和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

カマキリ。蚊と虻と馬。

2022-07-26 | 本棚並べ
「 祇園祭りの山鉾巡行に蟷螂=カマキリがからくりで動くという。
  これは役(えん)の行者による疫病人搬送に始まるという
  祇園祭にふさわしく、京都文化の恐ろしいまでの創造である。・・」

  ( p195 塚本珪一著「フンコロガシ先生の京都昆虫記」青土社 )

荘子を読み始めると、昆虫では蝶がでてきたり、カマキリもでてくる。
ここでは、そのカマキリ。

「 君はあのカマキリを知っているだろう。
  その腕を振り上げて車輪に立ち向かってゆくが、
  自分の力では手に余る相手と知らないのさ。

  あれは自分の才能に思い上がているんだよ。
  だからくれぐれも慎重にしなさい。
  もし君が自分の才能をたのんで
  相手にたてつくようだと、危険なことになるね。 」

そのあとに、動物が語られます。虎飼いを語り、最後は馬でした。
ここには、馬がどう語られていたか。

「 また馬好きの人ときたら、
  竹かごで糞を受け、大ハマグリの殻で小便を取ってやるほどだが、
  
  たまたま蚊や虻が馬にたかっているとき、
  不用意にからだを叩こうものなら、
  馬は銜(くつばみ)を噛み切り、
  頭を傷つけ、胸をくじくまでに暴れまわる。

  切実な愛情でそうしたのに、その愛情がだいなしになってしまう
  わけだ。だから慎重にしなくちゃならないのさ。   」

   ( p142 福永光司/興膳宏訳「荘子内篇」ちくま学芸文庫 )


余談ですが、塚本珪一著「フンコロガシ先生の京都昆虫記」には、
祇園祭の蟷螂山について、続きがありました。

「・・もう一つ、町内での解説には、南北朝時代に
 足利義詮軍に挑んで戦死した当町在住の公郷
 四条隆資の戦いぶりが『蟷螂の斧』のようであったとする。・・」(p195)


荘子にもどります。
ちくま学芸文庫の現代語訳は、簡潔を旨として興膳宏氏が訳しておりますが、
福永光司氏の解説は、長くても、一歩踏み込んだ文になっていました。
直に漢文の引用は、素人にはシンドイので、ここは福永氏の文を引用。

「・・・・そなたも見たことがあるだろう。
 ウデをふり立て、身のほども弁(わきま)えず、
 道ゆく車の輪に挑みかかって押しつぶされる
 あの螳蜋すなわち、カマキリの思い上がった愚かさを。

 あれは自己の才能を誇り、おのれの美を恃(たの)む
 者の愚かしい悲劇の象徴だ。くれぐれも戒めるがよい。
 ・・・・

 いったい、権力者の恣意(しい)は、
 飢えたる虎の狂暴さにも譬えることができよう。
 そなたは知っているだろうか。あの恐ろしい虎を
 調教する猛獣師というものを。・・・・・・・・
 ・・・・・・・・
 ・・・
 馬のように従順な家畜でも手に負えなくなるであろう。
 というのは、かの馬を大事にする人間は、
 汚い馬糞を盛るのに立派な筐(かご)を惜しげもなく使い、
 馬の小便を入れるのに美しい大蛤の殻を用いて、
 至れり尽くせりの扱いをするが、それほど心をこめて可愛がっていても、

 たまたま馬の体に蚊や虻のたかっているのを見て、
 いきなりその体を叩けば、馬は狂奔して銜を噛み切り、
 
 首を傷つけ胸を打ち砕いて、
 手に負えないほど暴れ狂うものである。・・・・」

    ( p195~196  福永光司「荘子内篇」朝日文庫  )


はい。漢文を引用するのは、私はまったくダメなのですが、
徒然草ならば、かえって現代語訳よりも原文が分りやすかったりします。
徒然草第186段に『馬乗りとは申すなり』がありました。その全文。

「 吉田と申す馬乗りの、申し侍りしは、
 
 『馬毎(ごと)に、強(こは)きものなり。
  人の力、争ふべからず、と知るべし。

  乗るべき馬をば、先づ良く見て、強き所・弱き所を知るべし。
  次に、轡(くつわ)・鞍(くら)の具に、危き事や有ると見て、
  心に懸かる事有らば、その馬を馳すべからず。

  この用意を忘れざるを、馬乗りとは申すなり。
  これ、秘蔵の事なり』と申しき。        」

そういえば、徒然草の第238段は、
兼好自身の自讃の事を7つ取り上げている段なのですが、
そこでは、はじまりに馬が出てきております。
ここでは、島内裕子さんの訳で

「 馬乗りの名手として知られた随身(ずいじん)・
  中原近友(なかはらのちかとも)の自讃と言って、
  自慢話を七箇条、書き留めたものがある。

  それらはすべて馬芸に関することであって、
  大したものではないものばかりである。
  それなら、私にだって自讃のことが七つある。  」

  ( p455 島内裕子校訂・訳「徒然草」ちくま学芸文庫 )

はい。第238段は馬乗の自慢話から兼好の自讃へつながる。
うん。祇園祭から荘子へ、さらに徒然草とつながりました。
 




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2 コメント

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こんばんは(^^♪ (のりぴー)
2022-07-27 17:13:18
蚊と虻と馬・・・ということで・・・フッと父方の祖父のことを思い出しました・・・ 北関東の田舎医者をしていた父の祖父は、往診用に飼っていた馬に蹴られて亡くなったそうです・・・
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こんばんは。 (和田浦海岸)
2022-07-27 22:20:12
こんばんは。のりピーさん。
コメントありがとうございます。

そうでしたか。

徒然草を通読していると、
時に馬の話がでてきます。

また機会があれば、あらためて、
そこを取り出して読み直してみます。

ありがとうございました。
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