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キャブレターのこと(SOLEX編)

2016-11-11 | 車と乗り物、販売・整備・板金・保険
 キャブレターについては、大昔(といっても40年位前)、散々と触れ、分解、調整などしてきたから、最近のプロと称する子供(兼坂弘氏風に皮肉を込めて記す)には負けぬスキルを持っているつもりだ。

 例えば、通称ストロンバーグ型と呼称される、最も採用例が多かったキャブだが、ストロンバーグはオリジナルのメーカー名であり、正式名称は2バレル・2ステージ型キャブというものだ。プライマリーバルブが、5、60°程度で、セコタッチと呼ばれるリンク機構でセカンダリーバルブが開き始め、プライマリーバルブ全開で、セカンダリーバルブも全開となる。広範囲の吸入空気量をカバーリングしつつ、1バレルのバレル径を極端に大きくすることなく、中高速のドライバビリティを良好に保つ仕組みとして多用されたのだろう。なお、これを2つ並べたツインキャブというのが、多くのスポーティグレードに採用された。また、大排気量のアメリカンV8では、4バレルキャブというのが多かったが、概略この2バレルキャブが並列になった構造であった。

 さて、今回の主題であるソレックスキャブであるが、オリジナルは仏国SOLEX社製のものであるが、三国工業でライセンス生産され、多くの国産スポーティエンジンに装備されたものだ。型式は、40PHHなどと表記されるが、40はバレル径40mmを、Pは加速ポンプを、HHはホリゾンタル(水平)が2つの双胴型を示す。これにより4気筒なら2つ、6気筒なら3つを連装することで、単シリンダーワンバレルの、完全に吸気干渉を排した高効率な吸気系が成立することになる。ただし、吸気管長の自由度が燃料噴射みたいに自在とはならず、特に低中速における吸気ラム効果(吸気慣性および吸気脈動による過給)を高めることは困難であり、せいぜいのところ高回転全開域において吸気ファネルまでの総管長における吸気脈動による共振効果に止まるのだろう。なお、ほぼ同様の構造のキャブとして、伊国のウェーバーとかデロルトが知られているが、触れていないので評価しかねる。

 ソレックスの主な実際構造を見て行こう。まず、どんなキャブでもフロート室というがあって基準液面を一定に保つ仕組みがある。これにより、適正な混合比の基本要件を作っている。昔のキャブではフロートが真鍮製で半田により立方体を成形し浮かばせていたが、半田の不良によりフロートが沈みオーバーフロートで加濃混合気で不調なるなんてこともあった。ソレックスのフロートは、耐油製ラバーの発泡体で作られパンクがない。しかも、フロートは双子式の特異な形状をしており、フロートヒンジ位置の工夫もされており、急加速、急減速、急旋回でも、フロート液面変化が少なく、良好なエンジンレスポンスを維持している。

 次に、エンジン稼働中に実際の燃料供給を行う仕組みだが、バレル内にベンチュリーが設けられ、ここを通過する吸入空気の流速に応じた負圧により、燃料がフロート室から吸い出されるのは、ほとんどのキャブで同様である。つまり、これがメイン系統となる訳だが、ある程度スロットルバルブを開いていないと、ベンチュリーに負圧は生ぜず燃料は供給されない。そこで、スロットルバルブの微小開度では、バルブの上流直部にアイドルポートおよび長穴もしくは多段穴となったスローポートという低速専用の燃料供給の機構、すなわちスロー系統を持たせて対応している。特に、スロットルがほぼ全閉のアイドリング状態では、アイドルポートの供給燃料を調整できるアイドルアジャストスクリューを持っており、アイドルCOの調整が可能となっている。

 メイン系統であるが、ソレックスの場合、キャブ上部の1本のビスで固定されたカバーを外すことで、双胴それぞれのエマルジョンチューブを抜き出し、下部のメインジェットや上部のエアジェットの交換を容易に行え、レースなどで簡易にミクスチャ(混合気)のセッティングが行えるよう留意された構造とされている。

 もう一つ、スターター系統系統のことに触れてみる。これは、一般のキャブにおけるチョークバルブに相当するもので、寒冷な冷間時の始動に使用するものだ。一般キャブでは、キャブ吸入部の最上部にチョークバルブが設定され、これを閉じることにより、強制的にキャブベンチュリー部に負圧を作用させ、メインノズルから燃料を吸い出させるものだ。ソレックスの場合は、専用のスターター系統が用意され、室内のチョークノブを引くと、スターターディスクが回転し、始動用の空気と専用ジェットからの燃料を供給する仕組みが取られている。従って、チョークノブを引きスターター系統を作用させた場合は、吸入空気はスターターディスク部の隙間から吸い込まれる(エアクリーナーを経由しない)ので、「シュー」という音を出す。なお、実際ソレックスキャブを扱って来た経験からは、極端な極寒冷時においても、始動時に予めチョークノブを引いてからスターターモーターを駆動する必要性はあまり感じない。相当な日数を放置した様な車両でない限り、強力な加速ポンプが装備されており、1、2度スロットルを踏み込んでスターターを廻せば、特に不具合ないクルマでは容易にエンジンは始動できる。その後、直ぐ走り出したい時に、改めてチョークノブの引き具合を加減しながら引くことで用は足りるのだ。

 実際の調整のことに触れてみる。これはレーシングマシンとして、コースに合わせたセッティングではないから、主にアイドル調整として、如何にエンジン振れ少なく低回転で安定させるかというものが中心となる。まずは、アイドルアジャストスクリューを緩やかに閉め込んで(強く閉め込むと段付き摩耗を生じるから注意)全閉させてから規定回転(だいたい2.5回転程だったか?)戻した基本設定を行う。次に、2つのキャブの同調調整を行う。これは2つのキャブのそれぞれが、同一開度で連動する様に調整するものだ。調整はフローメーターを当てて、吸入吸気量を前後キャブ間で同じになるよう、スロットルアジャストスクリュー(全閉開度を調整するスクリュー)で同一吸入量かつ基準アイドル回転数になる様に調整を行う。なお、フローメーターは通気抵抗を生じるので、極短時間で素早く当てて、通気量を見極めることが大事だ。

 以上で、アイドルの安定がそこそこで、CO、HC濃度が基準値以下ならOKだが、アイドルの回転がバラツクとか振れが大きいという場合は、以下の調整を行う。パワーバランス調整と呼ぶのだが、アイドル回転で各気筒のプラグコード1本だけ抜き、単気筒の燃焼を止めた時のエンジン回転の落ち具合を比べるものだ。このパワーバランステストにおいて、全てのシリンダー毎がほぼ同様の回転落ちを示すならOKだが、振れが大きい様な場合は、特定シリンダーの回転落ちが大きいことがあるだろう。その場合、アイドルアジャストスクリューをある程度閉め込むもしくは開けるなど、調整を追い込んで行く必要がある。なお、そもそもキャブ側の問題ではなく、特定シリンダーの圧縮圧力が低い等、メカニカルなトラブルが要因の場合もあるので、そこを見極めるスキルが必要なのだ。
 何れにせよ、昔の多連キャブのスポーティエンジンでは、バルブタイミングも固定で、ある程度低速を犠牲にし中高速を重視するがため、オーバーラップ(吸排気バルブが同時に開いている角度)も大きめで、バルブ作用角も大きめであるから、シングルキャブみたいに極低回転でのアイドルの安定は望み得なかった。具体的に記せば、シングルキャブだと基準アイドル回転600rpmだが、ソレックス仕様だと800rpmとかが基準となっており、それでもある程度のエンジン振れは止むないものとなっていたのだ。




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