流行病をふせぐ意得
ashiki yamai o fusegu kokoroe
早稲田大学 古典籍総合データーベース
[千葉県] : 久保田日亀, 明治19[1886]
chibaken : kubotanichiki
読んでいる資料『流行病をふせぐ意得』
(上段)
●流行(悪しき)やまひをふせぐこゝろ絵(こゝろゑ)
およそ世にめでたきものゝ第一としいへば、まず其身(その身)/\の
安穏無事 息災に踰(こ)したる楽しみより外にはあるまじく、打(うつ)てか
ハりて、厭(いと)ハしきものゝ第一ハ、地震、雷鳴、失火(くわじ)等と、それにハ澤山(たくさん)
恐しかるべきこともあれど、何を除いても命寿(いのち)ありての物種な
れバ、永の病気や、またハ 急病、速死、頓死、早世、天死(きうびやう、そくし、とんし、はやじに、わかじに)、たとへ年老(としたけ)たり
とて、仕合せ悪く流行病に犯されて、親類縁者の看護(みとり)もならず、徒(あだ)
に,此世を過ごしてハ空(むなし)く、一片の烟(けふ)りを消失(消えうそ)る、その死ぬるといふ
大敵に附込(つけこ)まるゝほどの、忌ま/\しき苦しみよりほかに、大ひな
る悩みはなかるべし、家財道具家財道具や金銭ハ一担損失しても、またと
得ちるゝことも有れども、命寿(いのち)ばかりハ掛替(かけがえ)のなき重宝(おうほう)なり、箇様(かよう)
なとは誰も承知なれども、餘りに承知を仕過ごして、遂にハ油断大
敵となり、流行病の大軍に、吾本陣を攻落され取りて返せぬ後悔
を引招ぐなる、よしや敵ハ外(ほか)より来らずとも、病ひの賊ハ内具(うちわ)
にありまして、今時外(そと)よりハ責寄せんとし、内よりハ裏切らんと
する有様、内と外と合体して難なくこの大切なる身体を生贄に
(そふ)るに立至るべし、其時憐(あは)れといふも、早詮(すべ)なし、されバ 平生清(ふだんしやう)
浄(じやう)と不浄(ふじやう)との差別(へだて)をよく/\こゝろがけあるべし、政府(おかみ)のお世
話を容易のことにあらず、人の命を全ふし、安心にこの世の過さ
せんとの厚き恵なるにも、意注(こゝろづ)かず、憂鬱(うっとう)しくおもふものもあら
んが、大ひなる了簡(りょうけん)違ひなり、我宗(わがしう)の信者にハ決してさる人ハな
き筈なり、心清けれバ身も清く、身清けれバ土地清しとて、心穢れ
てハ、中々に身体の衛生(ゑいじやう)も思束(おぼつか)なし、身体の衛生(ゑいじやう)を思(おもは)ぬ程の人な
らば、衣類、食物、居所の注意も、思案のほかなるべし、夫故(それゆえ)おろそかにな
(下段)
らぬハ、第一の心なり、心をおろそかにせぬとは、心を清く持つな
り、心を清く持つとは、信心(しん/″\)清く正けれバ、身体も居
所も必ずおろそかにならぬと、こゝろづくべし、法花経(ほけきやう)一部八巻
二十八品も此事を説きかゝせ たまへり、されば、祖師大菩薩は八
萬四千(しせん)の法門は、我身一人(にん)の日記文章とも仰(あふ)せられ、経文にハ此
経は持ち難しと説ひてあり、これまた祖師の仰(あふ)せに依らば、此身
は持ち難しといふことにて、前にもいふ如く、此身は決しておろそ
かにならぬ筈なれども、兎角おろそかに しやす期は、信心(しん/″\)なき人
の習ひなれば、態(わざ)と此身ハ持(たも)ち難しとのたまひし なるべし、各々
ハ朝夕神に誓ひ、佛に頼るも何と祈り玉ふや、若持法華経(にやくぢほけきやう)甚
身甚清浄と繰返さるゝなるべし、若(も)し題目を唱へ、法華経を持(たも)つ
程の心清き信者ならバ、其身、したがつて、甚ハだ清浄(しよう/″\)なりといふ
ことなり、其信者を守護せらるゝ鬼子母大善神ハ受持法華(じゅぢほつけ)名者福
不可量とて、佛前の御契約あらせたまへり、それもこれも但、これ
まず信心(しんもく)の水清けれバ、神佛感応の月影の恵みも豊か成るべし、
法度に背き、衛生に怠りなバ、いかに慈悲深き神佛なりとも縁な
き衆生(しゆじやう)として、却て現前の御罰あるべし、先(まづ)は流行病をふせがね
ばならぬこゝろ得までを、聊(いさゝ)か陳(のべ)て衛生の一助に添ふ、若しその
ふせぎの箇條は粗諸君が疾(と)くに意得(こゝろゑ)あるべければ、これは略し
置くなり、明治十九年七月東京小伝馬町村雲別院境内において
自山宝庫安置鬼子母神大善神開扉中(かいひちう)しるして、施余す南無妙法連
華経 若熱(にゃくねつ) 病若(ひやうにゃく)一日若(にゃく)二日乃至(ないし)夢中、亦、復莫(ふくまく)悩(なん)
正中山貫主 久保田日亀
しやうちうざんくわんじゆ くぼたにちき
(上段)
安穏無事(あんのんぶじ)
変事もなく、穏やかで安らかなさま。社会や暮らしなどの穏やかな様子をいう。▽「安穏」は穏やかな様子。「穏」は「おん」とも読む。
- 句例 安穏無事を祈る、安穏無事な生活、安穏無事に暮らす
- 用例 安穏無事に過ごせるはずの晩年を奪われた不遇さが、分からぬわけでもない。<城山三郎・乗取り>
徒(あだ)
[形動][文][ナリ]
1 実を結ばずむなしいさま。無益なさま。むだ。「せっかくの好意が徒になる」
2 浮ついたさま。不誠実で浮気っぽいさま。
「―なる恋にはあらで、女夫 (めおと) の契を望みしなり」〈紅葉・金色夜叉〉
3 一時的ではかないさま。かりそめ。
「なかなかに―なる花は散りぬともまつを頼まぬ人のあらめや」〈為頼集〉
4 いいかげんなさま。粗略だ。
「まだしき時に方さまの御心づかひゆゑと、それはそれは―に存ぜぬに候」〈浮・文反古・五〉
(下段)
祖師
①開祖。宗教界で一宗一派を開いた最初の人。禅宗の達磨(だるま)、浄土真宗の親鸞(しんらん)、日蓮(にちれん)宗の日蓮など。
②学統や流派などを作り出した偉人。また創始した人。
③物事の始め。もと。元祖。
④日蓮宗で、日蓮の尊敬語。
法門
〔真理へ向かう門の意〕
② 修行方法などの教義によって区別された仏教の教派の分類。
祈り玉ふ
祈り給う
若持法華経(にやくぢほけきやう)
若持とは (法話集:http://www.nichiren-aomori.net/houwa/h2709_kidachichikou/index.html)
荒行僧が腹の底から唱える水行肝文。「若持法華経 其身甚清浄 不染世間法 如蓮華在水 得聞此経 六根清浄 神通力故 増益壽命」。これは世間の煩悩や欲望の泥水に心を染められず、泥中にあって
法華経とは
『法華経』(ほけきょう、ほっけきょう)は、大乗仏教の代表的な経典。大乗仏教の初期に成立した経典であり、誰もが平等に成仏できるという仏教思想の原点が説かれている。聖徳太子の時代に仏教とともに日本に伝来した
神佛感応
呪咀秘法奥伝 : 神仏感応 佐々木高明
国会デジタル図書 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/759872/1 がある。
衆生(しゆじやう)
《(梵)sattvaの訳。音写は薩埵》仏語。生命のあるものすべて。特に、人間をいう。有情 (うじょう) 。
衆生(しゆじやう)
サンスクリットのサットバsattva,ジャントゥjantu,ジャガットjagat,バフジャナbahujanaなどの訳。とくにサットバの訳語として用いられることが多い。サットバとは存在するもの,また心識をもつものの意で,有情(うじよう),含識(がんじき)などとも訳される。古くは衆生と漢訳し,唐代の玄奘以後のいわゆる新訳では有情と訳されている。またいのちあるもの,存生するもの,いのちをもって存在するもの,生きとし生けるもの,一切のいきもの,一切の人類や動物,とくに人間,人々,もろびとなどというように,さまざまな意味がある。
復莫(ふくまく)
腹膜炎
●流行(悪しき)やまひをふせぐこゝろ絵(こゝろゑ)
(1)何を除いても命寿(いのち)ありての物種
(2)家財道具家財道具や金銭ハ一担損失しても、またと
得ちるゝことも有れども、命寿(いのち)ばかりハ掛替(かけがえ)のなき重宝(おうほう)なり
(上は、明治時代の日本の疫病に対する一文症例)
日本国の冷和時代におけるコロナウイルスに対して
2020年7月22日より、日本国では「go toキャンペーン」が 始まる。
今や日本というより、日本国というのが妥当な気がする。