和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

『ユリイカ』の意味を知ってるかい?

2018-06-03 | 道しるべ
伊藤清彦「盛岡さわや書店奮戦記」(論創社)は、
「出版人に聞く」というシリーズの1冊のようです。

インタビューは小田光雄氏。

うん。と思った箇所があったので引用。

小田】・・・・
本は無用の用的なもので、極端なことをいえば、
最初の需要はゼロだと考えてもいい。
出すことによって需要が喚起されるというのが
本の基本的性格なんだと思う。

著者が書き、出版社が出す。
それにまず書店が反応し、平積みになったり、
棚差して置かれたりして、少しずつ売れていく。
もちろん返品され、消えていく本が
多々あることを承知していても、
本の原点はそういうところにしかない。


伊藤】 僕もその通りだと思います。
本にのめりこんだのも、書店に入ったのも、
あくまでそのようなミニと個の世界だったからで、
マスの世界を求めたからではありません。
それだから書店の仕事にもこだわってこれたのです。

しかし近年のミニとマスのミスマッチは異常でしかなく、
はたして日本の出版業界はどうなっていくのかが
本当に気がかりです。
(p121~122)


この箇所を読んであらためて
思い浮かべた本は
伊藤得夫著「詩人たち ユリイカ抄」(平凡社ライブラリー)
でした。
著者と稲垣足穂との会話から
はじまります。
「近所の縄のれんをくぐるのだ。
アルコールが入ると、かれの目はかがやき、
舌は風のようにそよいだ。」(p24)
と著者は稲垣足穂を語ります。

そこでの会話を紹介。

「・・・坂を下りたところに、
有名な焼鳥屋があった。・・・
ぼくは作家稲垣足穂と、
その店で焼酎のコップを前にしていた。

そのとき、かれが言ったのだ。
ポオの『ユリイカ』を知っているか。
ポオは原稿を書いても誰も買ってくれなかったから、
場末の酒場で浮浪者を集めて、自分の原稿を読んで
聞かせたのだ。誰も聞いている奴はいなかった。
またあの気狂い奴がしゃべってる、と人は思っていた。
その原稿が『ユリイカ』だった。
アメリカにも、やっぱり、
あんたみたいな編集者がいて、
その『ユリイカ』を本にしてやった。
しかし、二部、ほんとうに二部しか売れなかった。
・・・『ユリイカ』の意味知ってるか。・・・」
(p15)


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