カッパドキア Cappadocia
私はカッパドキアでは四日ばかりを過ごした。
ギョレメ屋外博物館やカッパドキア南部にあるウフララ渓谷、地下都市、陶器の町、洞窟内で行われる『セマー』や食事付きの『ベリーダンス』などを訪れた。
私たちにしては四日間の割には訪れた箇所も多く、結構見て回ったなぁ、と感心している。
偏屈と思われるだろうか・・・
中でも印象深かったのは、私たちが連泊したケーブ形式のホテルのすぐ横の民家。
そこら辺一帯はホテルのようにケーブを利用した民家で、生活臭が漂っている。
私は一人散策に出かけた。
朝日の出る前に散歩をすると、人一人歩いてはいない。
時々、運搬用の車が走る。
車のトルコ人は夜明け前に女一人歩きの私に 驚きを隠せない様子。
それでも にこやかに手を挙げて、車は走り去る。
野放しにされた犬が一匹。
この犬とはすぐに友達になれた。
私の朝の散歩の友となり、心強い。
犬が先になり、私が先に歩きといった具合で、お互いにじゃれ合って散歩を楽しんだ。
岩をくりぬいた民家は、まだひっそりとしている。
こんな早くに起きるやつは、この田舎町にはいないといった感じだった。
あたりはまだ、半端に白んだ空。
歩いていると、私の心を射止めた一軒の穴蔵民家があった。
都合の良いことに、家の周りも中の小山も探索しやすそうだった。
私は日本では絶対できないことだが、一軒の家の庭に入る。
これはいわゆる不法侵入というやつに違いない。
とはいえ、囲いもなく、どこからどこまではこの家の敷地かも検討がつかないといった様子。
カッパドキアの民家は、道沿いはきれいに整備されているが、一旦中にはいると、カッパドキア特有のトンガリ小山の携帯が入り乱れ、複雑である。
これでは、私の好奇心を抑えきることはできない。
民家には内心手を合わせ、厚かましくも自然体の姿を見せていただくことにした。
民家は非常に美しい曲線美を描いていた。
あなをあけた岩の屋根は平らに削られていて、木のはしごなどもかけられており、屋上に登れるといった具合。
屋上の上には私たちの生活と何ら変わらず テレビの衛生アンテナ、ソーラーシステムなどが備え付けられている。
換気口は煙突風で、これらは私たちの泊まったホテルと同じような風だった。
上の写真はそのお宅の庭をもっと奥に進んだところ。
石垣で整えられ、岩の部屋があり、自然に風化した色合いは白磁に劣ることなく、非常に上品。
私が民家の庭を不法侵入し、その美しさに見入っている間、下の写真のワン公は、ずっとまとわりついて離れない。
私は止めどなく庭の中を進んでいった。
しかしながら、これが民家の庭なのかどうかも分からない。
これが本来の 人工的に観光のために作られたものではない、生のカッパドキアだといってもいいだろうか・・・。
それともよくご存じの方に、おしかりを受けるだろうか。
どちらにせよ、私はこどもの探偵ごっこを再現して、ワン公と共に楽しんでいた。
民家の庭らしきところは山のようになっており、カッパドキアの一部分を見下ろせた。
どんどん進むと、ワン公はしっぽを振って答えてくれた。
そして、細やか名白骨色の砂の山に出くわした。
砂山は相当でっかく、また自然の砂であったために驚いた。
私は白骨色の山に登ろうと思い、一足踏み入れる。
ずぼっ!
右足が膝下まで食い込んだ。
「こわっ!」
私は内心、
公房の『砂の女』のようになってはたまらない。
いや、自体はもっと悪い。
これ以上進むと、蟻地獄状態かも知れない。
などと考えていた。
ワン公はそのとき初めて、小さな声をたてた。
私の左足の靴を前足でひっかき、7,8メートル離れまた前足をひっかき腹ばいをする。
その動作を二度繰り返した後、また小さな声で吠えた。
どうも、
「そっちへ行ってはいけない、こっちへ来い。」
と忠告している。
これは絶対、以前共存していた我が子(犬)も行っていた、犬特有の仕草というものだろう・・・。
私はワン公に教えられるままに、その砂山から離れた。そうして 私はワン公の後に続いて歩き、無事 安全なカッパドキアの探索を続けることができた。
感謝合掌である。
愛しのワン公と見た 朝日の一つ
あたりはずいぶんと明るさを増し、ご来光の時間となった。
ワン公と私は民家の敷地内に違いない小高い山の上から朝日を待った。
少し歩いては朝日をいろいろな姿で楽しむことができた。
朝日がすっかりと昇った頃、ワン公と私はは民家から出た。
私は今度は店の多い賑やかな方向に向かっていった。
途中、少し強面の大きな犬が 向かいの道路脇から吠えたてた。
私は正直怖さを感じた。
するとワン公は私の法を振り返ったのちに、強面の犬の方に走ってい気、お互いに吠えたてていた。
ワン公は二度も、私の窮地を救ってくれたのだ。
ありがとう、ワン公。
君は私のカッパドキアのボディガードだった。
カッパドキアの思い出は、君と共にあるといって良いだろう。
君がいなければ、私はあの砂山をもう少し進んでいたかも知れない。
感謝してもしつくせない・・・
我が心の友、ワン公に愛をこめて、
私は君に、ワン公という名を名付けた。
ボディガード 兼 道案内役の ワン公