German Vintage Modules

ドイツ等のビンテージ業務用録音機材紹介、ラッキング、モディファイなど。

RFT MV810 - 修理の内容と近年思うこと 2

2024-03-31 23:10:30 | vintage gear

前回の続きです。

ラックの改修も完了しモジュールのリキャップに進みます、基本は今まで東独機材で結果の良かったメーカーのコンデンサーを使用して、まず片ch仕上げてリキャップのビフォーアフターを比較します。最初に手を付けた方のモジュールは予想通りの仕上がりで聴感・測定共に歪・音質も改善され、残すは誤った容量のコンデンサーが入っている方のモジュールを正規の値に変更して完成と思いきや、周波数特性がさらに酷くなり歪も悪化するではありませんか、、、

RFTのゲルマニウムトランジスタは手持ちにない事もあって見過ごしていたのですが、入力段のひとつに収縮チューブが被されているものがあり、恐る恐る除去してみると何とTFK AC122で代用されていました。

近似値どころか全く特性が違うものが使用されており、これではまともに動作するハズもありません。

ここで、何故22ufと2.2ufが間違っていたのか?その理由を確信する事になります。

 

試しに2.2ufに差し替えてみると22ufの時より多少正常に近づくと言うか、低域特性は多少犠牲になりますが高域特性は聴感上なんとなく揃っているように聴こえます。

ここで「小数点の見落し」との見立てから、チートな修理を確信したと言う訳です!

近年、市場には目ぼしい有名機材は枯渇傾向なようで圧倒的にReverbから購入された方からのご相談が多いのですが、以前にもゲルマニウムEQのバイパススイッチに電流が流れない様に内部でジャンパーしてアクティブにならないような悪意ある改造のモジューを修理した事を思い出し、これもReverbだったな、、、と。同じようなケースは他にも多数あります。

 

音が出ていれば、返品・返金不可の暗黙の了解を悪用した、チート・悪意ある改造が横行して、さらには非常識な金額設定も多数見受けられ、ごく一部のセラーの所業と思いたいですが、あまりにも目に余るような状況です。

 

単純に壊れているだけなら発見も容易で壊れている部品を交換すれば修理も完了しますが、今回のケースのように電源電圧は足りず、適切な代替品も使用されておらず、クレーム対策で不正な改造が施されているような複合的なケースでは、原因の特定に余分な時間も費やし、それは修理代にも少なからず反映されてしまいます。

修理を生業にしている者にとってはビジネスチャンスと考えられるかも知れませんが、機材を冒涜するような改造を目の当たりにすると「手段は問わずマネタイズ」の現代社会の縮図を見ているようで機材好きとしては本当に腹立たしい気持ちになります。

このBLOGを始めた頃に入手した機材は、最低限でも技術者としての矜持を感じられるものが今思えば多かったように思いますが(それでも満足出来ないで始めたBLOGでした。)、楽器系の販売者が扱うようになってからは、このような悪い意味での魔改造が増えたような気がします。

とは言え、ここに来て感情的になっても仕方ないので「ゲルマニウムトランジスタ探し」に奔走する事になります。

長くなってしまいましたので、続きはまた次回とさせて頂きます。

 


RFT MV810 - 修理の内容と近年思うこと 1

2024-03-18 03:04:34 | vintage gear

ベルベットオーディオでラッキングされたものをReverb経由で入手されたらしく、送り返しての修理や返品も難しく、勤務されているスタジオのテックの方にも相談されたようですが対応は難しいとの事でご相談頂きました。

ご相談頂いた症状は、「ある程度の音量になるとマイナス側が頭打ちになって歪む。」との事、手持ちのパーツ類も枯渇しているのですが、これも何かのご縁と実機をお預かりして検証することになりました。

手元に届くと、モジュール下部が微妙にフロントパネルに届いていないため内部に落ち込み、輸送の振動でモジュールが暴れたのが原因か?ラックのメインスイッチはじめいくつかのスイッチ類が破損しており、このままでは危ないのでモジュールを抜き去ってからラックの検証になりました。

内部のPSUを確認すると、LM317を使用した回路に18V / 5VAのトランスで構成された電源1系統(2モジュール分)とL7824CTで構成されたファントム用(2系統)と少し首を傾げるような構成になっており、メイン電源はMV810/2で計算したのか?明らかに容量不足、ファントム用の2系統はタイムディレイのトランジスタが付いている訳でもなく、Rampもせず「ぶった斬り」なので何のための2系統なのか少々理解に苦しみます。

それに加え、MV810は-20Vのハイグランドですので、メインの電源はプラスマイナスひっくり返して使用されており、フロートされていればまだしも丁寧にも0V-シャーシ間は導通され、XLR pin1に+20Vが流れている状況でファントムの+48Vが設置されているためかなりの電位差が生じて問題に拍車を掛けています。

ベルベットオーディオでこのようなラッキングが行われたのか、それとも入手後に誰かが改造したのかは定かではないのですが、いずれにしてもこのPSUでは修理・改良は不可と考え、新たな2 x 24V / 30VA トロイダルと-20Vのハイグランドに適したPSU基盤に新設する事になります。

一方モジュールの方ですが、PSUの容量不足で電圧降下していたため「レベルが高くなると歪む」状況もしっかり電源供給すれば若干改善する事から、後はリキャップされたモジュールで左右違う値のコンデンサー(片側の22ufに対してもう一方は2.2ufで、この時点ではそれぞれの耐圧が違いサイズが似ているため、単なる小数点の見間違いと思っていましたが、、、)が入っていたのは確認出来ていたので、それらをリキャップし直せば歪むポイントと高域特性はキャリブレーションでどうにかなりそう!と予測していた所、更に大きな問題を発見します。

続きは次回に。。。

 

 


RFT MV810 - Mikrofonvorverstärker

2024-03-12 04:26:19 | vintage gear

今から遡ること、14年前の2010年にご紹介したRFT MV810/2がありましたが、今回はその前身のMV810です。

RFZ・RFTお約束であるロータリースイッチのリペアの様子も掲載していますのでこちらをご覧ください。

"/2"と同様に20〜60dB/5dBステップのGAINを持ち、-20〜-50dB/10dBステップのPADも備えているのでMIC、LINE共に様々なドライブ状況で対応可能です。

電源は-20Vハイグランド回路で動作し、/2の20mAに対してMV810は70mAとやや大きめの電力を消費します。

入出力共にトランスバランス、ピンアサインはMV810/2と同様で、コネクターは8ピンのものを2個使用します。

外観上はフロントパネルにあるモデルナンバーの"/2"以外全く同じ形状をしているため違いに気付かないとは思いますが、中身は全くの別物でサウンドキャラクターも大きく異なります。

SC299F、SF126C、SF127D等のシリコントランジスタで構成されているMV810/2に対して、前身のMV810はGC117、GC118等のゲルマニウムトランジスタで構成されています。

製造当時もRFT製のトランジスタは供給が充分でなかったのか、修復歴のなさそうな箇所でも最初からロシア製の代替品が採用されているモジュールも多く見られます。

肝心な音色ですが、シリコンのMV810/2は立ち上がりも良く粒立ちも滑らかで、その外観からは想像出来ない"Rich and Warm"なサウンドですが、ゲルマニウムのMV810はそれと比較すると音の粒立ちはやや粗く、やや少ないヘッドルーム上限近くになるとザラっとした歪みが現れて来ます。

この説明だけではMV810/2に軍配が上がるような内容ですが、実は録音するにあたりビンテージ感を求める際に必要な要素の多くは、粒立ちの荒さの隙間から見え隠れする奥行き感だったり、音の大小のみによる強弱ではなくドライブした際の耳に心地良い歪感だったりするので用途によっては大きく評価が異なります。

とりわけ、音場がわかりやすく立体的に構成される様はV781を彷彿とさせ、強弱への反応性の高さはレベルの変化以上に顕著なニュアンスとして表現されるので使い手次第では唯一無二のアンプになり得る事は容易に想像できます。

ただ、ゲルマニウムトランジスタの温度による音質の変化がやや大きため使用環境が限定されるのと、また入手性が絶望的に困難なため保守にはやや手間が掛かりますが、状態の良いモジュールを入手された方はまず手放す事はない程、魅力的なアンプです。

 

2010年にMV810/2を入手した際にMV810も20+台ほど入手していたのですが、当時もトランジスタが見つけられず5個1 、6個1で最終的には数ペアしか形にならなかったため記事の掲載には至りませんでしたが、14年の時を経過して修理の依頼を頂いたため懐かしくもありご紹介に至った次第です。

次回は故障の具体的な状況について、近年思う所も含めて、ご紹介したいと思います。