Music Mania

No Music No Life

ダンディー男の人生

2014年11月09日 | 日常
自動車評論家の徳大寺有恒さんが亡くなった。
僕は今年の2月に、ここで徳大寺有恒さんのことを書いたのだが、再び彼のことを書きたいと思う。

「間違いだらけのクルマ選び」で有名な自動車評論家だが、その根底にあるのは、彼独自のダンディズムだ。

彼一流のダンディズムを一言でいえば、「アリとキリギリスの、キリギリスでいたい」ということだ。

コツコツと働き、冬に備えて万全の準備をするアリよりも、食べ物のあるときにあるだけ食べてしまい、後で難儀するキリギリスの生き方。
老後の蓄えとか、子孫繁栄とか、そういうのは貧乏くさくてまっぴらゴメン。
稼いだお金を後先考えずにパッと使ってしまい、どこかで人知れず野たれ死ぬほうが潔くてカッコいい、という。

徳大寺さんはそれを実行して生きていた。
彼いわく「普通の会社員より、ちょっと上の収入」とのことだが、おそらく年収1500万から2000万くらいだろう。
そのお金で、土地や家を買うこともなく、ずっと借家住まい。
子供はダンディズムの一環で作らなかったため、収入のほとんどを自分の道楽に使っていたといっても過言ではないと思う。

彼は物欲が激しいタイプで、とにかくモノをたくさん買ったらしい。
中でもクルマには金をかけた。
大衆車から超高級車まで、欲しいクルマはなんでも買った。
もちろん、維持費が大変なことになるので、多くても8台くらいが限界。
なので、次から次へとクルマを買い替える。
どれも欲しくて買ったクルマなので、満足して乗ってるのだが、まだまだ乗りたいクルマは山ほどあって、気に入ってるのに手放すこともある。
それでも欲しいクルマが次々に出てくるのだ。

クルマ以外では、ファッションにこだわった。
とにかくお洒落が大好きで、当然それに相応しい、靴、鞄、ステッキ、帽子も高級品で揃える。
さらに葉巻、それもハバナ産シガーとかを愛好するので、金に羽が生えてどんどん飛んでいく。
おかげで、彼は大ベストセラー作家なのに、貯金はほとんどなかったといわれる。

徳大寺さんはいう。

金はないけど得たものは大きい、と。
中でも、一流品を普段から愛好し身につけてきたおかげで、本当の高級とは何か、そしてロールスやアストンやフェラーリはなぜ高級なのか、がよくわかったという。


僕は徳大寺さんの著書をけっこう読んだと思う。
毎年発売されていた「間違いだらけのクルマ選び」も数年間買っていたし、それ以外の著書も読んだ。
ほとんど売ってしまったのだが、3冊だけ今も手元にある。
バブル期くらいに発売された「ダンディートーク」とその続編「ダンディートーク2」、それと「間違いだらけの外国車選び」だ。

この「ダンディートーク」という本は、クルマだけでなく、映画、スポーツ、食べ物、ホテル、鞄など、いろいろな分野について、「どう接するのが男としてカッコいいか」が語られている。
まだ20代だった僕は、ある部分では共感し、ある部分では「それはないな」と反発しながら読んでいた。
何度も読んだ。
この先も読むだろうと思い、売らずに残しておいた。

「間違いだらけの外国車選び」は、例の本の外国車版なのだが、文章がとてもいい。
やはり自分の好きな外国車だけあって、国産車版より、ノリがいいように思う。
またこの頃の外国車は、今のようにグローバル化されておらず、まだまだガラパゴスな部分があって、そういう文化の違いが徳大寺さんのリズム感ある文章で語られている。
今読んでも面白い。

今年2月に発売された雑誌NAVICARSに、徳大寺さんの奥さんのインタビューが載っている。
クルマでも洋服でも葉巻でも、買いたいものを買いたいだけ買って、そういう主人が羨ましかったという。
そんな生き方が出来る人は滅多にいない。
今後、自動車評論家というジャンルで、こういう生き方でクルマを語る人間は出てこないだろう。
稀大の男のご冥福を祈ります。

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