グリーンスパン前FRB議長は日本経済新聞社の記事で、米経済の先行きについて「今後、住宅価格が押し下げられ、(資産価値の目減りにより)個人消費は減速するだろう」と指摘し、信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)市場の崩壊による悪影響はこれから本格化するとの見方を示した。 前議長は今年3月時点で米国が景気後退に陥る可能性が3分の1あるとしていたが、状況の悪化を受け、その可能性がさらに高まったと見ていることを明らかにした。また、(米国の)住宅価格が予想外に大きく下落するようなことがあれば、第2幕の引き金になると述べた(※1)。
要人の発言でありながら、景気後退についての見方がより悲観的な見方を明らかにしたことは注目に値する(グリーンスパン氏の見解が2月末~3月頭の世界同時株安をもたらしたことは記憶に新しい)。
米国住宅価格の下落については、昨日紹介したNouriel Roubini教授の"I Was Way Too Optimistic on the Housing Recession..."の記事に載っている今後の見方が興味深い。
大恐慌!? その118 FRBの利下げがサブプライム問題を解決するという幻想は2001年と同じ
・Roubini教授 20%下落予想
・Goldman Sachs 15%下落予想
・Yale大Shiller教授 the price to rental ratio(賃料水準と不動産価格の比率)で言うと、エリアによっては50%下落が必要
※Shiller教授はITバブルの崩壊を予言したという権威で、このブログでも過去に取り上げている。
(大)不況がやってくる!? その20 |
Moody'sの直近の住宅価格の予想が、全国平均で7.7%下落、最大の都市でも25%に留まる(※2)ことからして、グリーンスパン氏の言う「想定以上」の住宅価格下落が現実のものとなる可能性は十分にある(これまでと同じく、リスクが十分に織り込まれていない可能性が高い)。当然、Moody'sの「想定」を上回る下落となれば更なる格下げも出てくるだろうし、実態として不履行となる住宅ローンは、今の想定をはるかに上回ることが容易に「想定」出来る。
ここまで事態が悪化する過程での政府、金融界、企業の責任ある立場の人達の対応を見ていると、むしろ、本当に現実的な想定をしてしまうと、この時点で全てを清算する必要があることに対し、避けたいとする心理が先行していように思われる。日本のバブル崩壊時における損失先送りと同じ構造であろう。
バーナンキ議長は7月、サブプライム関連の損失は「最大約1000億ドル(約11~12兆円)」との推計をしたが、最近ではそれでは収まらないという様な発言に修正している。今後は、IMFが、米住宅ローンの焦げ付きに伴う損失は、サブプライムより貸し出し条件が一般ローンに近い「オルトA」という融資の分を含め、約1700億~2000億ドル(約20兆~約23兆円)にのぼるという試算をつい先日出すなど、徐々に想定損失額の総額は膨らんでいる(※3)。IMFが「いくつかの銀行が支払い不能や債務超過の状態になる可能性もある」との懸念を示した点も記憶にとどめておいたほうが良さそうだ。
ただ、住宅価格の下落による担保価値の毀損が激しく進行する中、今後1年以内で1兆ドル(約110兆円!)を超えるサブプライムを中心とした変動金利住宅ローンが次々とリセットのタイミングを迎える中では、20兆円という想定も、相当に楽観的な感は否めない。当初、サブプライムでしか借りれなかった人が、住宅価格の上昇というあてが外れて激しく下落する中、リファイナンスが簡単に出来るとは思われない。サブプライムローン全体の延滞率が15%前後と記憶しているが、リファイナンス出来ない率はそれを当然上回る(延滞している人がリファイナンスは出来ないし、それ以外でもより厳しいローンの要件に合わない人が相当数いるはず)様に思われ、20兆円はゆうに超えてくるというのが「現実的な想定」ではあるまいか。
それにしても、住宅バブル時に貸し手の主役の一つであったと思われる米主要投資銀行が、先日の8月末四半期決算で計上した損失額は数千億円規模に過ぎない。
時限爆弾は次の大爆発に向け、着々と時を刻んでいる。。。。
※1
○(9/29)グリーンスパン氏会見、サブプライム「実体経済影響これから」
http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt1/20070928AS2M2704O28092007.html
グリーンスパン前米連邦準備理事会(FRB)議長は日本経済新聞社と会見し、米経済の先行きについて「今後、住宅価格が押し下げられ、(資産価値の目減りにより)個人消費は減速するだろう」と指摘した。金融不安は最悪期を脱したとの認識を示しつつも、米国の実体経済に関しては、信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)市場の崩壊による悪影響はこれから本格化するとの見方を示した。
前議長は今年3月時点で米国が景気後退に陥る可能性が3分の1あるとしていたが、状況の悪化を受け、その可能性がさらに高まったと見ていることを明らかにした。
サブプライム問題を機に世界的に広がった信用収縮については「金融仲介システムがほとんど凍結するような極端な状況は緩和された」としたうえで、「(米国の)住宅価格が予想外に大きく下落するようなことがあれば、第2幕の引き金になる」と述べた。
※2
○Moody's Forecasts House Prices to Fall 7.7% Nationwide
http://calculatedrisk.blogspot.com/2007/09/moodys-forecasts-house-prices-to-fall.html
From CNN Money: Double-digit home price drops coming
According to an analysis conducted by Moody's Economy.com, declines will exceed 10 percent in 86 of the 379 largest housing markets. And 290 of the cities will experience price drops of 1 percent or more.
The survey attempted to identify the high and low points of housing prices in each of the markets, some of which started declining from their peak in the third quarter of 2005. All are median prices for single-family houses.
Nationally, Moody's is projecting an average price decline of 7.7 percent. That's a jump from the 6.6 percent total price drop that the company was forecasting in June and more than twice that of last October's forecast of a 3.6 percent price decrease.
Rank Area State Peak Bottom Peak to bottom
home price decline1 Stockton CA 06Q1 08Q4 -25.0 2 Palm Bay-Melbourne-Titusville FL 06Q1 08Q4 -24.9 3 Sarasota-Bradenton-Venice FL 06Q1 08Q3 -24.8
※3
○サブプライム 損失20兆円規模 IMF試算
http://www.asahi.com/business/update/0924/TKY200709240170.html
国際通貨基金(IMF)は24日発表した世界金融安定報告で、米国の低所得者向け(サブプライム)住宅ローン問題を「甘くみてはいけない。(金融市場などの)調整は長期化するだろう」と警告。この問題を背景にした「資金繰り悪化で、(世界の)いくつかの銀行が支払い不能や債務超過になり、救済が必要な事態を迎えるかもしれない」と指摘した。
また、米住宅ローンの焦げ付きに伴う損失は、サブプライムより貸し出し条件が一般ローンに近い「オルトA」という融資の分を含め、約1700億~2000億ドル(約20兆~約23兆円)にのぼるという試算も紹介した。米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は7月、サブプライム関連の損失は「最大約1000億ドル」との推計に触れているが、それより大きく膨らむ可能性があることになる。
報告は、大手の金融機関については「資本が厚く利益もあるので損失を吸収できる」としたが、「規模が小さく投資対象をさほど分散していない金融機関は、より打撃を受けやすい」とした。
とくにサブプライム関連証券に投資してきた投資会社などの資金繰り悪化を警戒。グループ会社の損失を、親銀行などが与信供与で事実上肩代わりせざるをえなくなることも考えられるため、「いくつかの銀行が支払い不能や債務超過の状態になる可能性もある」との懸念を示した。