今日の社内連絡(ブログver)

sundayとかオリジナルテンポとかの作・演出家ウォーリー木下のつれづれなるままのもろもろ。

今更スロベニア日記その1(5/17~22)

2012-08-20 | Weblog
今更ですが、スロベニアで書いていた日記をしばらくあげます(せっかくこつこつ書いてたので)。
しかしもう3ヶ月近く経つのかー。でも改めて読むとまざまざと思い出しますね。
2ヶ月分もあるので、暇なときにお読みください。(といいながらまったく書いていない日もあります)
ほとんど、ごはん日記になってますね。

5/17(木)
真夜中にスロベニアの首都のリュビュアナ空港に到着。神戸空港と大して差のない大きさに驚く。アドリア航空の飛行機がたくさんとまっている。スロベニアの唯一の自前の航空会社だということらしい。プロデューサーのサモが迎えに来てくれている。車で森を抜けるとハイウェイ。ゆっくりと市内へと結ぶ。20分ほどでレジデンスに到着。深夜のドライブ中にサモに「焦ってないの?」と聞くと「信用しているから」と答えられる。作品のことだ。本番まで1ヶ月切っている。宿泊先は昨年もお世話になったJSKDと呼ばれるところで、階段を5階分のぼる。高い天井。去年の記憶が蘇る。ハイ/ウェイも蘇る。起きてたのはゆかだけだった。早速キッチンで今までの状況を聞く。僕は焦っている。3時頃にようやくベッドに潜り込む。午前8時に起床、時差ボケはない。10時に稽古場兼劇場のエレクトラに行く。ここも昨年と同じ場所。懐かしい。スロベニアチームは遅れてやってくる。これも変わらない。3時まで今やってるところを見せてもらう。演出家のマチィアシュとそれからカフェでミーティング。心なくも、声を荒げる。しかし声を荒げるのはこの日では終わらない。帰り道、Mercatorというスロベニアのスーパーで買い物し、カルボナーラをつくる。卵は日本のと変わらなかったので助かった。ただフライパンの大きさがわからず人数分をうまくつくれなかった。サラミを食べる。これに堅いパンで、東欧に来たなと思う。

5/18(金)
7時には起きて朝食を作り、目玉焼きとベーコン、そして食パン。トースターがないので、パンもフライパンで焼く。もしかしてフライパンて食パンをフライするためだからフライパン?歩いて20分ほどの通勤?通稽古。イヤフォンでザッハトルテの新譜を聴く。出発直前に取り込んできた。ちなみにリュビュアナ滞在中に良く聞いてたのは、ザッハとサカナクションとフジファブリック。10時からのリハは、マチィアシュのパート。僕はそれを眺める。正直言うと、文句を言いたい、改善したい場面ばかりで、それをぐっと呑み込む。昨日、そのことはだいぶ伝えた。彼は彼なりの美意識や思いがあってやっているのだからそれを尊重しよう。そしてここは計算高く、自分の領分を守りながら、この共同製作全体がよくなるように持って行こう。それに僕はバスに乗り遅れた側だ。勝手気ままにアーティスト気取りしてぶつかり合うこともできる。しかしここは優しく狡猾にならないといけない。それでも不思議に思ってスロベニアの役者に「このシーンはどういう意図があるの?」と、聞くと「わからない」と答えられ、これは「そういう作り方」をしているんだということに気づく。マチィアシュはアーティストなのだ。せめてアーティスト気取りじゃないことを祈る。5時には終わって、劇場の前のカフェで僕の考えることをさらに伝える。昨日よりかは進展した話ができた。JSKDに戻り、カレーを作ってみる。Namaで買ったなぞのカレーペーストとココナツミルクで何とかなるかと思ったがなんともならなかった。

5/19(土)
オフ。土日は基本休み。10時にサモが車で迎えに来てくれてVELIKA PLANINA(広い草原という意味)に坂口とゆかと行く。サモのおすすめの山で、曰く「山だけど山登りはしないよ、平坦だよ、ロープウェイで高いところに登ってあとは散歩だよ」と言ってたけど、実際はロープウェイのくだりだけが正解で、他は間違い。間違いというか彼らにとっては「こんなのは山登りに入らない」のだと思うが、僕にとっては山登り。久しぶりに運動。2時間登り降りが続き、ランチは山小屋で。ザワークラフトのスープにソーセージを入れて。5年前のプラハを思い出す味。とにかく空が大きい。それにあわせて身体が大きくなる。2時間弱芥川の読書と昼寝を草原の上で。夢は見なかった。起きると顔が焼けてる。ロープウェイの乗り口まで2時間歩く。夏に向けて牛小屋や牛用の水飲み場の準備をしている。小さい村があり教会がある。使用不明な杭が打たれている。素朴なおとぎの国のような村だ。そして人はほとんどいない。自分たちだけが見つけてしまった秘密の国のような錯覚に陥る。ロープウェイの中だけが東京の山手線並みに混んでておかしかった。リュビュアナに戻る道中、チェリーの露店がたくさん出てておいしそうだった。そういう季節だ。車の中で、サモにスロベニアのことをいろいろ聞く。主な産業は鉄工業。文化政策、今の政府。そしてサモの個人的なこと。この国を出る気はないこと。彼女のこと。帰宅後、シャワーを浴びて、マキシと呼ばれるスーパーに行き、牛肉とソーセージを買う。夜はステーキ。つけ合わせは余りの西洋キュウリ。マスタードをつけて。

5/20(日)
少し遅めに起きて、それから日本へのメールをいろいろ。「オーディション・フォー・ライフ」の僕のパートのことをまとめる。日本語と英語の両方で。蜘蛛の糸も何度も読み返す。3時頃にプリモシュ家に向かう。プリモシュはピアニスト。日本人の奥さんがいて、日本とスロベニアのハーフの娘マリカちゃん(5歳)がいる。他のメンバーは早めに出てぶらぶらしてから直接向かうとのこと。僕はひとり遅れて出発。歩きながら考えると、もやもやが整理される。途中、ドラッグでもやってるのかバットを手にした危ないおっさんがいて、騒いでいた。郊外を舞台にしたホラー映画の一場面のようだった。あとにもさきにもこういう暴力的な風景をスロベニアで目にしたことはない。プリモシュの家は庭付き一戸建て。豪邸と言ってもいい。日本人の奥さん・マミさんと再会(昨年一度リュビュアナで会ってる)。プリモシュのお母さん(グランドマザー)も少しぼけてるようだがとても元気だ。途中から隣の美術作家も参加してのバーベキュー。日本食もある。おにぎり、野菜いろいろ、さかな、ケバブチィッチに肉に多種多様な食材。プリモシュはワインとウイスキーに目がない。彼のお父さんは有名な映画監督だそうで、写真を見せてもらう。ブリジットバルドーやフェディリコ・フェリーニの名前なんかが飛び出す。プリモシュの存在は今回の作品制作にかかせない。日本語がわかるスロベニア人。彼のおかげでなんとかなった部分は多い。途中、日本とスカイプするため部屋とワイファイを借りる。7時過ぎに宿に戻る。途中、巨人を見つける。レジデンスのベランダから見える時計塔も発見。明日からの1週間の稽古のことを考える。他にも日本に置いてきた宿題をする。

5/21(月)
「なんなん」が流行ってる。とにかく「なんなん」て思うことが多いのだ。今日から僕のパートの製作が始まる。最初はコンセプトを伝える。テレビのバラエティ番組みたいなのりにしたい。がちでゲームをする。勝ったやつが蜘蛛の糸に捕まることができる。それから「どんなゲームが面白いか」聞く。できるだけ舞台上にあるものを使いたいので結局トイレットペーパーと風船は使う。そして段取りをまず組む。なかなかすぐにはできない。スロベニアの役者にとって「わけのわからない」「なんなん」なことなんだと思う。日本人の役者が心強い。昼ご飯はアンドレカのお父さん特製のサラミの差し入れ。パンがめちゃくちゃうまい。イバンがいなくなる4時くらいまでやるが、みなも僕も集中力が持たない。オープニングで言葉と動き、その意味のない関連(無目的な言葉と動き)をやりたいのだけど、まったく面白さが伝わらない。音楽のようにやって欲しいのだけど、彼らにそういう概念はないのだろうか。もしくは意味は理解できても「面白くない」と思っているのか。夜はダンスを見に行く。市場の近くにある人形劇場。屋上を改造して屋根が半透明という斬新な劇場。なので暗転したい場合は夜の9時以降の上演になる。女性ソロのコンテ。乳首のダンスや煙草のダンスが面白かった。映像も使っていた。カトリナもサモもBUNKERのスタッフも見に来てる。のちほどこのソロダンサーとカトリナが一緒にやってる舞台映像を見ることになる。アンダーグラウンド、もしくはアバンギャルド、といわれるジャンル。インディペンデントな演劇がこっちにもあって、カトリナもサモもそれらが好きで、そっちの現場が多いのだそうだ。カトリナはアバンギャルドの女王という異名を持つ。彼女とは最後の最後まで見えないバトルをすることになる。

5/22(火)
稽古は少しづつ楽しくなる。やはり自分のプランで演出できる喜びはある(それがたとえどんな条件でも)。午前中は衣装のマタヤのためにAパートの通し。昼飯は近所のパン屋で。このパン屋は何度も通うことになる。おいしいからと言うか、近くにそこしかないから。見た目はおいしそうなのに、食べると予想を裏切るパンばかりで、後半はいかなくなる。午後からは音楽家も入れて、ワークショップ的なアプローチ。昨日よりは今日。前進してるかのように見える。振り付けの途中で終わる。稽古後、新聞社のインタビュー。通訳の方がいてくれて助かる。そのあと、哲学者のスラヴォイジジェックと路上で会う。写真を撮ってもらう(詳しいことはスロベニアのブログでhttp://blog.livedoor.jp/tot_slovenia/archives/2012-05.html)。三本橋方面を通り、市場付近をうろうろする。どこか心がすさんでたのか、観光客に声をかけられるも無視してしまい、申し訳ない気持ちがあとでおそってくる。夜は今回初ケバブ。好きだ。ヨーロッパのジャンクナンバーワン。