空前の「猫ブーム」の裏に隠れた残酷な真実
2018年6月17日(日) 東洋経済
ブームにはメリットだけじゃなく、問題もつきものです(写真:Osobystist/iStock)
ここ数年、日本は空前の「猫ブーム」です。
テレビや雑誌では猫をテーマにした特集が組まれ、インターネットでもその愛らしい姿を映した動画や画像が多数投稿されています。
関連グッズの売れ行きも好調で、2016年2月に関西大学の名誉教授である宮本勝浩氏が発表したレポート「ネコノミクスの経済効果」によると、2015年の猫ブームがもたらした経済効果は2兆3162億円にのぼったそう。
さらに昨年末には、「一般社団法人ペットフード協会」によって1994年の調査以来、初めて猫の飼育数が犬を上回ることも明らかになりました(猫が953万匹に対し、犬は892万匹)。
しかし、こうした一時的なブームにはメリットだけでなく、問題もつきものです。
今回は猫ブームに見え隠れする問題点と、消費者がそれに巻き込まれないための方法について解説します。
■ブーム終了後に増える「動物の殺処分」
ある動物の人気が急激に高まって飼育数や繁殖数が増えると、さまざまな問題が起きます。
猫と同等の人気を持つ「犬ブーム」のときもそうでした。
1990年代~2000年代に漫画やCMをきっかけにシベリアンハスキーや、チワワ、トイプードルなどの犬種が人気を集めました。
メディアでの露出が増えた犬種は、ペットショップでの人気も高まります。
その結果、利益を優先する業者やブリーダーが「(ブームで)高値で売れるうちに」と話題になった犬種を過剰に繁殖させました。
同時に、安易に犬を飼い始める人も増加。
ブームが終わると、売れ残る犬や、飼い主に捨てられて野犬化する犬が増えて、彼らの多くが殺処分されました。
環境省の統計資料によると、2016年の犬の殺処分数は1万424匹に対して、2004年から2006年までの殺処分数は毎年、年間10万匹を超えます。
メディアでの露出が増えたことで人気が高まったという点で、今回の猫ブームは過去の犬ブームと重なって見えます。
また猫の場合、条件さえ整えば、犬の2倍の年3~4回の出産が可能です。
過剰な繁殖が行われたのちにブームが終了すれば、多数の猫の命がないがしろにされる可能性があります。
■「人気猫種」を安易に購入してはいけない
2017年にCMに起用されたことから注目を集めたスコティッシュ・フォールド。
珍しい垂れた耳が人気で、アイペット損害保険が発表した「人気猫種ランキング2017年」では、2位に位置する人気猫種です(ちなみに1位は混血猫のため、純血種ではスコティッシュ・フォールドが実質的1位)。
実はその垂れ耳は「軟骨の異常(骨軟骨異形成症)」によって偶然生まれたもの。
もし垂れ耳のスコティッシュ・フォールド同士で交配すると、生まれた猫が遺伝子疾患にかかるリスクが高まります。
そのため、優良なブリーダーは垂れ耳と立ち耳のスコティッシュ・フォールド同士を注意深く交配します。
ですが、前述したような利益を優先したい悪質なブリーダーの場合、危険を承知であえて折れ耳同士で交配することもあります。
そうした繁殖が横行すれば、遺伝子疾患に苦しむスコティッシュ・フォールドが大量に出てくるかもしれません。
さいたま博通り動物病院(埼玉県越谷市)の髙野宜彦院長も、「垂れ耳同士の交配で生まれたスコティッシュ・フォールドは、耳だけでなく骨や軟骨にも重度の異常がみられることが多く、成長過程で歩行困難になる可能性がある。正しい知識がないブリーダーの繁殖は、疾患に苦しむ猫をいたずらに増やすだけ」と警鐘を鳴らしています。
さらに、遺伝子疾患は猫がある程度成長しないと現れないため、猫の購入後に飼い主が疾患の存在を知って後悔する、あるいはペット業者とトラブルになることも予想されます。
スコティッシュ・フォールドに限らず、繁殖に注意が必要な猫種は他にもいます。
安易な購入には大きな落とし穴があるかもしれないのです。
消費者が猫ブームに潜む問題に巻き込まれないためには、飼いたい猫種についてある程度の知識を身に付けておくことが大切です。
また、それだけでなく猫の入手方法についても注意したほうがいいでしょう。
猫を購入するうえで気をつけたほうがいい3つのポイントがあります。
STEP1:「飼育環境」や「両親猫」を確認できる店や猫舎(キャッテリー)を選ぶ
大切な家族の一員となる子猫を迎えるのですから、その子猫が産まれ育った飼育環境が清潔で快適であるか、また、両親猫が健康で友好的な性格であるかを確認することが大切です。
それらは子猫の健康や性格に大きく影響します。見学することで、ブリーダーやスタッフの猫に対する愛情の深さや人柄も感じることができるでしょう。
これらの見学が可能なのは、多くが優良ブリーダーの猫舎(キャッテリー)です。
また、ブリーダーが経営する直販のペットショップでは、見学が可能なところもあるようです。
いずれにしても、インターネットで検索して探すのが一般的です。
■経験や知識が豊富なブリーダーが大きな力に
STEP2:購入後もアドバイスをもらえる店や猫舎(キャッテリー)を選ぶ
生涯に渡ってのアドバイスは、子猫にとっても飼い主にとっても心強いもの。
元気なときは頼ることはなくても、子猫が問題行動を起こしたとき、病気やケガをしたときには、知識や経験が豊富なブリーダーやスタッフが大きな力になってくれます。
しかし、相談する人がいない場合には、飼い主がどうすることもできず、猫を動物愛護センターに持ち込んだり、野山に捨てたりするケースも見られます。
万が一のときに備えて、購入後もアドバイスをもらえるか確認しましょう。
STEP3:定期的に健康診断をしているかなどを確認する
猫種によって継承しやすい遺伝子疾患は違います。
事前に購入したい猫種にどんな遺伝子疾患があるのか調べておきましょう。
専門機関でDNA検査を依頼すれば、その原因遺伝子を持っているかどうかの証明書が出されます。
ブリーダーがその検査を行っていれば、両親猫の検査結果を確認することができます。
一方、検査ができない猫種や疾患の場合でも、どのような対策をとっているのか、定期的な健康診断をしているかなどの確認をしておくことが大切です。
また、両親猫がインブリード(近親交配)でないことも確認したほうがいいでしょう。
インブリードで生まれた子猫は障害を持つ可能性が高いからです。
阪根 美果 :ペットジャーナリスト