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「ビッグモーター」巡る損保と伊藤忠のすき間風

2024-07-17 | コラム
「ビッグモーター」巡る損保と伊藤忠のすき間風
7月17日(水)  東洋経済

賠償保険などの引受要請に、大手は「時期尚早」

「保険を引き受けて当然だろ、というような高圧的な印象を受けた。あの人たちは、われわれの現状をまったく理解していない」。損害保険大手のある役員は、そう言って深いため息をつく。この役員が言う「あの人たち」とは、伊藤忠商事のことだ。

さらに、ここで言う「保険」とは、伊藤忠商事と子会社の伊藤忠エネクス、投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズ(JWP)の3社が共同出資によって発足させた、ウィーカーズ(旧ビッグモーター)との保険取引を指している。

伊藤忠などの3社連合は、ビッグモーターとその子会社の全事業を会社分割のかたちで承継し、ウィーカーズとして5月に発足。経営再建に向けて、事業基盤を整えるため、店舗の火災保険といった管財保険の手配を進めていた。

「自管賠については時期尚早であり論外」
一方で、大手損保各社は管財保険の引き受けについては慎重な姿勢だった。中でも、「自管賠(自動車管理者賠償責任保険)については、はっきり言って時期尚早であり論外だった」と同役員は話す。

それもそのはず。自管賠とは、顧客から修理などで預かった自動車を損壊させるなどした場合に、その賠償費用を補償する保険のこと。ビッグモーターはその自管賠を悪用し、賠償費用を保険会社に不正に請求していた疑いがある。

そうしたコンプライアンス体制の課題が、社風も含めて払拭されたかはっきりしていない段階で、社名と経営主体が変わったからといって、おいそれと自管賠を引き受けるわけにはいかなかったわけだ。

結局、大手各社が軒並み自管賠の取引を謝絶したことで、中堅のAIG損害保険が契約を引き受けることとなった。

ただ、伊藤忠側としては引き受け手が1社だけとなり、保険料が高くなる状況を避けたかった。そのため6月以降、大手損保各社に改めて引き受けについて相談したが、その交渉姿勢をめぐって、大手損保の不興を買ってしまった。

契約交渉にあたって、伊藤忠が提示した書類には、①ビッグモーターの借金や不正請求の弁済といった債務を引き継いだBALM(バーム)と、事業を引き継いだウィーカーズは別会社であること、②伊藤忠で法務担当の役員を務めた人物をウィーカーズに派遣し、徹底した法令順守を敷いていること、③将来のグループ会社化を見据えて、伊藤忠が経営に深く関与する方針であること、が記されている。

「非常に上から目線の内容だった」
そこまではよかったが、それに続く記述のトーンは、「われわれ伊藤忠がここまで経営にコミットすると言っているにもかかわらず契約の引き受けを謝絶する理由は何なのか回答を求める、という非常に上から目線の内容だった」(大手損保役員)という。

大手損保が自管賠の引き受けに慎重なのは、何も不正請求被害の回復といった禊(みそぎ)が済んでいないからというだけではない。

ビッグモーターから従業員の雇用を引き継いだことで、ウィーカーズには不正請求や器物損壊などの不正行為に関与した、またはその疑いのある従業員が少なからず残っている(撮影:大澤誠)
ビッグモーターの従業員約4200人をウィーカーズが引き継いだことで、法令違反のリスクが依然としてくすぶっていることも、取引を難しくしているのだ。

そもそもビッグモーターの保険金不正請求は、前副社長をはじめとした経営陣や工場長などの上層部からの圧力だけではなく、現場の作業員が半ば自発的に手を染めていた事例が少なくなかった。

工場の実態を知る損保ジャパンの関係者は、「誰かに指示されたわけでもなく、タイヤをわざとパンクさせたり、量販店で買ってきたカラースプレーで車両を下塗りして、そのスプレー缶を隠しもせず散乱させたりしている工場は1つや2つではなかった」と打ち明ける。

不正を排除できるのか
そうした不正に関与した、もしくは疑いがある従業員を、事業承継に際して完全には排除できておらず、今なおウィーカーズに在籍しているわけだ。伊藤忠は「承継前に作られた第三者調査委員会・賞罰委員会において、外部弁護士も入り、過去あった事案について調査した上で、懲戒解雇や相応の処分が下された。そのプロセスを経て、解雇されずに残っている社員は全員、ウィーカーズ側に承継されている。承継以降は、引き続き内部通報制度等を使いながら情報を吸い上げ、調査を重ね、適切に対処していく方針だ」としている。

「懲戒解雇や相応の処分が下された」というが、ビッグモーターの不正請求の実態を知りながら、証言書類の改ざんを指示するなど隠蔽行為を続けた、いわば“主犯格”の元板金部長が「いまだにウィーカーズに在籍していることも大きなリスク要因だ」と、大手損保の幹部は話す。

そうした心もとない状況にもかかわらず、自管賠などの保険取引を高圧的に迫る伊藤忠と、「現状をまったく理解していない」と憤りを募らせる大手損保。両者に吹くすきま風は、当面やみそうにない。

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