こころの声に耳をすませて

あの結婚生活は何だったのだろう?不可解な夫の言動はモラル・ハラスメントだった…と知ったウメの回想エッセー。

モラル・ハラスメントさえなければ

2006-04-08 11:36:57 | モラル・ハラスメント考
 私は、夫からのモラル・ハラスメントに苦しみ続けた結婚生活を送り、最後には虚無感と憎しみしか覚えず、夫の元から飛び出した。
 夫のモラル・ハラスメントさえなければ、夫は少々変わり者で頑固なところもあったが、面白く優しい人で、そのまま結婚生活を送ることが出来たのではないかと思う。ただそんなことを考えても意味はないだろう。私の友人は、夫から再三暴力を受け、肋骨まで折る大怪我をした。友人は言った。「暴力さえなければいい人なのに」と。そうなのだ。きっと誰もが言うのだろう。「モラル・ハラスメントさえなければ」「暴力さえなければ」「お酒さえ飲みすぎなければ」「浮気さえしなければ」「ギャンブルにさえのめり込まなければ」…いい人なのに、結婚生活も幸せだったのに。
 きっとそうなのだろう。しかしその問題行動こそが、当人の存在の根元的な部分にかかわっているのではないかと思う。だからこそその行動に固着し、強迫的に繰り返し、自身も、そして周囲の人をも巻き込み翻弄していくのだろう。そのエネルギーは何もかも焼き尽くし破壊し尽くそうとする凄まじい負の力だ。本人自身もコンロトールできず、渦の中に巻き込まれていく。

 夫はひとたび怒り出すと、少しの時間で止めることはできなかった。というかしなかったというか。どんどん激しい言葉になり、罵倒する。かと思えば突然声のトーンを落として冷酷に詰め寄る。そしてまた罵声。まるで自分自身の言葉で自分を煽っているかのようだった。自分の言葉に酔い、煽り、燃えさかっていく。そのエネルギーを燃やし尽くし、吐き尽くしたら、ふと我に返るのだ。そして謝罪の言葉。
 夫は言った。「どうか俺を怒らせないでくれ」「怒るとすごく疲れるんだ。しんどいんだよ」「俺だって怒りたくないんだ」と。
 こんな言葉を聞くと、夫が怒るのは私のせいなのか?と錯覚してしまう。そうか、夫も怒りたくないんだ。じゃあ私も気を付けなければ、なんて思ってしまう。同時に、この言葉は、相手のせいというよりも、本人も怒りの感情に対してコントロール不能だ、ということを表しているのではないか。
 そして妻に振り回される自分を、常に表明するのだ。「おまえのせいで元気が出ない」「俺を怒らせるおまえが悪い」「おまえのせいで仕事ができない」「おまえがしっかりしないから俺も不安定になる」「おまえのせいで病気になった」…全て私のせいだ。きりがない。
 私は思う。じゃあ、あなたは自分自身全てが、妻の行動に振り回されているの?元気が出るように自分で工夫するとか、怒るのは自分にも非があるとか、自らの意志や思いや行動はないの??
 そう、つまり自分がないのだ。
 もちろん、自分の感情を妻のせいにするということは、妻を支配しようとする手段でもあるだろう。しかし、何かや他者がどうあろうと、自分は自分という確固たる自我がないように感じるのだ。もちろん、外部の人間にはそんなことはない。自分のスタイルや自分の仕事をしっかり持ち、アピールしている。ただごく近しい家族相手になると、途端に自分自身が脆弱になる。だから相手の言動に振り回され翻弄される自分自身が腹立たしく、その怒りを相手(妻)にぶつけるのではないだろうか。自分の期待通りに希望通りに動いてくれない妻(あるいは母)は、自分を脅かし不安にさせる存在となって迫ってくるのだ。

 私は夫に対して「どうしてこの人は文句ばかり言っているのだろう。自分の思うとおりに事が運ばないと、妻のせい、住んでいる土地のせい、天気のせい、他人のせいだ。この人は自分で満足することのできない可哀想な人なのかもしれない。」と、よく思ったものだ。実際文句を言い続ける夫にも「あなたって、いつも文句ばっかり言って、本当に可哀想な人だね」と言ったことがある。もちろん私の発言に夫は怒っていたが。

 夫は結婚する前、私に「僕はウメ依存症だ」と笑いながら言った。恋愛に浸っていた私は、それが何を意味するのか何となくひっかかりながらも、嬉しかった覚えがある。しかし、夫のモラル・ハラスメントはこの言葉に全てが象徴されていたように思う。私は夫にとってアルコールやドラッグのようなものだったのだ。常に夫をいい気分にさせ、夫に力を与えるものでなければならなかったのだ。夫の期待に応えいい気分にさせられない妻は、怒りでもってコントロールしなければ力を得られない自分が不安に陥る。しかし自分の希望を完全に叶えてくれる人間なんてこの世に存在しない。だからこそ、躍起になって自分の欲求を叶えてくれる妻を作ろうとしたのではないか。

 モラル・ハラスメントがなければ…夫はまったく違う人間になっていただろう。モラル・ハラスメントを行使する夫は、空虚な自分を埋めるために今の自己像を作り上げていったのだから。

 それもひとつの人生なのだろう。

(勝手にやってくれ。わたしゃもう知らん!)←私の心のつぶやき



10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (文旦。)
2006-04-08 16:13:41
「ウメ依存症」って甘い響きですよね。

言われたらぐらっときてしまいそうです。



ウメさんあいかわらず文章うまい!その上理路整然と書いてあって「うん、うん。」とうなずきながら

読んでしまいました。

納得です。たしかに「あれさえなければ良い人」

っていますよね。



「それもひとつの人生なのだろう」

これ多いに納得。
返信する
初めまして (うるうさ)
2006-04-08 22:00:30
初めまして。私もモラハラで離婚しました。

モラハラさえなければ・・・涙が出ます(T∇T) うぅぅ



夫を怒らせる私が悪いんだと自分を責め続けた日々・・・



今は二人の子供達と3人で 大変だけど

幸せに暮らしています。



でも、たまに起こるフラッシュバックに悩んだりもしています・・・

モラ夫から逃れても心の傷は簡単には消えませんね(><)

返信する
そうそう!「あれさえなければ」! (文旦さんへ)
2006-04-09 00:00:44
文旦さん、こんばんは!



そうなんですよね~。

「あれさえなければ良い人」ってけっこういますよね。

しかしそのような架空の想定は、現実にはないので

やはり「あれがあるから困る人」になるのでしょうね。

そしてその問題行動は、その人自身の責任なのですから

そういう人生を送っていけばいいのだと思えるようになったのが

別居してからかな~。



文旦さん、共感してくださってありがとうございます(^^)

     ウメより
返信する
初めまして! (うるうささんへ)
2006-04-09 00:14:04
うるうささん、初めまして!



うるうささんも、モラハラで苦しまれたのですね。

でもモラハラに気づき、元夫さんから離れられて、

本当によかったですね。



モラハラさえなければ…私もよく思いました。

でもそれはあくまでも仮定でしたよね。



モラハラを受けた傷は、

必ず癒されることと思います。

だって、うるうささんがお子さまたちと

ご自身の幸せを自らの手で守られたのですから!



うるうささん、応援していますよ!

     ウメより



返信する
どれもこれも、うなずくことばかり (マーチ)
2006-04-09 14:25:36
またまたわたしの気持ちを代弁していただいているようで(笑)、読みながら「そう、そうなのよ」と大きくうなずいてしまいました。



>本人も怒りの感情に対してコントロール不能だ



わたしは夫が定年退職して突然モラハラを激化させたとき、「脳内の、怒りをコントロールする部分に腫瘍でもできたのではないか」と本気で思ってしまいました。もちろん、本人に病院に行くようにとは、怖くてとても言えませんでしたが。



やがてわかったのは、「この人は本来の自分に戻っただけなんだ」ということでした。会社勤めをしていたころは、社会的な“たが”がはまっていたので、わたしに対する怒りもそれなりに抑制されていたのでしょう。その抑制がとれたとき、本来の自分に戻り、一気に暴走したものと思われます。正体見たぞ、という感じでした(笑)。



>何かや他者がどうあろうと、自分は自分という確固たる自我がない



これも、そのとおりですね。しかも、わが家の夫の場合は精神的に怠惰で、考えるということをしないから、感情のおもむくままに怒りを爆発させておいて、なぜそんなに腹が立つのか、考えてみようともしません。困ったものです。



そんなご主人から逃れられて、ウメさん、ほんとによかったですね。こののどかな春の日を、どうぞ存分に楽しんでください。

返信する
ありがとうございます (マーチさんへ)
2006-04-09 23:19:08
マーチさん、こんばんは!

共感してくださって嬉しいです。



>「脳内の、怒りをコントロールする部分に腫瘍でもできたのではないか」



私も激しく思いました~~!

絶対どこかやられているんだと思いました。

だってあの突発的な怒り、全く理解不能でしたから。

麻酔薬でも吸わせたいくらいでしたよ!

あるいは睡眠薬でも食べ物の中に混ぜたかったです。



うちの夫も職場ではええ格好しいでしたが

これが退職して家にずっといるようになると思ったら恐怖でしたよ。

不機嫌ハリケーンが常に家にあると思うと。

マーチさんの大変さ、お察しします。



先日、友人とお花見してきました。

お花見をするのは何年かぶりでした。

ありがとうございます。

     ウメより







返信する
納得納得 (あかね)
2006-04-10 08:38:56
「ウメ依存症」・・・なるほど~。夫は「趣味は奥さん」と言っています。「自分の考える妻の枠」をはみだすと、怒り爆発。立ち上げた会社も夫のうつ病介護で空中分解、自宅教室も来客禁止令で消滅したし。

そりゃ、恋愛時代は「?」と思いながら嬉しかった。「こんなに愛してくれてるのね」と思ったものです。若いってコワイ。それが「愛」と勘違いしてた。最初の「?」違和感のサインを見逃した!イターイ!

「自分が無い・・・」の件は、更に納得!何事も自信がないんですね。だから妻が世間・社会とつながり、自分の未熟さが露呈するのがコワイ。こーんなちっちゃなヤツに愛を差し出してた自分がつくづく情けなくなってくる。

いままで夫のために使ってきたムダな時間を、自分のために使い未来を作って行きたいとおもいます。

ウメさん、気づかせてくれてありがとう♪
返信する
おぉ…似てますね! (あかねさんへ)
2006-04-10 23:14:39
あかねさん、こんばんは



「趣味は奥さん」→これも昔々に言われたことがあります。

依存症と同じようなものですね。

あかねさんの夫さんも、あかねさんに依存し

それ故に自分好み?にコントロールしようとするのでしょうね。

そして妻が自分の方ばかり見てくれないと

不安になって暴れ出す…やってらんないですね~!

まるで子どもの癇癪。



しかしあかねさんはもう既にモラハラを理解しつつ

夫さんを上手くあしらっておられるのですから

きっと大丈夫ですよ!

共感してくださってありがとうございます~。

     ウメより

返信する
初めまして・・・ (にゃりんた)
2006-04-12 17:39:17
モラハラ同盟のリンクからお邪魔しました。

私もつい最近モラハラという言葉に出会い、自分の元・旦那がモラ夫であったことに気がつきました。

そしてやっと最近その体験談をブログに書き始めたところです。

ただ今色々迷うこともあり、他の方はどういう風に書いていらっしゃるのかと思い覗かせていただきました。

これからゆっくり過去の記事も拝見させていただきますね。
返信する
はじめまして! (にゃりんたさんへ)
2006-04-12 21:54:56
にゃりんたさん、こんばんは



にゃりんたさんの元夫さんも、モラだったのですか。

にゃりんたさんも大変な思いをされたことと思います。

でも、モラハラという言葉を知らなくても

おかしいことを、おかしいと感じ、

ご自身の人生を守るために

夫さんから離れられたのですね。すごいです!



私のブログは長ったらしいのですが(^^;)

読んでくださると嬉しいです。

にゃりんたさんのブログもまた読ませていただきますね。

コメントありがとうございました。

     ウメより

返信する

コメントを投稿