「答えは一つでない」 京大の白熱教室で人材育む
電機は負けへんで(17)
- 2013/7/11 2:00 日本経済新聞
京都大学に「ベンチャー論」という人気講義がある。「スターバックスのお店を新しく始めるとして大事なことは何でしょう。3分で考えてみて」。客員准教授の瀧本哲史が大講義室で声を張り上げると、20人程度の学生が我先に手を挙げた。
■米コンサル経て
「高級感を出す」。学生が答えると、重ねて聞く。「高級感はどうやって出す?」「う~ん、店舗の立地かな」。テンポの速いやり取りで90分間の授業はあっという間に過ぎる。学生は講義を米ハーバード大教授のマイケル・サンデルになぞらえ、瀧本を「京大のサンデル」と呼ぶ。
米マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとして電機業界に深く関わった瀧本が、現職に就いたのは2007年。毎週金曜は自宅のある東京と京都を新幹線で往復する。ただし、准教授の給料は往復の交通費程度にしかならない。
狙いは何か。「いわばボランティアですよ」。いかにも重そうなカバンを手に速足で歩く瀧本。小脇に抱えたペットボトルを一口飲むと、一気に早口でまくし立てた。
■「日本型は限界」
「講義を通し、世の中に答えは一つでなく色々な考え方があることを、京大のような優秀な若者に教えたかった」
瀧本はマッキンゼー時代、かつて競争優位にあった電機業界など日本企業が低迷していくのをつぶさに見てきた。もはや日本のビジネスモデルは限界に来ていた。「新たな知を生み出す人材の育成が急務」と思った。
瀧本が講義内容をまとめた「武器としての決断思考」(星海社)は25万部のベストセラー。急激な変化の時代を分けるのは意思決定を下す力だと説いた。
今では複数の関西の大手電機メーカーが、瀧本に経営や事業の助言を求めに来る。ただし年齢を含めて大半の経歴は明かさない。「自分の伝えたいことを伝えられれば、それで十分でしょ。僕個人には興味は持ってほしくない」という。週1回の准教授のほかベンチャーに投資もしているが、それも本業ではない。
では何が本業なのか。「あえて言えば、みんなが思い付かないことを始める若者を、自分の手でつくること」。瀧本の講義を受けて巣立った学生は、5千人を超えた。関西で静かに若き知の芽を育む。今の最大の関心時は「日本が古きを捨て、政治も経済も新しいモデルに変われるかどうか」だという。(敬称略)
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