German Vintage Modules

ドイツ等のビンテージ業務用録音機材紹介、ラッキング、モディファイなど。

完成 - Neumann Summing Mixer

2013-07-20 01:36:33 | Neumann Summing System
ひと味違う50歳で建てた家―家づくりで見つけた楽園 (ホームメイク)ひと味違う50歳で建てた家―家づくりで見つけた楽園 (ホームメイク)価格:¥ 2,200(税込)発売日:2009-07



Ten_danner_rack当初はほぼ同じ仕様のラックを2台製作する予定でしたが、カスタム物なので製作中に「アレも欲しい、コレも追加」と最終的には全く違う仕様のラックが2台完成しました。

1台は生録をメインとした使用目的になったため更に6Uのラックを追加してMic Pre(V476b)とEQ(W491A)を10ch分実装してモニターセレクターとメーター類もそちらに移設したためメインラックの空いたスペースにCOMP(U473A)とリレーやSumming Amp等の入るEuroスペースにLimmiter(NTP 179-400)を実装した小規模の生録には実践的なコンソールに仕上がりましたが、完成間近で急遽使用する予定が繰り上がりバタバタと写真を撮影する間もなく納品となってしまいました。

もう一方は画像のラックになりますが、コチラは主にDAWのサミングやトラッキングに特化したベーシックな仕様で、10x2ながらSumming Buss入力も備えているので拡張性もあります。


Tendanner_t2信号の流れ順に、入力→位相切替(パッシブ / C&K)→CUT(リレー / EAO)→LCR PAN(リレー / C&K)→Summing→INS→EQ→INS→Master、大型コンソールとほぼ同じ構成となっており、各ch/各段毎に入出力のトランスとアンプも備えていますので、パッシブでサミングして最終段1段のみアクティブのサミングミキサーとは一線を画しています。

CUTスイッチですが、正しくはSUM/DIRECTの切替スイッチでDIRECT O/Pにショートプラグを挿せば完全なCUTスイッチにもなりますが、ドラム録音等の際に単体で録音したいKickやSna等は"DIRECT"出力から、TOMやAMB等のある程度纏めて録音したい音源は"SUM"出力を使用する事により何回かに分けて録音した際に違和感を感じるレイテンシー誤差によるグルーブ感の変化に悩まされる事なく1度に録音が完了します。

次にLCR PANですが、細かいMIXには連続的にL-R間任意の定位を設定出来る"PANPOT"が有利な事は承知していますがバランス回路のままPOTを設置するには4連のPOTが必要になる事と、更に音質面からパッシブではなくアクティブ動作にしたいのですが、オリジナルのPANモジュールを使用するとかなり大掛かりになってしまうので適当なOPAMPでアクティブ化を試すと本線の音色がそのOPAMPのキャラクターに大きく影響されるので、思い切って"POT"を排除して"LCR"タイプにしました。DAWには"PANPOT"がありますので全く不便さを感じないばかりか位相特性も良好で非常にスッキリとした精度の高い仕上がりとなりました。


Tendanner_wiring音声用の内部配線にはGothamのHookupケーブル、DCラインにはBelden、自作のリレー基板にはEckmiller時代の少々特殊な単線(特にBUSS LINE)を使用しており、背面にはDB25コネクター(digi ピンアサイン)を設置してリモートパッチ化してありますのでパッチを使用する際にはXLRで、192やHD i/oからDB25ケーブルを使用すれば8ch分はダイレクトに接続する事も可能です。


画像のラックは予算の都合で"AUX"セクションやINSポイントのトランス等が省略されており、マスターのW444staを突き上げで使用するにはインピーダンスマッチング(レベルマッチング)を抵抗で行う必要に迫られ、その箇所のみならず各所で調整してみたり色々と試行錯誤を余儀なくされたのが幸いしてか、各段でどのようなレベル設定が最適なのか非常に有益なデータが得られました。

AUXセクションもUNBAL化せず"BALANCE回路"のまま増設するには精度の高い2連の小型POT、Pre/Post切替するにはDPDT付き2連POTが必要になりますが、ここまでこだわったので増設が必要になった際にはAUXリターンも高音質Line AMPを備えた12x2仕様になるパッケージをご提案したいと考えています。


Neumannpsu何かと後回しになりがちなラックやPSUですがオリジナルPSUをノックダウンして完璧を期しました。

2 x N424AをHaufeのパワートランスで駆動するオリジナルと全く同じ仕様の+24VDC/ 2Aですが、N424Aを増設するも良し、NS424に変更して大容量化するも良し、今は空きスペースが多く少々寂しいですが将来の拡張に備えも万全です。

DAW全盛でミキサーはモニター表示されコントロールはマウスとキーボードの時代に何ともレトロな機材に思われがちですが、そのサウンドとフィジカルな操作性はTracking / Mixing共に懐かしい驚きを与え、完成した楽曲も内部MIXとはひと味違う新鮮さが味わえます。

 


Difference between the Neumann U47 and U48

2013-07-05 01:40:52 | vintage gear
ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウンヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン
価格:¥ 1,800(税込)
発売日:2011-07-19



U47The king of Microphonと言っても過言ではないNeumann U47と言うマイクがありますが、近年ではショートボディーよりロングボディー、K-47よりM-7、サテントップよりクロームトップ等、古ければ古い程良いみたいな傾向が見られるようですが、、、

確かにGN-107と言うトランスの入った極初期に生産された400本の個体(ラージバッジ)だけは別格ですが、BV-08入りの量産されたU47は経年変化による個体差が大きく、およそ7500本生産されたと言われるU47ですが、Neve1073同様、現存する個体はその数倍に及ぶようですので、一部のマニアには7500本の10%以下しか生産されていないU48が狙い目かも知れない 。と言うトピックです。

20年程前に所有していた100番台のU47を手放して以来、それと同等もしくは凌駕するような個体には巡り逢えないで来ましたが、幸運な事にVF14を始めヒーター用のプレート抵抗1780Ω、Bosch製のキャパシターに至るまで極めて健全で恐ろしく素晴らしいサウンドのU47を入手する機会に恵まれ、その際にマニアックですが面白いトピックを耳にしたのでご紹介します。


「U47とU48の違いは何か?」


30年余り録音業界に生息していますが、エンジニアやテックと話してもU47はcardioid とOmni、U48はcardioid と Figure of eight、指向性の違いがあるだけで内部回路は同一との説明以外耳にする事はありませんでした。

国内業界でも1、2を争うメンテナンサーが主宰するWEBにもそのように書かれていますが、どうやらそうではないようです。

"Recording the Beatles"にも書かれていますが、当時Abbey Roadに納品されたU47のほとんどは'60年初頭にNeumann本社へ送り返されU48スペックにモディファイされたのです。

ジョンとポールが向かい合わせで歌うのに都合が良いからでしょうか?


U47_inner詳細に踏み込む前にU47/48の基本的な所から入りますが、U47は1929年にデザインされたM-7と言うカプセルと第二次世界大戦当時に軍用ラジオの真空管として開発されたVF-14を使用して西ベルリンにて生産され戦後初(1947年)に登場した真空管マイクです。

それに対してU48は、M-7からK-47へとカプセルを変更して1957-1965年の間にU47マイクと組み合わせてM/S録音用などの目的で5~600本程生産されました。

先発のM-7はPVCベース、後発のK-47はMylarベースのダイアフラムで、PVCの10~12micronに対してMylarは6 micronと非常に薄いフィルムに金を蒸着させています。

カプセルやトランスに関しては、Andreas Glosserさんの所が詳しいのでそちらをご覧下さい。


さて、肝心な両者の違いですが、同時期に生産された個体を比べれば使用パーツも回路構成もほぼ同一です。

しかし、S/Nとdynamic behavior(動的挙動)はU48はU47に僅かながら劣ります。その大きな理由はPSUからの105Vをfigure of eight時に表裏同じ電圧を掛けるためにU48はcardioid時に50Vで動作させていますが、cardioid / ominiのU47はcardioid時に60Vで動作しています。

この10Vの電圧差がピーク入力時の歪率や音色に大きく影響するのですが、スペック的に劣る事を嫌うU48オーナーはどうにかして60V動作にして、より良いスペックに近づけたくなる訳で、シンメではないfigure of eightになっても良いから、、、とかPSUを120Vにモディファイしようとか色々策を練っている訳です。

これに関して、日本語のサイトを検索してみると「beatles」とか、パチもんの「US製U47」の広告ばかりで有益な情報は皆無ですが、海外のサイトはマイク界の両巨頭Klaus Heyne、Oliver Archut両氏がフォーラム内でスペック至上主義のU48オーナーを相手に熱くやりとりしているのが羨ましいです。

そんな折、「もうリタイアするから、、、」と、このU47を譲ってくれた重鎮から気になる言葉が発せられました。

「皆、U48のサウンドを聴きながらU47について語っている、、、」

諸事情からこのマイクの出自は明かせませんが、指向性スイッチの色からもわかるように'60年代にNeumann本社へ送り返してM-7→K-47サテンヘッド、U47→U48モディファイが行われた現物です。

このマイクを実際に手にして、その言葉の意味がわかったような気がします。

私はビートルマニアではないのでU47/48どちらでも好みのサウンドが録音出来れば、そんな事はどうでも良いのですが、スペック的に劣る何かがあのサウンドに作用しているのではないでしょうか?


もちろん前出のマイク界の巨頭が適切にメンテナンスしているような個体を比較した場合の話でスタジオにもおよそU47とは思えないようなサウンドのマイクが数多く存在し、辛うじてU47サウンドが感じられるような個体でも国内で長年使用されているビンテージマイクは何故か「和」的な印象だったり、USの著名なテックがメンテナンスしたマイクはドーピングでもしたかのようにモンスターサウンドだったり、50年以上の歳月は同じ個体に様々な歴史を刻まれて同じものは2つと無いとは思いますが、高温多湿の日本では吸水率の高いPVCはクラックが入りやすく、何れもre-skinやre-capが避けられない時期に来ています。

国内でre-skin出来るかどうかは知りませんが、前出の両巨匠が認めているのは世界で2人(Thierschさんと気難しい老人)だけですので、歴史的な文化財をお持ちの方は間違った選択をしないよう、人の2人分の寿命があるとされているVF-14と共に後世に伝えて下さい。

ビートルマニアや投機的な筋のおかげで高騰したNEVE/U47/V76なので、こんな事を書くと(多少)安価なU48の相場も高騰しそうで嫌なのですが、これから一生物のマイクをお探しの方は先入観を捨てて試されてはいかがでしょうか?