跳箱

跳び箱でも飛箱でも飛び箱でもとびばこでもいいけどそこはそれ跳箱なんです。体育日和のお供にどうぞ。

VoIPの話で思うこと、っていうかたぶんOverlay Multicastの話

2006-10-07 01:34:33 | 通信
粘着質なお友達に囲まれているらしい坂和くんはBusiness Weekの記事をさっくり紹介して次にいっちゃったみたいだけど、こことても大事な内容が含まれているのでフォローしておこう。

Friis氏とZennstrom氏にとってKaZaAは習作(というか、P2Pアーキテクチャの勉強)だったらしく、サービスの実装例としてSkypeも拵えるだけ拵えておいて、それでどう儲かるのかを示さないままeBayに売っぱらって(って、まだボードメンバーやってるけど)今度はVoDをP2Pでやるというのが趣旨らしい。

F氏とZ氏は経営者じゃなくて開発者(つうか一種のビジョナリー)なんだろうなぁ。

Skypeについてはインターネット電話な世界を切り開いたとか持ち上げる向きもあるけど彼らはあの分野では実は後発参入者だった、って話はだれか覚えているかな?

ほんとにインターネット電話は使えるし集客力がある、ってのを最初に証明したのは1999年の秋だったか冬だったかにサンノゼのインキュベーションセンターの片隅でサービスを開始したdialpad(創業当時は韓国資本だったなぁ)だった。バナー広告を表示するVoIPアプリ(確かJAVAアプレットだった)を使って全米の固定電話網に無料で電話がかけられる(確かプロプライエタリなプロトコル使ってたような気が)ってんで、一人暮らしの学生さんが実家に電話かけるのに最高!とかいいながら使っていた。

これは当時としては(今考えても)かなり過激なサービスで恐ろしい勢いでユーザーを獲得していたけどやはりPSTNに電話をタダでかけさせる、というコンセプトには無理があったわけで、VoIP to VoIPならタダだけどPSTNとの通話は有料なんて具合にサービス内容が後退していったのが懐かしい。
dialpadに刺激されてか日本でも半年か1年遅れくらいで日本国内のPSTNにタダで電話がかけられるRiRiRi Phone(これはつぶれた)とか、ただTel(これは生き残っているけどかなり寒いことになってる)とかにょきにょき生まれてたもんです。

さて、前置きが長かったけど、dialpadやそのまねっ子サービスは途中で息切れしたけどSkypeは生き残ったのはなんでだろう?

跳箱的には、dialpad達は市場参入が早すぎた、というありがちな答えにはとびつきたくない。無料の(PSTNにつながる)VoIPサービスというインパクトは常時接続サービス(当時はまだまだダイアルアップが主流だったし、某リセ○ト系の連中なんかあと10年は常時接続の時代なんか来ないと豪語していた...。)普及のきっかけのひとつになったと思う。

おそらく、dialpadをはじめとする初期の参入者のサービスは利用者獲得にPSTNへの無料接続というあまりにキラーな武器を持っていたがゆえに、その網接続料をいかにして捻出するかに頭が行き過ぎていたんじゃないだろうか?

初期に活躍したVoIPサービス事業者はNAT越えに苦しんでいた(電話がタダでかけられるらしい、という期待を胸にサイトを訪れたユーザーはJAVAアプレットをクリックしてテンキーを操作するだけで電話がつながると思っていたのに、自分のPCじゃつながらなかったり、片端側音声しか通らなかったりといったトラブルに出くわし、FAQを見るとルータの設定をあーしろ、こーしろ、と指示されてあまりの複雑さに利用をあきらめる、なんてケース続出)けど、SkypeはuPNP依存せずにSTUN(のようなもの)を利用してエンドユーザーにルータ設定をどうしろ、とか余計な作業を発生させないように配慮していた。つまり初期参入者より一段高いEase of Use(懐かしいな、この表現)を実現していた。

さらに、PSTNへの通話(発呼)は原価率(固定費込み)を高くするのでオミット。(後にSkype-Outという形で実現、PSTNからの着信(着呼)を可能にするSkype-Inはさらに後)この点、集客力という点では初期参入者に劣ることになるけど、(収入と比べて)莫大なコストがかかるPSTNへの接続を切り捨てたことと、P2P型のアーキテクチャ(SIPだってH323と比べれば十二分にP2Pライク)を採用したことによって、固定費を小さくすることで小資本でも生き延びられる可能性が高まったのと、Skypeを利用したいユーザーは自分が通話したい相手にもSkypeを勧める必要が生まれたので利用者獲得は鼠算(というかスケールフリー)になる。

もちろん、勧められた新規獲得利用者が簡単にインストールできて、トラブルフリーで、さらに通話品質に満足がいく、といった条件を満足させないといけない。が、Skypeはこれをやってのけたからうまく利用者を獲得することに成功できたんだろうと思う。

ただし、初期の市場参入者はもちろんSkypeにも問題はある。まず初期参入者の最大の問題は通信費を広告収入でまかなおうと考えた点。単純に日本のケースだけ考えてみても、広告市場は5兆円程度でしかない。これに対して通信市場は18兆円。PSTNと接続するコストを広告でまかなう、というアプローチではそもそも通信市場を飲み込めないのは明白と、根本的にこまった構造を抱えていた。

Skypeだって固定費が小さくてPSTN接続コストを賄える単価で顧客に費用転化しているからつぶれはしない(というか潰れにくい構造になってる)だろうけど、有料の音声通話サービス市場をぶっつぶすだけに終わってしまってSkype自身、収入という面では置き換え市場獲得の恩恵に浴しているとはいえない。(経営者個人としてはeBayへの売却で潤ったんだろうけど...。)IP常時接続サービスの提供事業者は、こういったキラー(というんだろうか?この場合)アプリの存在によって恩恵に浴したかもしれないが、多くの場合、PSTN事業者でもあったりするので痛し痒しだったろう。

で、今度のVoD話だそうな。(いやー、今回の前置きは画期的に長かったなぁ)

坂和くんによると、

このクライアントソフトはP2Pで他のマシンと接続してデータをやりとりするが、ただし映像自体はストリーミング配信されるため、データがローカルに保存されるわけではない(Venice Project側では複数のバックアップサーバを配置し、ユーザーが観たい時にいつでもコンテンツを観られるようにするそうだ)。これの仕組みにより、コンテンツ保持者が最もおそれる違法コピーの流通を防ぐことが可能になるという

て、ことなんで、どうもOverlay Multicast(詳しく知りたい向きはこれなんか読んどくよろし)を利用した配信ネットワーク構築を目指しているらしい。

Overlay Multicastといえばつい最近もYahooが実験してたし、一年前には、スカパー(つうか山○氏、そろそろホワイトバンドはやめたほうがいいと思う)がキャスティング・グリッド(あれ、グリッドの本職筋には評判悪かったなぁ)と称してアイディアだけぶち上げていたのが生々しい感じです。

Yahooの実験結果によるとサーバリソース消費を1/5に削減できたってことなんで、既存の商用VoDシステムアーキテクチャと比較すると画期的なコスト競争力を実現しているといえそう。

F氏とZ氏の企画アプローチはこれまでのところ、既存アーキテクチャと比較して圧倒的に小さなサーバサイドリソースで従来サービスと同等のエクスペリエンスを提供すると同時にEase of Useを高い次元(というか、いわゆる昔の感覚でいうスイッチポン、今風に言うとワンクリック)でまとめて面倒な作業を徹底的に自動化(つうか不可視化)するところにあるので今回の企画もシステムデザインとしてはなかなかのデキが期待できそうです。

が、

彼らのデザインしたサービスは、KaZaAは言うに及ばずSkypeも含め社会的責任(たとえばE911対応の件とか)という領域についての認識が甘い点について、それぞれの畑のプロから結構な非難を集めているのは各位ご承知のとおり。
大人気ないシステムを作るのはかまわないのですが、社会制約(法規制含む)を無視(ないし軽視)してレガシーフリーなシステムを作ればそれらの制約を考慮(せざるをえないケース含め)したシステムを作っている連中よりエレガントに作れて当たり前です。

ストリーミング配信だから違法コピーされ得ない、という主張(これがF氏とZ氏の発言そのままかどうか疑問ですが)が事実だとしたらあまりに素朴な主張で、勇んで売り込みに行っても帰りのレッドラインじゃ、ユニバーサルスタジオ帰りの家族連れに囲まれつつ肩を落とす羽目になること請け合いです。(つうか彼らメトロなんか乗らないだろうけど...。)

これまではKaZaAにしてもSkypeにしてもアーキテクチャも利用獲得もP2Pのお作法で済んでいた(ゆえにルールは自分で作れたからビジネスデザインの自由度は非常に高かった)けれども今回のモデルではライツホルダとの交渉が必要で、仕入れ条件にビジネスが縛られるようになる点とか、これまでと違ってこれからの市場ではインフラただ乗りが許されるかどうか微妙とか、かつてなくハードルが高いビジネスにチャレンジすることになると思うけどその点、了解してるのかぜひ聞いてみておきたいところです。

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