Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

なり手のいなくなる世界

2007-07-20 08:29:15 | ひとから学ぶ
 教員の志願者が過去10年で最低というニュースがあった。「子どもたちと接するのは楽しい。でも、保護者との付き合いといったことに時間を割くのは予想以上に大変そうで、自信が持てない」という信州大学教育学部の学生のコメントを見たが、はっきりいって正直なところだろう。教員を目指していた若者たちの多くが、このところの教育世界の動きに不安を抱いていることは確かだと思う。それほど「教育」とはかけ離れた部分で現実世界では時間が割かれていく。「忙しすぎて準備が間に合わなかった」という小学校の講師は教員試験をパスしたという。学校という世界、みんな正式な教員だと思うとそうではない。こんなことを知ったのはこのごろのことだ。学校という空間では、子どもたちにとっては、みんな同じ「先生」だというのに、その身分が異なるということも、よーく考えてみるとちょっと納得のいかないものがある。そうした身分の人たちでも担任を受けることもある。にもかかわらず同じように暇なし状態だったとすれば、身分はともかくとして、正式に教員になるための試験すら受けられなかったり、その気持ちすら失ってしまうだろう。現実を知っていれば知っているほど、踏みとどまってしまうこともある。

 将来は教員になればそれほど転勤もなく安定している、という印象を持っていた。加えて教員の仕事場はどちらかというと多くの時間は1人で自らの方針で実行できる。裏を返せば、ひどい先生がいたら子どもたちにとっては最悪なのかもしれないが、人と関わる、人とともに喜怒哀楽を感じられるというどちらかというと、人が好きな人にはうってつけな仕事かもしれない。実際を知らないわたしにはそんな印象があるだけで、実際は違うよという声が聞こえてきそうだが、1人の力で周りの人が変化していくということは確かだと思う。身の周りに同じような立場の人がいたりしたこともあって、息子にもそんな将来が良いかもしれないと思っていたが、周りからいろいろ言われたり、現実を認識してきたようで、今やそんな気はさらさらなくなった。特徴的な「人とのかかわり」という部分が自分には向いていると思えなくなれば、それも仕方のないことだろうが、どこかに冒頭の学生がコメントしたような背景も起因しているように思う。

 さまざまな考えがあるから、その個人的な思想までどうこう言うことはできないが、忙しいと言われる教員の世界でも、必ず定時に帰ることを優先している人もいる。それが本来の姿であるべきなのだろうが、いっぽうでは父兄との対応で日々追われる人もいる。それはどこの世界でも同じだろうが、教員が敬遠され始めるということは、ますます教職の場の雰囲気は変わっていくだろう。負担の重い人はもしかしたらもっと負担を負うことになるかもしれない。どこかで同じような現象が起きている。医師の世界だ。

 知人は「大阪市阪南市の財政再建団体転落危機の話」の中で、市の運営している病院の内科診療が医師が辞めてしまったことで閉鎖に追い込まれ、それが要因で市の財政を圧迫し財政再建団体に陥る可能性が出てきたことについて触れている。知人が紹介してといるように、これは一つの要因に過ぎないようだが、医師不足が活発に論じられるなか、人事ではないという現実が多くの自治体に迫っているともいえる。とくに病院の場合は、大きな運営費が必要であり、機能しなくなれば大きな財政負担になることは確かだろう。それほど地方自治体が背負うには重いサービスだということだ。知人が紹介しているブログに踏み入ってみると、医師の手当てが低いために医師が辞めていってしまい、結果的に閉鎖に追い込まれるという。それなら手当てを倍にするなりそうした手立てを立てるべきだったということになるが、果たしてそれが策となるかどうかも怪しそうだ。現実的な話として病院を自ら抱えている自治体には、ひとつの参考例となるのだろう。聖職と言われるような職業がかつてはあった。そうした聖職が人々に認識されなくなったことで、聖職者自らがかつてとは違った対応をしなくてはならなくなったし、新たにそこに就く者は当初から聖職などという意識ではいられなくきなっているはずだ。すべてが訴訟問題にかかわってくるこの世の中で、こうした職業に就く人たちがかつてとは意識が違うということを、わたしたちも認識しなくてはならなくなったということだ。悪循環はこうして変化を重ねていく。

 自らが住む地域に大規模な運営施設があるかないかということは、ひとつの地域指標になるということをちょっと考えてみたいわけだ。ということで、なり手のいなくなる世界は、ますます奈落の底に落ちていきそうな気配を感じさせる話である。
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