私の思いと技術的覚え書き

歴史小説、映画、乗り物系全般、事故の分析好きのエンジニアの放言ブログです。

トラック修理のこと

2008-11-16 | 車と乗り物、販売・整備・板金・保険

 クルマ好きの私ですが、マイカーにはしたくもありませんが、トラックやバス等の損傷車も興味を持て見て来ました。そんな訳で、偶にはトラック関連を中心とした事故車修理の話題として記してみます。

 ご承知のようにトラックの構造は、フレーム(いわゆるハシゴ型フレーム)を持つ車体構造を持っています。ある程度大きな事故が生じると、このフレームに曲がりや捻れが生じるものです。そして、ハシゴ型フレーム構造では、全体が菱形に変形する菱曲がり変形や、車両の前後から見たときに、左右の高さが異なる捻れというものが生じる場合があります。この様な、車両の全体に変形が及ぶということは、モノコック構造を持つ乗用車(特に最近の衝突安全対応の高剛性ボデーは)では、案外少ないものです。

 さて、この様なフレーム構造は、大昔の乗用車でも一般的なものでした。これらフレームの左右曲がりや、菱曲がり、捻れといった変形損傷が生じた時、どの様に直して来たのかと云うことを記してみます。

 ハシゴ型フレームでは、左右の縦を貫通するサイドフレームと、それら左右を接続する多数のクロスメンバーで構成されています。そして、これらの結合は、相変わらず鋲接(リベット)が利用されているのです。このリベット結合は、かつての造船や橋梁等に多用されて来ていました。しかし、溶接技術の向上もあるのだと思いますが、今や造船でリベットが使用されているケースはほとんどないのでしょう。しかし、橋梁は一体部分は溶接ですが、大物同士の結合は多数のボルトにより結合なされています。でも、トラックフレームでは、相変わらずリベットによる結合がなされている場合が多いのです。

 この理由は、リベット結合による方が、ある程度の応力集中を逃がすことができるので、フレーム本体の亀裂等に至る破壊を防止することができる等の理由によるものだと想像されます。ところで、この鋲接(リベット)ですが、かつてはリベットを加熱軟化させて、ハンドツールとしてのエアハンマーで頭部を半球状に成型していたものでした。ですから、当時の橋梁等を作る際は、橋下でバーナーでリベットを真っ赤に加熱させ鉄火バチで橋上に投げ上げ、リベット打ちの人はそれを受け取ると手早くリベットを打ち付ける(リベット背面には反力を受ける受けてが居る)という、サーカス紛いとも思える様な作業を行っていたそうです。でも、現在のトラックフレームのリベットは、特に加熱もせずとも500トンクラスで加圧できるリベッターという工具がありますから、昔から見れば楽なものと思います。

 こんなトラックのフレームですが、場合によっては局所に本当に大きな変形を生じている場合があります。現在では、乗用車と同様にフレーム修正機があり利用されています。しかし、昔の職人は頑丈なH型鋼(重量鉄骨の長さ5m程度のもの)と油圧押しラム(50トンクラスのジャッキ)とチェーン数本で直していたのです。そんな修復作業の一部を何度か見て来たのですが、その概要Framereapirを若干記して見ます。

 中・大型車のサイドフレームは、大体がコの字型のチャンネル形状です。この、サイドフレームが左右にどちからに振れている場合、H鋼をサイドフレームに沿わせ、その前後のそれぞれをチェーンで固定し、曲がりを修正したい部分のフレームウェブ(フレームの腹の部分)を、押しラムで加圧する訳です。金属の性質として変形を生じた部分には加工硬化という現象が生じていますから、単に加圧しただけでは直り難いものですから、その状態でフレームフランジ部を大ハンマーで強く打撃を繰り返すのです。

 さらに、フレーム全体の捻れが生じている場合の 修正は、ビックリする様な光景でした。フレームの数カ所を床にチェーンで固定し、捻れと反対方向にクレーン車で捻る訳です。しかし、金属には弾性というバネとしての性質がありますから、相当に大きく捻り戻す必要があるのです。見ていてビックリする程、大きく捻り戻す姿に驚いたものでした。この様な現象は、現在の乗用車のフレーム修正機による引き作業でもスプリングバックという現象で、良く知られています。このトラックの捻れ修正でも、同様で、直ったと思って、暫く走行するとまた捻れが戻りきって居ないという現象が生じるそうです。ですから、捻れ修正中に、各クロスメンバーを結合しているリベット部を中心に、大ハンマーで打撃し、スプリングバックを少なくする様(つまり残留応力を抜く様)にする作業を行います。このことは、現在の乗用車のフレーム修正作業においても、サイドメンバー等の高い剛性を持った部分の修正において、「空打ち」という周辺部分を打撃する作業と共通するものと同様なのです。

 ところで、あるトラック専門の板金屋さんから聞いた話ですが、捻れ変形は全長の長いトラック程、生じ易いものです。中には、新車から捻れが生じていたなんてこともあったという位だそうです。そんなトラックの捻れ変形ですが、箱バンより平荷台車の方が生じ易いとのことです。モノコックボデーと同様に、箱バンの方が荷台としての剛性が高いことから頷けることと思います。

追記

 偉そうに後輩アジャスターへ向けて記します。きっと先輩アジャスターから、クルマの損傷はある程度離れて全体を観察することが大切だと云うこと(いわゆるマクロ的な観察が重要)を聞いていると思いますが、乗用車よりトラックではさらに離れて観察して見る必要があると私は思っています。




最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。