西大滝大灘神社獅子舞
前編において「役員が社殿に向かって拝礼して祭りは始まる」と記したが、3名の役員は祭典幹事長を真ん中にし両脇に2名の祭典監事が立つ。二礼二拍手一礼の後に振り返り、コの字形に並んだ芸能を担う氏子のほか周囲に立っている地域の人々に向かって挨拶をして祭りが始まる。その際円陣の真ん中に獅子頭が丁寧に幌の上に置かれるところは、昨年訪れた木島平村豊足穂神社の獅子舞と同様だ。獅子頭を神聖視している様子がうかがえる。役員が座り献杯が行われると、お神酒は周囲の見物している氏子にも振舞われる。献杯の後に手締めが行われるが、浦山氏はこれを天領締めと記している。この輪に加わったのは役員を含めて17名であった。獅子が舞う前に前奏があり、悪魔祓いが始まったのは午後9時15分ころであった。
「飯山の祭り」(飯山市教育委員会 平成23年)には「近隣に比べ静かで御幣と剣による悪魔祓いの舞いである。雌獅子である。」というが、とても静かな舞いとは思えなかった。そもそもわたしが近隣の獅子舞を見ていないからかもしれないが、桑名川の獅子舞と比較して「静か」という印象は持てなかった。前述した木島平村豊足穂神社の獅子舞ほど長い舞ではないが、それらも含めて奥信濃の獅子舞は内容が濃いと、わたしは捉えている。
獅子舞の最初はヨタン舞(幌の舞)であり、頭を持つ前方が頭を被らずに持って舞うスタイルのもので頭を持っているから持ち物はない。後半は頭を被って幕を頭の前で水平に持って舞う。斎藤武雄氏は『奥信濃の祭り考』(信濃毎日新聞社 昭和57年)において「本来は神のおいでを願うためのその場を清める目的のものである」(89頁)との述べている。
続いて回れるのは右手にオンベ、左手に鈴をもって舞う御幣舞である。当初から既に鈴を持っているので、鈴舞というのかもしれない。かなり激しく両手を何度も交差させながら動かす舞で、これを見て「静かな舞」ではないと感じたわけである。後方は幌を絞って幌の隅を首に巻いて舞うもので、悪魔祓いとして舞われる獅子舞ではよくある形式のもの。3分ほどで右手の持ち物を刀に代えて舞うのは「刀の舞」である。これもまた刀と鈴を交差させながら激しく舞うもので、3から4分ほどて終わり、再び持ち物を持たずに最初のヨタン舞の後半部分と同じような舞となり2分ほど続く。最後は幌の端を持つ者が4人ほどになって、幌を高く広く広げて舞う「おこり」という舞となる。いわゆる「本狂い」の舞であり、南信でよく言われる所作としてはそれらしくいところは少ないがノミ取りにあたる。
続く