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なぜアメリカのレンタカー会社はテスラを手放したのか?

2024-05-28 | コラム
なぜアメリカのレンタカー会社はテスラを手放したのか?
5/27(月) 22:46配信 MotorFan

昨年12月、米レンタカー大手・ハーツ(Hertz)がBEV(バッテリー電気自動車)2万台を売却して順次ICV(内燃機関搭載車)に切り替えることを運輸当局に通知し、売却を開始した。2万台は同社が米国内に保有する同レンタカーの11%に当たる。そのうちの約8割、1万6000台がテスラだった。この発表から4カ月ほどを経て、すでに半数が処分されたという。なぜ、BEVはレンタカーから退場なのだろうか。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

レンタカー市場からBEVが少しずつ「退場」している

ハーツ・グローバル・ホールディングスは「BEVはICVに比べて修理費が高く、会社の収益に悪影響を及ぼしている」とコメントした。昨年12月の段階でハーツは、約6万台のBEVを保有していた。そのなかの2万台程度をまず売却すると発表した。新たにBEVを購入するかどうかは明らかにしていないが、追加のBEV放出の可能性は否定していない。

このハーツの発表を受けて欧州最大のレンタル会社であるシクストも「テスラをすべて売却する」と発表した。この流れはあちこちに飛び火し、レンタカー市場からBEVが少しずつ「退場」しているというのが現在の状況だ。

通常、レンタカー会社は一般ユーザーよりも安くクルマを仕入れている。同じ仕様をまとまった台数で発注し購入するためだ。OEM(自動車メーカー)にとっては「不人気車種の引き取り先」という一面もある。いわば、持ちつ持たれつ、の関係である。

バイデン政権がBEV普及を掲げた2022年、ハーツはテスラから1年以内に10万台、ポールスター(元はボルボのハイパフォーマンスおよびツーリングカーレース車両部門で現在は吉利ホールディングス傘下)からは5年間で6万5000台という大量のBEVを購入する計画を発表していた。

BEVメーカー側も、BEVをまずレンタカーで使ってもらうことで「興味を持つ人が増えるだろう」と考えていた。ハーツはBMW「i3」やGMシボレー「ボルト」なども発売直後から購入しレンタルに使っていた。これらは少なからずBEVの「お試し体験」の場を提供した。

しかし、BEVがレンタカー会社の利益を削り取った。修理費の高さのほか、稼働率も予想を下回ったという。ハーツの場合は2023年第4四半期の決算で「明らかなBEV由来の利益減」となり、株価は1年間で32%下落した。

日本のレンタカー会社に訊くと「電池残量によってはその日の行動が制限されてしまうBEVは、思ったほど人気が出なかった」という。とくに観光地では不評だった。「家族が望む観光スポットにBEVで出かけるにはバッテリー残量が足りない」「しかし充電スポットの場所がわからないし、先客がいたら充電を待たなければならない」という理由が多いと聞いた。

欧米では企業が役職従業員に貸し与える「カンパニーカー」でもBEVが嫌われている。カンパニーカーは通常、リース契約であり、契約期間をあらかじめ決めて「クルマを貸し出す」という契約だ。

リース契約にはオープンエンドとクローズドエンドの2種類がある。オープンエンド方式は新車の「残価設定ローン」に似ている。

たとえば500万円のクルマを5年後に残価200万円の設定で60か月分のリース契約とする場合、リース会社は「5年後の残存価格は200万円です」と借り手に通知し、その残存価格を差し引いた(500-200=300万円)金額に「リース料率」を掛けた金額を60等分する。リース料率1.3なら300×1.3=390を60等分した6万5000円が月額リース料になる。

60カ月後にリース車両を返却し、残存価格(中古車としての下取り価格)が当初予定どおり200万円なら、そのままリース契約終了。もし残価が200万円を下回っていたら、その差額を借り手(リース契約者)が支払わなければならない。

いっぽう、クローズドエンド方式は、5年後の残存価格は貸し手であるリース会社が設定し、借り手には開示しない。その代わりリース契約終了時にそのクルマの下取り相場がどうであろうと、貸し手は借り手にいっさい請求しない。リース期間が終了したら、借り手は車両を返却して終わり、である。

メンテナンス付きリースの場合は、リース料率以外にリース期間中の整備費用や消耗品費を上乗せする。この契約はオープンエンドでもクローズドエンドでも変わらない。

欧州ではカンパニカーからもBEVが消えつつある
欧州ではVW(フォルクスワーゲン)をはじめステランティス、メルセデス・ベンツなどがメーカー直営リース会社を持つほか、10万台規模で法人向けリースを行う大手も存在する。ドイツを例に挙げると、国内の乗用車販売台数の約3分の2がカンパニーカー、社用車、レンタカー、タクシーなど法人需要である。じつはドイツは、個人購入の比率が欧州のなかでも低い。

通常、リース会社は契約満了時の車両の推定残存価格をシビアに見積もって料金設定し、リース料は減価償却費をカバーするようになっている。しかし、欧州でテスラのリースを行なっていたリース会社は、テスラの値下げによって中古車価格が下落したことで、リース契約時に想定していた残存価格よりも実際の残存価格が大幅に下落してしまった。

クローズドエンド方式のリースで残存価値が予想以上に下落すると、リース会社は損をする。リース契約が終了すると、リース会社は車両を引き取るか、もう一度同じ相手に「再リース」するかになるが、相手が「もう要らない」と言ってくれば再リースはできないから中古車として売却する。この段階でBEVは「当初の想定より残存価値が低い」ことが多いため、リース会社の損失が拡大した。

オートモーティブニュース・ヨーロッパによると「大手リース会社がOEMに対し中古車価格の下落を損失補填するよう求めている」という。つまり、中古車価格が下がった分の金額をOEMに支払わせる、ということだ。

OEMにとってカンパニーカーは旨味のある市場だ。ほぼ決まった仕様とボディカラーのモデルを買ってもらえるためだ。企業にとっては、カンパニーカーは「所有」していないため資産にならず、節税対策になる。そのため、一時期はBEVがカンパニーカーに振り向けられた。

しかし、メンテナンスリース契約をしているBEVが故障し、たとえばバッテリーパックの交換が必要になった場合、その代金は契約者に請求できない。メンテナンス料金があらかじめ決まっているためだ。新車保証期間中ならバッテリーパックはOEMが無償で交換するが、ドイツを例に取ると「カンパニーカーの走行距離がバッテリー保証対象の走行距離を超えてしまった」ことでリース会社がバッテリー交換費用を負担した例もあるそうだ。

また、リース会社と契約する「残存保険会社」では、保険料の値上げが相次いだ。クローズドエンド方式のリースでBEVをリースする場合、リース契約終了時に残存価格が当初の想定を大きく下回るとリース会社が損をする。そこで残存価格に対してリース会社が保険をかける。残存価格が当初予定を下回った場合に、その「下がった分」を保険会社に補填してもらうのだ。この保険を請け負うのが残存保険会社である。

しかし、BEVは残存保険市場からも締め出されつつある。保険料の支払いが大きくなれば保険料率が上がる。「もはやBEVの残存価格の低さは保険で損失補填できないレベルになりつつある」というのだ。

欧州でBEVの販売台数が減っている理由は、法人向け需要の減退が最大の原因である。米国も同様だ。レンタカーとリース契約から嫌われたBEVは、中古車価格の下落を食い止めなければこの市場での復活は難しい。しかし、値下げと値引きが横行すれば中古車価格は下がる。

おまけにBEVは、欧州でも米国でも在庫が膨らんでいる。在庫処分のためには値下げと値引きが必要だが、それをやれば中古車価格が確実に下がる。いまやBEVは「普通の自動車」の流通ルールの中に放り込まれてしまった「厄介な金食い虫」と言える。

日本ではカンパニーカーという制度は馴染みが薄いが、欧米ではヘッドハンティングの条件のひとつになっている。「ウチの会社は、部長級にはメルセデス・ベンツEクラスかBMW5シリーズを貸与します」といった文言が「幹部社員募集」の広告には載っている。

ちなみに、かつて1980年代にメルセデス・ベンツが190E(現在のCクラス)をラインアップに加えた理由は「カンパニーカーでEクラスを貸与されていた人が退職し、クルマを返却しなければからなくなったときにポケットマネーで買えるメルセデス・ベンツがあれば売れる」という理由だった。

同様にBMWが7シリーズを開発した理由は「高級カンパニーカー需要をメルセデスベンツSクラスから奪うため」だった。それくらい、欧米ではカンパニーカーが普及しているのである。牧野 茂雄


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