アラ還のズボラ菜園日記  

何と無く自分を偉い人様に 思いていたが 子供なりかかな?

高倉健が出会った人々 A

2013年05月13日 | 近世歴史と映画


ヘンリー・フォンダの眼差し

 


最初に出演したアメリカ映画は『TooLateTheHero』

(邦題『燃える戦場』)だった。憧れていたヘンリー・フォンダが

出演すると聞き、迷うことなく引き受けた。ハリウッドの撮影所で

彼を見かけ、思わず駆け寄った。

「あなたのファンです。『荒野の決闘』も『怒りの葡萄』も

『ミスター・ロバーツ』も好きです。サインをください」

なぜかスラスラ英語で話せた。

ヘンリー・フォンダは「君は山口少佐役の日本人俳優だね。

デイリー(ラッシュ)を見たよ」と言いながら、快くサインに応じてくれた。

さらに「君は『十二人の怒れる男』を見たか」と、話しかけてくれた。

僕が「いいえ」と答えると、

「とてもいい映画だから、ぜひ観てばしい」と、僕の目を見ながら言った。

優しいまなざしの笑顔だった。

 帰国した僕は『十二人の怒れる男』を観た。

大掛かりなセットも派手なアクションもない、

陪審員室に巣まった十二人の男たちの心理を追う室内劇だ。

殺人容疑の黒人の少年が、有罪なのか無罪なのか。

最初の評決でヘンリー・フォンダが演じる男だけが無罪と書く。

有罪にしろ無罪にしろ、全員一致が陪審員制の原則だ。

たった一票の反対意見のため彼らはクーラーのない狭い室内に閉じこめられ、

汗をかきながら延々とディスカッションを続けていく。

罵倒し合い、嫌味や憎悪をぶつけ合う白熱の議論から、

少しずつ明らかになっていくのは、多くの人々が無意識の

うちに抱いている偏見や差別意識だ。彼らは最後に全員一致という

評決を出す。

 観終わった後、爽やかな感動に包まれた。

この映画を僕に推薦してくれた

ヘンリー・フォンダが、アメリカの良心を代表する俳優の

一人とされるのも納得できた。

 

この文章も高倉健自身が書いたもので、実に簡潔かつ明瞭な表現でいつも感心

する私ですが、高倉健は、じつはエッセイの名手。

エッセイ集『あなたに褒められたくて』(集英社文庫)では、日本文芸大賞エッセイ賞を

受賞し当然ですが、

英語力はDVDなどで、彼が出演した。アメリカ映画を観て頂ければ、

1931年生まれの俳優としては、抜群である。   

                    高倉健俳優生活五十年 想SOUより引用