トラックタイヤの脱落で国交省注意喚起
トラックタイヤの脱落問題が相変わらず世を騒がせている。
このタイヤの脱落だが、いわゆる旧方式(JIS)より新方針(ISO)の左後輪で多いと云われている。確かにISOでは、ボルト本数は旧の8本から10本に増し、PDC(締結ボルトが描く円の径)を大きくすることで、物理的にはホイールとハブの締結剛性を高めているのだが、左輪については、旧の左ネジでなく、左右共通の右ネジが使用されることと、旧はインナーホイールとアウターホイールを別々のナットで締め付けていたのを、1つのナットで共締めする方式になっている弱点がある。このため、新方式の後輪ダブルタイヤでは、ナットの緩みで脱落すると、2本が同時に外れてしまうことになる。
このタイヤ脱落の件だが、私見として感じているのは、後輪1軸車より2軸車に多いと感じているところだ。つまり、後輪1軸の大型車でも比較的積載量が小さめのとか、大型バスではあまり生じていない様に感じる。これについては、後輪2軸車以上(トレーラーなど3軸というのもある)では、後輪にはステア機能がないため、スラストにこじられる応力が働きやすく、どうやら最後軸の左側車輪が脱落している事例が多い様に感じられる。
それと、そもそも、この脱落事故が目立ち始めて既に10年程になるが、締め付けトルクの過小が問題にされることが多く、トルクレンチでの厳格なトルク管理を云われ、整備士資格の有るものでさえ、トルク法が絶体見たいな考えを持つ者がいるが、そもそもトルク法では±30%程度の軸力のバラツキが生じると云うことを判っているのかと思わざるを得ない。
このトルク法の欠点を補うものとして、エンジン内部の過重部品の締結においては、数十年前から回転角度法という締め付け方に変わって来ているところなのだ。ただし、この角度法には、ボルトの軸応力の弾性帯域で使用するものと塑性帯域で使用するものとがあり、バラツキを少なくしかもなるべく細いボルト(軽さを追求する目的)を使用しようとすると塑性域ボルトとなる。この場合は、塑性域ボルトの再使用を一定のボルト長計測の中で許容しているメーカーと、一切再使用を認めていないメーカーがある。ただし、塑性域法でタイヤ(ホイール)の様に、比較的多く脱着を繰り返す部品には、その使用は不適当と云うことになるだろう。
近日、国交省でアナウンスされた内容には、ナットに錆があるものがあり、その辺りの点検を注目しろというものだが、説明として舌足らずの説明と感じる。私見としては、以下の様な説明を行うべきと考える。
①ナットに付いては錆の点検を行うが、特に注目すべきはワッシャおよびボルト底部の座面とねじ部となる。
②ボルトについてもねじ部の錆や痛みを目視点検すること。
③該当ボルトとナットは、予め給油を行い、ホイール装着前に手でナットをホイール装着位置を十分包含するまでねじ込んでみて、スムーズに廻ることを確認すること。
④ハブのホイール締結面およびホイールのハブ締結面およびダブルタイヤの場合は相手ホイールの締結面の錆や汚れ異物がないか十分点検し、錆などがある場合は十分除去すること。また、該当部に摩耗の形跡がある場合は、再使用を行わないで交換すること。
⑤締め付けは、インパクトレンチで行わざるを得ないが、段階を設けて、ステップバイステップで対角線上に小トルクから規定トルクまで上げる操作を少なくとも3段階程度に分けて行うこと。
⑥最終締め付け確認後、車輪を設置させ、トルクレンチで締め付けトルクを確認すること。
将来的な問題として
既に実験的にはボルト軸内にピエゾ素子などの歪み計を装着して、ボルト軸力をモニタリングできるものが研究発表されており,これの実用化と装着義務化を進めること。これにより、無線電波で絶えず運行中の個別ボルト全数のモニタリングを行い、現在の軸力が精度高くモニタリングできることと、1本でも軸力低下が生じた場合は、速やかに運転者に警報を報知するシステムを目指すこと。
【過去の参考記事】
ボルト締結のトルク管理は絶対か?
2020-04-27 | 技術系情報
https://blog.goo.ne.jp/wiseman410/e/c92dfee080e5529ae45843062069aef2
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タイヤナット、さび注意 大型車の脱落事故多発 オイル塗り締め込みを・国交省
時事通信 3/5(土) 7:11配信
写真:タイヤ脱落事故を起こした車両のさびたワッシャー付きナット(右)。左はさびがないナット=2月22日、東京都千代田区
トラックなどの大型車からタイヤが脱落する事故が多発している。
国土交通省によると、2020年度には過去最多の131件を数え、21年度も1月までに107件起きた。タイヤを固定するナットのさびが原因とみられ、国交省はオイルを塗るなど適切な整備を呼び掛けている。
同省が、総重量8トン以上のトラックや乗車定員30人以上のバスなどを対象に集計した。事故件数は11年度の11件を底に増えており、人身事故は11~20年度で計20件あった。
国交省の実験によると、時速60キロで走行中のトラックから重さ約90キロのタイヤが脱落し人形に衝突した場合、人形は約4メートル飛ばされた。実際に起きれば命に関わる事態になるという。
ホイールはボルトと、ドーナツ状の「ワッシャー」が付いたナットで挟んで固定する。国交省は21年秋以降に脱落事故を起こした大型車で、ワッシャー付きナットにさびや汚れがある事例を複数把握。さびでナットが滑らかに回転しないため締まり切らず、脱落につながるという。
日本自動車工業会が行った実験では、ワッシャーとナットの間に泥水を入れて締め付けを繰り返すと固定する力が弱まり、さらに腐食すると当初の半分程度になるが、清掃してオイルを塗ると固定力が復活した。
ワッシャー付きナットは、10年に国際規格が適用されて以降、使われるようになった。自工会の調べでは、国内・国際両規格とも、走行距離が500キロを超えても正しく締められていれば走行に問題はないという。
国交省の担当者は「適切な整備で事故は防げる。タイヤを交換する際にナットを清掃してオイルを塗ってほしい」と話す。同省は、業界関係者や学識経験者らによる検討会でさらに調査・分析を進め、22年秋ごろ対策をまとめる方針。
国交省、大型車車輪脱落事故件数の速報値を発表。2021年4月から2022年1月末までに107件発生
大型車タイヤ脱着時の適切なホイールボルト&ナット点検整備を再度注意喚起。「大型車の車輪脱落事故防止対策に係る調査・分析検討会」を設置

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#ニュース 2022/02/28
国土交通省は2022年2月18日、大型車車輪脱落事故件数の速報値を発表。2021年4月から2022年1月末までに107件発生しており、過去最高を記録した2021年度の同じ時期(2020年4月~2021年1月末は113件。年度総計では131件)に迫っているうえ、それらの中にタイヤ脱着時にホイールボルト&ナットの点検整備を適切に行っていない事案が散見されることから、再度注意喚起を行った。
円滑に回らないホイールナットを使用してタイヤを取り付けると、ナットが本来あるべき位置まで締まらず、十分な締結力が得られないため、走行中にナットが緩み車輪が脱落するおそれがある。
そのため、大型車のタイヤを脱着する際は、ホイールナットを清掃した上で、ナットとワッシャーの間を含めて適切に潤滑剤を塗布するとともに、劣化したホイールナットは必ず交換するよう呼びかけている。

トラックタイヤの脱落問題が相変わらず世を騒がせている。
このタイヤの脱落だが、いわゆる旧方式(JIS)より新方針(ISO)の左後輪で多いと云われている。確かにISOでは、ボルト本数は旧の8本から10本に増し、PDC(締結ボルトが描く円の径)を大きくすることで、物理的にはホイールとハブの締結剛性を高めているのだが、左輪については、旧の左ネジでなく、左右共通の右ネジが使用されることと、旧はインナーホイールとアウターホイールを別々のナットで締め付けていたのを、1つのナットで共締めする方式になっている弱点がある。このため、新方式の後輪ダブルタイヤでは、ナットの緩みで脱落すると、2本が同時に外れてしまうことになる。
このタイヤ脱落の件だが、私見として感じているのは、後輪1軸車より2軸車に多いと感じているところだ。つまり、後輪1軸の大型車でも比較的積載量が小さめのとか、大型バスではあまり生じていない様に感じる。これについては、後輪2軸車以上(トレーラーなど3軸というのもある)では、後輪にはステア機能がないため、スラストにこじられる応力が働きやすく、どうやら最後軸の左側車輪が脱落している事例が多い様に感じられる。
それと、そもそも、この脱落事故が目立ち始めて既に10年程になるが、締め付けトルクの過小が問題にされることが多く、トルクレンチでの厳格なトルク管理を云われ、整備士資格の有るものでさえ、トルク法が絶体見たいな考えを持つ者がいるが、そもそもトルク法では±30%程度の軸力のバラツキが生じると云うことを判っているのかと思わざるを得ない。
このトルク法の欠点を補うものとして、エンジン内部の過重部品の締結においては、数十年前から回転角度法という締め付け方に変わって来ているところなのだ。ただし、この角度法には、ボルトの軸応力の弾性帯域で使用するものと塑性帯域で使用するものとがあり、バラツキを少なくしかもなるべく細いボルト(軽さを追求する目的)を使用しようとすると塑性域ボルトとなる。この場合は、塑性域ボルトの再使用を一定のボルト長計測の中で許容しているメーカーと、一切再使用を認めていないメーカーがある。ただし、塑性域法でタイヤ(ホイール)の様に、比較的多く脱着を繰り返す部品には、その使用は不適当と云うことになるだろう。
近日、国交省でアナウンスされた内容には、ナットに錆があるものがあり、その辺りの点検を注目しろというものだが、説明として舌足らずの説明と感じる。私見としては、以下の様な説明を行うべきと考える。
①ナットに付いては錆の点検を行うが、特に注目すべきはワッシャおよびボルト底部の座面とねじ部となる。
②ボルトについてもねじ部の錆や痛みを目視点検すること。
③該当ボルトとナットは、予め給油を行い、ホイール装着前に手でナットをホイール装着位置を十分包含するまでねじ込んでみて、スムーズに廻ることを確認すること。
④ハブのホイール締結面およびホイールのハブ締結面およびダブルタイヤの場合は相手ホイールの締結面の錆や汚れ異物がないか十分点検し、錆などがある場合は十分除去すること。また、該当部に摩耗の形跡がある場合は、再使用を行わないで交換すること。
⑤締め付けは、インパクトレンチで行わざるを得ないが、段階を設けて、ステップバイステップで対角線上に小トルクから規定トルクまで上げる操作を少なくとも3段階程度に分けて行うこと。
⑥最終締め付け確認後、車輪を設置させ、トルクレンチで締め付けトルクを確認すること。
将来的な問題として
既に実験的にはボルト軸内にピエゾ素子などの歪み計を装着して、ボルト軸力をモニタリングできるものが研究発表されており,これの実用化と装着義務化を進めること。これにより、無線電波で絶えず運行中の個別ボルト全数のモニタリングを行い、現在の軸力が精度高くモニタリングできることと、1本でも軸力低下が生じた場合は、速やかに運転者に警報を報知するシステムを目指すこと。
【過去の参考記事】
ボルト締結のトルク管理は絶対か?
2020-04-27 | 技術系情報
https://blog.goo.ne.jp/wiseman410/e/c92dfee080e5529ae45843062069aef2
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タイヤナット、さび注意 大型車の脱落事故多発 オイル塗り締め込みを・国交省
時事通信 3/5(土) 7:11配信
写真:タイヤ脱落事故を起こした車両のさびたワッシャー付きナット(右)。左はさびがないナット=2月22日、東京都千代田区
トラックなどの大型車からタイヤが脱落する事故が多発している。
国土交通省によると、2020年度には過去最多の131件を数え、21年度も1月までに107件起きた。タイヤを固定するナットのさびが原因とみられ、国交省はオイルを塗るなど適切な整備を呼び掛けている。
同省が、総重量8トン以上のトラックや乗車定員30人以上のバスなどを対象に集計した。事故件数は11年度の11件を底に増えており、人身事故は11~20年度で計20件あった。
国交省の実験によると、時速60キロで走行中のトラックから重さ約90キロのタイヤが脱落し人形に衝突した場合、人形は約4メートル飛ばされた。実際に起きれば命に関わる事態になるという。
ホイールはボルトと、ドーナツ状の「ワッシャー」が付いたナットで挟んで固定する。国交省は21年秋以降に脱落事故を起こした大型車で、ワッシャー付きナットにさびや汚れがある事例を複数把握。さびでナットが滑らかに回転しないため締まり切らず、脱落につながるという。
日本自動車工業会が行った実験では、ワッシャーとナットの間に泥水を入れて締め付けを繰り返すと固定する力が弱まり、さらに腐食すると当初の半分程度になるが、清掃してオイルを塗ると固定力が復活した。
ワッシャー付きナットは、10年に国際規格が適用されて以降、使われるようになった。自工会の調べでは、国内・国際両規格とも、走行距離が500キロを超えても正しく締められていれば走行に問題はないという。
国交省の担当者は「適切な整備で事故は防げる。タイヤを交換する際にナットを清掃してオイルを塗ってほしい」と話す。同省は、業界関係者や学識経験者らによる検討会でさらに調査・分析を進め、22年秋ごろ対策をまとめる方針。
国交省、大型車車輪脱落事故件数の速報値を発表。2021年4月から2022年1月末までに107件発生
大型車タイヤ脱着時の適切なホイールボルト&ナット点検整備を再度注意喚起。「大型車の車輪脱落事故防止対策に係る調査・分析検討会」を設置

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#ニュース 2022/02/28
国土交通省は2022年2月18日、大型車車輪脱落事故件数の速報値を発表。2021年4月から2022年1月末までに107件発生しており、過去最高を記録した2021年度の同じ時期(2020年4月~2021年1月末は113件。年度総計では131件)に迫っているうえ、それらの中にタイヤ脱着時にホイールボルト&ナットの点検整備を適切に行っていない事案が散見されることから、再度注意喚起を行った。
円滑に回らないホイールナットを使用してタイヤを取り付けると、ナットが本来あるべき位置まで締まらず、十分な締結力が得られないため、走行中にナットが緩み車輪が脱落するおそれがある。
そのため、大型車のタイヤを脱着する際は、ホイールナットを清掃した上で、ナットとワッシャーの間を含めて適切に潤滑剤を塗布するとともに、劣化したホイールナットは必ず交換するよう呼びかけている。
