German Vintage Modules

ドイツ等のビンテージ業務用録音機材紹介、ラッキング、モディファイなど。

RFZ W760/2 - Stereorichtungsmischer Verstärkerbaustein

2010-11-30 02:07:58 | vintage gear
善き人のためのソナタ [Blu-ray] 善き人のためのソナタ [Blu-ray]
価格:¥ 2,500(税込)
発売日:2010-08-25




W7602'80年代初期の東独製 RFZ W760/2 ステレオマトリックスアンプです。V781と同じサイズのケースに収められたディスクリート構成のM/S、X/Y録音用のモジュールでステレオイメージ(左右の広がり)やセンターの補正等の調整が可能でステレオマイク録音の際に使用します。


W7602_innerRFZならではの手抜きのない作りで、上のダイアルでM/S、X/Yを切り替えますが他社のマトリックスアンプにはないバイパスモードが装備されているので、MIXの際に使用してステレオイメージの修正やステレオ→モノ変換等ライン音源のステレオイメージ調整にも比較試聴が簡単に出来て便利です。

このモジュールは入出力にトランスはありませんが特徴あるRFZサウンドは継承しており、とかくビンテージサウンドの要と言われるトランスなしでも回路設計で特徴あるサウンドを再現出来る事を確認出来る興味深いモジュールです。

西独Telefunken W689等のマトリックスアンプとは少々セッティングが異なっており、電源もハイグランドのV781と同様の -24VDC、コネクターはTuchelに似たRFZ用の26Pinでピンアウトはこちらです。


ワンポイントステレオ録音の方式は、X-Y、M/S、A-B、ORTF、バイノーラル、NOS、デッカツリー等様々な方式がありますが、ここではマトリックスアンプと関わりが深いX-Y、M/Sについて少々解説します。

X-Y方式は単一指向性にセットしたそれぞれのカプセルを110°(90~120°)程の角度でセッティングして左右の音場を狙いますが、M/S方式はその名の通り同軸上に"M"(MIddle = 正面)、"S"(Side =Mに対して90°側面)にセットしてMは単一指向性、Sは双指向性とし、MとSの信号の和と差を利用してステレオ信号に変換します。

その際に、通常はマトリックストランス(Neumann Z240等 1 : 0.7 ± 0.7)やマトリックスアンプを使用しますが、それらがない場合には、Mの信号をセンターに、Sの信号とそれを逆相にした信号をL-Rに振り分けてミキシングする事でも同様の結果が得られます。その場合、MとSの信号レベルを調整する事により左右の広がり感や中抜けを調整出来ますが、楽器等のバランスや距離感を程よく録音するためには何よりもマイクセッティングが重要となりますので色々お試し下さい。


 


Neumann SM23c - Stereo Röhrenmi?krofon

2010-11-16 23:36:47 | vintage gear
Sm23c11956年に発表された世界初の真空管ステレオマイク "SM 2"は、同軸上に配された2つのニッケルダイアフラム とAC701K使用のプリアンプで構成されており、電源部では指向性をOmni directional ~ Cardioid ~ Figure of eightと無段階に変更出来る機能を持ち、2段重ねのマイクカプセル (KKS2) の上部はコインで回す事で下部のカプセルとは270°までの角度調整が可能となっている。

Sm23capsfront音色はニッケルダイアフラム特有の高域に多少のピークを持ったサウンドではあるが、同じダイアフラムを使用したKM56同様に空気感の再現は秀逸で、SM 23cではその空気感はそのままに低域の物足りなさは改善されており、ストリングスやピアノの録音はもとよりドラム等のルームアンビエンスに最適で、オスカー・ピーターソンやフィル・コリンズ(SM23c with SSL listen mic comp.= "in the air tonight"で使用された事は有名)等の時代を象徴するサウンドでも一世を風靡した。

Sm23c3"SM 2"の後継機である"SM 23c"は、前述した低域特性の改善に加え1台のPSUから2つのプリアンプに電源供給していた電源部のレイアウトを独立したPSUからそれぞれのプリアンプへ電源供給するよう回路変更され、完全に2台のマイクロフォンとしての使用が可能となった。

Sm23c_inner1その後SMシリーズはAC701K使用のプリアンプは、ほぼそのままにU67等で使用されているラージダイアフラムを持つ有名な"SM 69"に発展して行くが、"SM 69 fet"に至っては全く違う印象のマイクロフォンとなってしまう。

PSUはSM 2用の"NSMa"に対してSM 23c用の"NSMa 23"と、どちらもTuchel 12pinコネクターを備えた一見して同じようなPSUがあるが、両者のピンアウトに互換はないので注意が必要である。

N52tNSMa 23以外にも"N52T"と言うV72と同じケースにインストールされたPSUが推奨されており、左右独立したPSUと言う事もあり音質的や音場的には優れているが、こちらはAC220V専用でAC117/127/220/240Vと多彩な切替が可能でコンパクトな"NSM"系のPSUが重宝される事が多い。また、"Z 10"アダプターを使用する事でM49/50用のPSU "NN48b"の使用も可能となる。

ワンポイントステレオ録音の方式は、X-Y、M/S、A-B、ORTF、バイノーラル、NOS、デッカツリー等様々な方式があるが、同軸ステレオマイクであるSM2/23cはX-Y、M/S方式にて使用する。上下カプセルの指向性はcardioid、角度を110°(90~120°)程にして使用するX-Y方式も魅力的ではあるが、正面を向けたcardioid(下段)+ 90°にセットしたfigure of eight(上段)をマトリックストランスやマトリックスアンプ経由で録音された音場は体育館のような広さのスタジオでもマイク周辺に居る人の様子などはリアルそのもので鳥肌ものである。

DAWの世界でもM/Sアルゴリズムを採用したbrainworx等のプラグインもあるようだが、次回はM/Sマトリックスアンプ/トランスについて紹介しようと思う。


Sm23c4追悼

『エンジニアの命』であるマイクロフォンは、敢えてこのBLOGでは取り上げてきませんでしたが、私がこの業界に入る機会を下さった恩師の遺された記事を拝読して、DAWの台頭で近年忘れかけていた生音やマイキングの重要性について少しでも多くの方にご理解頂きたく、そこで取り上げられていたSM 2/23cについて掲載する事にしました。

日頃の行いが悪いために、恩師とは残念ながらお目に掛かれませんでしたが、この場を借りて心からご冥福をお祈り致します。 合掌