和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

長谷川伸の職人像。

2023-12-07 | 本棚並べ
吉田光邦著「日本の職人像」(河原書店・1966年)。
ここに、長谷川伸が登場するのでした。以下引用。

「明治の渡り職人のいく人かについて長谷川伸が書いている。」(p178)

うん。ちょいと飛ばして、この箇所

「土師清二が小説に書いた釣竿作りの名人、竿忠の言葉を
 長谷川はひいている。ある日彼は家人にいった。

『 金をためるな、金をためる気になると、
  金のために竿をこしらえるようになるから、いけねえんだ 』

別の日、また竿忠はいった。

『 金を要意しろ、金を。病人が出た怪我をしたと、
  そのたびごとに他人さまに厄介かけちゃいけねえ  』

これは名言だ。金の重要さと恐ろしさを
最もよく表現したことばである。

一介の職人がもっていたこの金銭観、これが名工、
名職人といわれる者の真実の姿であり、真実の声だった。

金の走狗となって働いてはいい仕事はできない。
と同時にその金の必要な意味もよくわきまえて、金を軽んじてはならない。」
                          (p180~181)

そのすこし前に、渡り職人から派生した
あまりに多い『名人気質の誤解』を指摘してもおります。

「『 汚ない姿をしてすばらしい仕事をやってみせ、
   憎まれ口を叩いて、とびぬけたいい仕事をしてみせるというのは、
   好くない意味でいう名人気質 』と長谷川伸も書いているが、
  ・・・・・・・

  職人は奉仕者であり、注文に応じて
  どんな仕事でもやってのけねばならなかった。
  職人は自分の好みを出してはならない。
  注文者の意を十分にくみとり、
  それを十二分に表現するのが真の職人気質なのだ。
  真の名工とはそうした人たちだった。

  この『好くない意味の名人気質』が、真の名人気質と
  誤解されている場合が余りに多いようである。    」(p180)

うん。幸田露伴にしろ、長谷川伸にしろ、
機会があれば読んでみたいと思っていたのですが、
何しろ私は小説は読めないので、お二人の名前だけ
存じ上げてはおりましたが、そこまででした。

この切り口から、あらためて読み始められますように。
そう思うばかり。

ということで、吉田光邦氏が紹介する長谷川伸の
さわりの箇所を最後に引用しときます。

「明治の渡り職人のいく人かについて長谷川伸が書いている。
 長谷川伸はいわゆる股旅物で知られ、名作一本刀土俵入などで有名な作家だ。
 彼の作のなかでは義理、人情に生きる人間がいつも活躍する。
 と同時にその裏にひそむ人間のみにくさ、
 冷たさにも明確な描写を与えたひとである。
 そうした人間性の本質を捕えたからこそ、
 彼の作は単なる大衆小説でないリアルな味をもっていた。

 同時に長谷川伸は明治になお残っていた、江戸的な人間、
 旧時代的な人間の生き方もはっきり肯定した。

 仕事の修行に必死となり、仕事を第一とする職人たちに
 深い共感をもった。彼の書きのこした職人たちのおもかげの・・」(p178)

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