谷沢健一のニューアマチュアリズム

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遠い五輪野球の金メダル(その2)

2008-08-24 | プロとアマ
 この文章を記している最中に、韓国の優勝が決まった。土壇場で、1点リードの韓国はストライクゾーンにクレームをつけた捕手が退場宣告を受け、一死満塁の大ピンチ。それを見事に凌いで悲願の金メダルを獲得した。
 アマチュアの五輪経験者たちが口を揃えて言うのは、「アマの試合はもちろんだが、とくに国際試合では、審判にクレームをつけるのは下の下だ。プロの感覚で審判に文句を言ったら、試合後の審判たちのミーティングで槍玉に挙げられるだろう」ということだ。韓国もそれを知っていたろうが、最終試合で堪忍袋の緒を切ってしまった。
 日本は、監督自らがずいぶん早く緒を切ってしまい、危うく退場になりかけた。審判に不信感を与えたことも敗因の一つだろう。また、捕球直後にミットを少しでもずらせば、ほとんどボールにとられるのも、アマの国際試合では常識だ。五輪強化費を使って「世界中からデータを集めた」と豪語したのだから、阿部・里崎・矢野の捕手陣に審判対策が伝授されていただろうが、捕手たちは実行していただろうか。ストライクゾーンに文句をつける前に(プロ意識丸出しでアマを見下す前に)、郷に入って郷に従っていただろうか。(じつは、これは私自身の自戒でもある。)
 それにしても、監督にすべてを負わせすぎではないか。○○ジャパンなどと表現される事態がおかしいのである。最高の権限をもつ組織のトップと、現場で総指揮を執るチームのトップとの間に、それなりの緊張感がなければ、必ず偏向と堕落が生じる。当人にそのつもりがまったくなくても生じるのは、歴史が教えている。
 そもそもJOC(日本オリンピック委員会)に加盟しているのは、BJF(全日本アマチュア野球連盟)である。これは、便宜上創設されたもので、実質的には、JABA(日本野球連盟)とJCBA(日本学生野球協会)である。これまでは、BJFが五輪代表監督を選んできた。永くアマ野球を支えた長船JCBA事務局長が、長嶋ジャパンを生みだし、星野ジャパンにつなげて昨年亡くなった。その直前に雑談する機会があったとき、私に「金メダルをとる最後のチャンスだから、五輪チームをアマからプロへ渡したのだ」と悔しさと期待とが入り交じった微妙な表情で語った。今回の結果を長船さんはどう天国で見守っていたか。五輪野球にプロを加えること自体、問題ではなかったのか。
 8月15日の朝日新聞で、作家の重松清氏が書いている。「星野ジャパンには、もちろんメダルを期待したい。でも、それ以上に「野球の魅力を世界の子どもたちに伝える」という大きな使命があるんじゃないか。(中略)グラウンドを見てごらん。野球っていうスポーツ、面白いだろう?」
 日本の子どもたち、世界の子どもたちに野球の面白さ・楽しさを伝えることを怠っている限りは、再び五輪で野球を見ることはないだろう。そして、ついに野球は世界スポーツにはならないだろう。21世紀の野球人(責任ある立場の野球人)を名乗る資格のあるのは、それを知っている者ではないだろうか。

3 コメント

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監督の器 (毛サム)
2008-08-26 12:44:50
星野仙一に監督の器はありましたか?
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冷静に野球を見つめる視点! (金谷重男)
2008-08-26 21:43:16
 「野球が好きだ!」と語りかける野球人が、世界の野球を語る。プロを頂点として草野球まで、日本の野球のすそ野の広さを知る唯一のプロ野球人の北京五輪評。楽しく読ませていただきました。
 期待していた以上の北京五輪評でもあり、冷静に世界の野球、そして五輪を分析しています。
 しかし、メダルが取れなかったのは残念です。
 
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Unknown (Unknown)
2008-08-27 02:14:18
ブログの中では批判できるがなかなかマスコミからは発信しにくいこの言葉。このままでは日本国がだめになるかも。WBC監督はいったい誰になるのであろうか。短期決戦をよく理解している著名な(スポンサーあっての日本)有名人を望む。
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