写真は 現代歌人文庫 塚本邦雄歌集 国文社 1009円 税込。
聖母像ばかりならべてある美術館の出口につづく火薬庫
少年発熱して去りしかば初夏の地に黄昏てゆく砂繪の麒麟
日本脱出したし皇帝ベンギンも皇帝ベンギン飼育係りも
てのひらの迷路の渦をさまよえるてんとう蟲の背の赤と黒
革命歌作詞家に凭(もた)りかかられて少しづつ液化してゆくピアノ
八月六日すでにはるけし灰色に水蜜桃はげおつる果皮
停電の赤い木馬ら死を載せてとまれり われはそれに跨る
夭折と言われむ季も去り夜の雪降りはじむ汚れし屋根に
八月の森、いたましき婚禮のごとし二本の杉立ち枯れて
有限の言葉と知れど花の木のくれなゐの闇ここにおよぶ
「前衛短歌」の先駆者と言うより、「前衛短歌」は塚本邦雄で始まり塚本邦雄で終わったと言うべきなのか。字余り、語われ、句またがり、短歌の定型を壊したその句形、抽象画の様なイメージ、それまでの短歌ではあり得ないものばかりだった。
理解ではなく感じてみよう。
因みに、この歌集の発行日は1988年9月25日。
塚本は、2005年6月9日85歳で没している。