German Vintage Modules

ドイツ等のビンテージ業務用録音機材紹介、ラッキング、モディファイなど。

Konski & Krüger FR200H - Passive Fader

2017-05-21 02:26:07 | vintage gear

大変貴重なモジュールの整備・ラッキングをご依頼頂き、BLOG掲載もご快諾頂きましたので、久しぶりに更新させて頂きます。

 

多接点に数多くの抵抗(手巻線を含む)を並べて減衰させる方法のフェーダーとしてEckmiller W85などが有名ですが、手巻の巻線抵抗は一部のみで初期のモデルもカーボン抵抗が併用されています。

 

巻線抵抗のアッテネーターとしては一部マニアの方垂涎のMaihak W44などがありますが、今回ご紹介するのは、恐らく後にも先にもお目に掛かる機会は皆無と思われる、ボビン型の手巻き線抵抗が印象的なKonski & KrügerFR200Hです。

 

 

Konski & Krüger社は1923年に”MEMBRA”と言われるホーンスピーカーをベルリンにて発表して以来、スピーカー、ヘッドフォンや電話機関連製品の製造を行ってきました。また軍需関連でも暗号マシンとして有名な「Enigma」を建造した事でも有名です。

 第二次世界大戦の最中、1943年に伝説の同軸コアキシャルスピーカーO15が誕生します。

O15はフィールドコイル型とアルニコのパーマネントタイプが存在しているので、ここが分岐点になった記念碑的な存在でもあります。

その開発エンジニアが前述のW85を生み出したHans Eckmillerなのです。

 OシリーズのSPユニットは知りうる限り、フィールドコイル型のO5、O7aからO15まではKonski & Krüger社の製造となりますが、後継のO16a、O17a (148TH), O17a/1 (148TH/1), はTH315/1でお馴染みのSchulz社に引き継がれて行きます。

 

脇道に外れてしまいましたが話をフェーダーに戻すと、Eckmillerが自らの名前を冠した代表作のW85は構造的にも音色的にも現代では到底再現出来そうにない超絶技巧が詰め込まれており、ある意味でパッシブフェーダーとしては究極の到達点との認識を持っていましたが、このFR200Hを聴いて更なる高みを経験してしまった次第です。

 

W85は中域のキャラクターが印象的で、聴感上のレンジ感は若干ナローレンジ傾向にありますが、FR200Hは、中域の美味しい所はそのままに、非常に清々しいハイエンドとW85より僅かに広くクリアなローエンドを備えています。

キャラクターの違いはNeumann W444sta(OA12タイプ)とTelefunken W690st-Dがそれぞれ甲乙付け難いような感覚にも似ており、それに例えるならW85はW690寄り、FR200HはW444寄りで更にはRed devil的な理屈では説明しきれない何かがあります。

ボビン型の巻線抵抗なので巻き回数で抵抗値は完全にコントロール出来るためか、お預かりした2台のインピーダンスはコンマ精度に揃っており、業務機を遥かに凌駕して「兵器級」の精度に仕上がっています。

 

何よりもW85でも奇跡と思われた「音楽が鳴っている感」ですが、W85とは方向性は違うので単純には比較出来ないものの、個人的にはそれを超越しており久しぶりに異次元の感動を味わいました。

 

コネクターは一見、EMT930などでお馴染みのTuchel 16pinと思いきや、TVMタイプではない大型の16pinなのでお間違いなく。(ステレオペア分在庫あります)

 

手元に残しておきたい衝動に駆られて、、、探して見つかるフェーダーではないのを痛いほど思い知った後に、そこはお客様の大切なお預かり品なので、後ろ髪を思い切り引かれながら、整備・ラッキング完了とともに手元から旅立って行きました。

 

単なるビンテージ音響機器ではなく、これは間違いなく歴史遺産であり芸術品です!!