのよい贈り物だった。私の期待通り、小田ミットは捕手難解消のカンフル剤になり、公式戦の初勝利に結びついた。
 そのミットも捕手たちが頻繁に使い続けたことで、最近はキャッチングの際の「バシッ」という良い音も鈍くなり、投手陣の懸命の投球までもが弱々しく感じられるようになっていた。
 2年目を迎えたYBCは、甲子園組の川村雄次君(広島商-帝京大)の加入で、捕手陣も引き締まりつつあり、藏重投手コーチからも「プロ仕様レベルの良いミットを、川村に使わせてやりたいですね」と言われもしていた。選手や若いスタッフたちは、差し入れなら飲料水1杯でも「さもしい」くらいに喜びを表し、争奪戦を繰り広げることさえある。しかし、藏重コーチは、およそ物欲しがる言動はいっさい見せることはない。だから、その一言は心に深く残った。
 しかし、チームが一選手の用具を無料で用意するわけには行かない。不公平になるからだ。