ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

成瀬巳喜男・17~『おかあさん』

2020年03月25日 | 日本映画
『おかあさん』(成瀬巳喜男監督、1952年)を観た。

元、クリーニング店だった福原一家。
戦後の貧しい中、父良作は工場の守衛をし、母正子は露店売りをしている。
そして娘の年子は、少しでも家計の足しにと、小屋掛けで今川焼きを売っている。
この家族には後、繊維工場の勤めで肺を病み寝込んでいる長男進と、小学生の久子、それに母親の妹の子の哲夫がいる。

努力の末、やっとこの一家も元のクリーニング店を開くことができた。
しかし店の開店準備中に、家恋しさに療養所から逃げ出してきた長男が死ぬ。
店は、父の弟子だったシベリア捕虜帰りの木村も手伝ってくれるが、それと引き換えに父も寝込んで死んでしまう。

母親の正子は、子二人と小学生成りたて程の哲夫も抱えながら、馴れない店を木村の手ほどきを受けながら切り回すことになった・・・

貧乏の中で、母正子が生活のために知らないことを覚えながら頑張る。
でもそこには、悲壮感らしきものが余り見当たらない。
それこそ何処の家も同じような時代だから人と人の協力関係で暮らしが成り立ち、それが当然みたいなところがある。
福原家には、木村が手伝いに来るし、正子は妹則子の子を預かって一緒に食べさせている。
その則子だって、早く独り立ちして食べていきたいと、美容師の資格を取るために頑張っている。

夜間の裁縫学校に行きたいと思っている年子は、年頃なのにどちらかというと母親にまだ甘えているようなところがある。
それに引き換え、小さい久子の方が案外しっかりしていたりする。

この作品にはユーモアが随所に散りばめられていて、辛い生活ながらも明るさを醸し出す。
年子は近所のパン屋の息子信二郎と仲良しで、二人とも恋人的な雰囲気でいる。
ある日、信二郎が手製のパンを作ってピクニックに年子を誘う。
そしたら年子は久子と哲夫も連れてきて、コブ付きに信二郎はガッカリしたりする。

則子が美容師の試験練習のため、久子をモデルに長い髪を切ってしまうと、それまで静かにしていた久子は多いに泣く。
また年子が則子のモデルになる場面では、文金高島田に結って花嫁衣装を着た年子を、訪ねてきた信二郎が勘違いして、
「年子がお嫁に行ってしまう」と大慌てで家の親に報告したりする。


でも女手ひとつの生活、最後には久子は親戚の許へ養女としてもらわれて行く。
何もかもわかっていて決心している久子の心情が胸に刺さる。

母親が田中絹代で、長女年子は香川京子。年子の相手信二郎が岡田英次。

田中絹代の親としての子供たちを見る目が、現実感に溢れていて作品全体を引き締めている。
そして、店を手伝う木村の加東大介、成瀬の常連ながら息が合っていて、この作品を傑作に仕上げていた。

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2 コメント

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ツカヤスさまへ (くりまんじゅう)
2020-03-26 01:05:13
この作品はだいぶん前 相当前にBSプレミアムで観ていると思います。
田中絹代さんが出ているので観たと思います多分。

1952年作ですか 70年近く昔ですね。配役を見てもほとんどが
鬼籍に入った役者さんばかりの中で 主役級の香川京子さんが
お元気とは嬉しいです。香川さんは黒沢・成瀬・小津監督作品に
たくさん主役級で出ており これら名監督を語れるのは
もう香川さんしかいないのでは と思います。

これら監督作品には 沢村貞子・加東大介姉弟の出演作品も多く
名監督は この姉弟がお気に入りだったのですね。
>くりまんじゅうさんへ (ツカヤス)
2020-03-26 11:23:25
コメントありがとうございます。
成瀬作品を集中して観だして17本になりますが、それでも予定の半分ほどです。
でも観ていてわかるのは、小津作品でもそうであるように常連の役者さんがよく出てくること。
この作品には、田中絹代が露天の台で売っている隣りで、同じように沢村貞子も売っています。
主役ではありませんが、このようにちゃんと沢村貞子さんへの目配りもしっかりしていました。
おっしゃるように、作品が古いですからほとんどの方が亡くなっています。
その方たちを見ることができる楽しみと、馴染みある戦後の家庭風景に懐かしさも湧いてきたりしました。

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