私の思いと技術的覚え書き

歴史小説、映画、乗り物系全般、事故の分析好きのエンジニアの放言ブログです。

高槻クレーン転倒事故

2020-06-29 | 事故と事件
 6月26日午後5時ごろ大阪高槻市で生じたクレーン車転倒事故は、長く伸ばしたクレーンジブ(ブーム)と吊り上げていた鋼製筒状物(杭)が、隣接する民家の屋根を叩き切る様に破壊し、民家からは軽度な火災までが生じたという。幸い、人身の損害は、民家の女児が軽傷だけで済んだということが、不幸中の幸いと云うべき事故だろう。

 クレーンという機械は、物を吊り上げるものだが、特に今回の様な「移動式クレーン」というのは、目的地に簡易に移動ができるという利点を持つが、そこがウィークポイントともなり、今回の様な転倒事故が後を絶たない。つまり、クレーン本体が大地なり構築物に強固に固定されている訳ではないので、過荷重とか、クレーン車の設置時にセットするアウトリガーという支持装置を受ける大地が軟弱だと沈み込み、転倒してしまうという事故が後を絶たない。

 今回の事故は、何らかの建物が建設されていた土地で、建物の撤去工事が済み、土台を補強するために打ち込まれていたパイル(杭)を引き抜き、撤去する工事を行っていたと見える。転倒したクレーンは、クレーン車前方に転倒しているが、クレーン車では、前後と左右側方では、吊り過重の制限が異なる。つまり、前後はそれなりに車長があり非転倒性は高く、高い吊り過重を発揮できるが、左右側方では、幾らアウトリガーを張り出しても、前後ほどのスパンがなく、低い吊り過重に制限されてしまうということだ。

 上空からの写真から見ると、転倒したクレーン車の前側アウトリガーの支持点には、軟弱地盤対策として鋼板が敷かれてあり、何ら沈み込んだりしていない。

 写真から判断するに、クレーン車の種別は「コベルコ建機・ラフタレーンクレーン・パンサーX250(RK250-8)」と推定される。最大吊り過重25トンの移動式ホイールクレーン車だ。但し、この最大吊り過重25トンは、作業半径(旋回半径)を最小とした場合(ブーム起伏角最大かつブーム長さ最小の時)の値だ。ブーム起伏角を小さくしたり、ブーム伸縮を伸ばすほど、吊り過重は減少して行く。

 多くのクレーン事故では、クレーン車自体が転倒してしまうものと、クレーン車は転倒しないがブームが曲損したり折損してしまう2事例が多いが、今回の事故事例は前者のものとなろう。このクレーン車本体が転倒してしまうという場合は、ブーム先端の吊り過重によるモーメントが、クレーン車自体を安定させる値を超える場合に生じるものだ。具体例としては、最小作業半径(最大起伏角)で吊り上げ、吊り上げ物品を移動するため、起伏角を小さくして行った場合に、クレーン車の安定値を超えることで転倒が生じるなどの事例が多い。

 今回事故の後報では、未だ結論ではないだろうが「旋回速度が速すぎた・・・」ということが記されている。つまり、作業半径一杯(ブーム起伏角およびブーム長さ)で何とか吊り上げて安定を保っていたが、旋回操作による吊り荷の動きから生じる反動により、俄に安定過重を越え、転倒に至ったのではないかということだろうが、今後の調査を待たねばならないだろう。

 なお、以下のリンクは、同じくコベルコ建機の陸上移動式としては最大級の1200トンという大型クレーンの新車性能試験で生じた死傷者4名の大事故を書き留めたものだ。この事故も、旋回操作が不適切だと、後刻報じられた訳だが、クレーンジブ根元近くの断裂具合などから、果たしてそれだけが原因だろうかとの疑念を持つのは私見だ。

クレーン事故のことなど 2018-07-28
https://blog.goo.ne.jp/wiseman410/e/03ff8182f43a4311dd68cb145cc6a589

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クレーン車倒れ、民家直撃 1歳女児が軽傷―大阪・高槻市
2020年06月26日20時27分
 26日午後5時5分ごろ、大阪府高槻市南松原町の工事現場で、解体作業中のクレーン車が倒れ、民家を直撃した。市消防本部によると、この事故で火災が発生したが、間もなく消し止められた。家にいた女児(1)が軽傷を負っており、府警高槻署が現場にいた作業員から当時の状況を聴くなどして詳しい原因を調べている。
救命胴衣でエア遊具は危険 プール死亡事故で報告書―消費者事故調

 同署などによると、クレーン車はコンクリート製のくいを地中から抜く作業中で、何らかの原因でバランスを崩したとみられる。
 道を挟んで隣接する木造2階建ての2階部分にクレーン車のアーム部分が直撃。家の1階リビングに女児と母親(29)がいたが、大きな衝撃音と天井からのほこりに驚き屋外に避難した。女児はその際、左腕に擦り傷を負ったとみられる。
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1 コメント

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Unknown (るるぶ)
2020-11-20 00:54:41
こういった際の損害賠償はどうなるのでしょうか?加害者がいくらまでしか出せないといい被害に遭われた方が足りない分を負担することはあるのでしょうか?
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