ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『鰐 ワニ』(キム・ギドク監督)を観て

2017年03月19日 | 1990年代映画(外国)
キム・ギドク監督は、上映された時に観た『サマリア』(2004年)の新鮮さに打たれ、それ以降、気になる存在となった。
と言っても、観ていない作品も多く、特に初期作品は皆無である。
それで、まずデビュー作の『鰐 ワニ』(1996年)を観ようとレンタル店へ行ってきた。

漢江の橋の下。
粗暴な性格から“ワニ”と呼ばれている浮浪者ヨンペは、行き場のない老人と孤児の3人でそこで寝起きしている。
彼は、人が川に身投げし溺れると、泳いで行ってその死体から財布を盗んでくる。
そして、その金を賭博につぎ込んではすってしまう。
ある夜、川にまた人が身を投げた。
老人が助けないのかと聞くと、ヨンペは助けたら商売にならないだろうと言う。
しかし、それが女だとわかるとヨンペは川に飛び込み、助けにいく・・・

このヨンペは、誰から見てもひどいワル。
川で女を助けたと思ったら、レイプする。
それより以前でも、ある時、男に言い寄られている女を助けたと思いきや、自分でレイプしている。
そんなことばかりでなく、生き別れの親をさがしていると言って孤児に公園でガムを売らせたり、
電磁治療器と偽ってインチキ商売をしてみたり。
当然、粗暴なヨンペは、暴力も絡んで殴り合いもやたらとする。

自殺未遂した女ヒョンジョンは、行くところもなく3人と一緒に暮らす。
ヨンペは何度もヒョンジョンを襲うが、孤児は最初からヒョンジョンに好意をもっているし、老人だってどちらかと言えば味方である。

こんなどうしようもない男ヨンペでも、いつしか少しずつヒョンジョンに情が移っていく。
そして、絵が得意だと知ると、絵の具を買ってきたりするようになる。
しかしヒョンジョンは、自殺する原因となった男をまだ愛している。

ヨンペとヒョンジョンの微妙な感情のすれ違い。
それをキム・ギドクは、内に秘めたまま、表にあらわさない感情表現で描写する。
この作品を観ていると、後のギドクの映画特徴がよく表れていたりする。
状況説明はセリフで行わないで、あくまでも、映像によって表現する。
ただ残念なことに、この作品はその肝心の映像が汚い。
デビュー作にありがちな、資金が足りなかったせいだろうか。

それにしても、ラストの水中シーン。
ヨンペがヒョンジョンと手錠で繋がり、椅子に座って永遠の時を迎える場面。
やはり、これがキム・ギドクだ、と唸ってしまう。

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