大岡信・丸谷才一対談「唱和と即興」をまたひらく。
( 丸谷才一対談集「古典それから現代」構想社 )
そのはじまりは、大岡信さんが高浜虚子の全集月報連載を
書いてゆく話からはじまっておりました。
「・・そういう観点から見ていくと、虚子という人は、
挨拶の句においてたいへんな力を持っていることがわかる・・
挨拶ということについては山本健吉さんなどが力説されていますが、
虚子は『贈答句集』がすばらしいという、しばしば言われていることは
実際その通りだと思うし興味深いことだと思います。
・・・・・・・・
・・虚子の句の挨拶的な性質について・・・
考えてみれば、これは実はあたりまえの筋だったわけですね。
俳句にしても、ひろく詩歌全般にしても、
人に対して歌を贈るとか、句を贈るとか、
そういう形で成り立ってきた部分が非常にあったわけですね。 」
( p92 )
はい。これが対談のはじまりでした。
挨拶といえば、思い浮かぶ本がある。
丸谷才一の3冊。
〇「挨拶はむづかしい」 (朝日新聞社・1985年)
〇「挨拶はたいへんだ」 (朝日新聞社・2001年)
(のちに、朝日文庫・2004年にはいる)
〇「あいさつは一仕事」(朝日新聞出版・2010年)
3冊ともに、最後は「あとがき」として対談掲載。
一冊目は野坂昭如さん。二冊目は井上ひさしさん。
そして、三冊目は和田誠さん。ここでは三冊目の対談から引用。
和田】 ・・・題名を辿ると、
挨拶はむずかしくて大変で一仕事だということになりますが、
挨拶のベテランでいらっしゃる丸谷さんにとっても、
やはり大変なものなんでしょうか。
丸谷】 ひとつにはね、挨拶は大変だとも、むずかしいとも、
一仕事だとも何とも思わないで、ただ出ていって
何かダラダラしゃべってみんなを困らせるという、
そういう偉い人が多いでしょう。だから、
そうじゃないんだよと、聴いているほうとして
大変だし、むずかしいし、一仕事なんだよと。
和田】 聴く側の気持なんだ(笑)
丸谷】 それも含めての題ですね。
・・・・・・
和田】 ・・・・・・まず、一番の特徴は原稿があることでしょう。
丸谷】 はい。でも原稿があることを滑稽だと思う人がかなりいるらしいね。
和田】 未だにいますか。
丸谷】 いるらしいんですよ。ある小説家が彼の受賞のお祝いの会で
原稿を書いていってお礼を述べたんですって。
そしたら、乾杯の発声をやったビジネス関係の人が
『 あなたのような言葉の専門家でも原稿を
書いてくるのでびっくりした 』 と言って、
その人は原稿なしで非常に長い挨拶をやってみんなを苦しめた(笑)
という話をこのあいだ聞きましてね。言葉の専門家というのは
原稿なしでしゃべるものだという考え方があるんですね。
和田】 丸谷さんは、
言葉の専門家だからこそ原稿が必要だ、という立場ですね。
( p214~215 )
はい。そういえば3冊とも、装釘・装画は和田誠さんでした。
( 2冊目からは装幀・イラストレーションとなってます )
それぞれが短くって、その場をなごやかにする雰囲気が彷彿とされ、
ちょっと読みだすと止まらなそうですので、もう本棚にもどします。