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丸菱百貨店(最終回)

2023年01月26日 | Weblog

警察署

 

「警部、やっと鑑識から連絡がありました」

「そうか、で、どうやった、再生できたのか」

「できましたが事務所の明かりが消えてたのでちょっと見にくいかもしれません、が、犯人と思われる人物が懐中電灯を照らしていたので顔はそれなりにしっかり映ってました」

「ではこれで犯人が誰かわかるな」

「はい、では警部今からその消されてた部分の映像を再生しますのでご覧ください」

「あ~こいつか、白白と、早速明日にでも事情聴衆をするか」

「わかりました」

 

 

丸菱本社

 

「もしもし、私、警視庁の大越と申しますが横山常務さんはいらっしゃいますでしょうか」

「あ、はい、しばらくお待ちください」 

「常務、警視庁の大越様からお電話が入っておりますのでお繋ぎいたします」 

「もしもし、横山ですが」

「大越です、今日お電話差し上げたのは例の犯人の件です」 

「わかりましたか」 

「はい、わかりました、とりあえず明日その本人の事情徴収をしますので改めて詳しい内容をご連絡差し上げます」 

「そうですか、大変お世話になりましたね、ではお待ちいたしておりますのでよろしくお 願いします」 

 

 

警察署 

 

大越警部は今まで調査して来た内容と聴取して来た資料等合わせ逮捕状の請求を署長に提出した 

「わかりました、早速逮捕状の請求を行いますので明日実行してください」と署長が了承 した 

大越は三人の部下、橘、寺脇、安藤に明日の午前10時に行くので準備をするようにと指示 を与えた 

 

そして当日 

外商事務所では恒例の朝の朝礼が終わり係員が色々と今日の準備にとりかっかっていたそんなバタバタとしているところへ大越率いる刑事三人が松山が座っている席に向かって 入ってきた 

それを見ていた係員たちが「誰や」「なんかあったんか」「もしかして刑事」と、事務所 にいる全員が一斉に部長席の方を伺いシーンとなった 

すると男が一枚の紙を取り出して部長に見せ「松山さん、貴方に逮捕状が出ていますので ご同行願います」と言ったので全員がどよめいた 

「えっ、逮捕」

そしてもう一人の刑事が「山下さんですね、貴方も任意同行をお願いします」と言った

山下はいったい何の事なのかわからない様子で刑事の指示に従いながら松山と共に事務所を出ていった 

「おい、何事やねん」

「部長が逮捕やなんて何やったんやろ」

「山下も共犯って事なんかな」

「朝からこんな状態で仕事も手につかんな」

広瀬は早速山田に電話を入れた

「もしもし、広瀬やけど」

「なんかあったんか」 

「そうなんや、開店と同時に事務所へ刑事がやって来て松山と山下を逮捕しに来たんや」 

「えっ、逮捕」

「そうなんや、おそらく地金の件やと思うわ」

「今村やったんちゃうの」

「それはまだわからんけど、共犯という事もありえるかもな、しかしまさか部長が」 

「また何かわかったら教えてくれ」

「わかった」 

 

 

警察署取調室 

 

「松山さん、何故貴方が逮捕されたのかご存知ですね」

「わかりません、全く寝耳に水ですよ」

「そうですか」

「何かの間違いじゃないんですか」と松山は心外とばかりの態度で白を切った

すると大越はテーブルを思いっきり叩くと同時に「証拠はもう上がってるんだ、白を切るのもいい加減にしろ」と大きな声で言った

 松山は一瞬うろたえたが「じゃ~その証拠とやらを見せていただきましょうか」と恐らく驚かせハッタリで俺に吐かせようとしているんだと開き直った 

大越は間をおき今度は冷静に「わかりました」

「橘、パソコンを持って来てくれ」 と指示をした 

しばらくして橘が松山の前にパソコンを設置した

「松山さん、では今からこの映像をご覧いただきましょうか」とエンターキーを押した

すると松山は体を震わせながら首をうな垂れ沈黙した

「どうです松山さん、貴方ですよね」

松山は蚊の泣くような小さな声で一言「はい」と答えた

「どうしてこんな事をされたんですか、何かお金にお困りだったんですか」

 「・・・・・・・・」

「黙ってちゃわかりませんよ」 

「何故なんですか、正直に話してもらえませんか」 

「・・・・・・・・」

 大越は再度テーブルを叩き大きな怒鳴り声で「こら松山、黙っとたらわからんゆうとるやろ、白状せんか」

 松山はたどたどしく「相場で失敗し、その穴埋めのためにやりました」 

「どれぐらいの金額やねん」

「ざっと、3,000万円程です」

「それで業者にはどうするつもりやったんや」

「それは」

「それは何やねん」

「内の会社から」

「どういうことや、ちゃんと話してみい」 

「部下が盗んだという事にして会社より弁償しようと」 

「何やて、部下の責任にして会社からやて」

「それで会社は了解したんかいな」

「それはまだ」

「まだ」 

「何とか相場で取り返して充当しようと思って支払いを担当の部長に引き伸ばしてもらっ ているので、まだ本社には言ってないんです」

「もうアホらしゅうていかんな、しかもその担当部長もえ~加減やな、あんたとこ信用が 一番の会社ちゃうんか、ましてやそれを部下に指導する立場でもあんねんやろ、なに考え てんね」

「・・・・・・・・」

「それともう一つ、このデータが消えてたんはどういう事や」

「それは」

「もう正直にはきいな」 

「それは、保安にいる田代君に指示して削除してもらったんです」 

「えらい用意周到やな、そんな事してバレへんと思とったんかいな」 

「・・・・・・・・」

「すいません」 

 

 

取調室2 

 

「山下さん、貴方松山がロッカーにあった地金を盗んだの知ってたんですか、正直にお話ください」

山下はまだ何故自分がここに連れてこられたのかわからずたどたどしい口調で質問に答え た 

「い、いいえ、そんなんまったく知りませんよ」 

「松山と共謀して地金をさばいてその責任を部下に押し付けようとしてたんじゃないんですか」

山下は驚いた、まるで俺を犯人扱いのように尋問されてると

「何故私がそのような事をしなければならないんですか」

「金に困ってたとか」 

「確かに安い給料で、ローンもありますが人様の物に手を付けるなんて私は絶対しませんよ、何を証拠にそんな言いがかりのような事をおっしゃるんですか」 

「山下さん、ちょっと落ち着いてください」 

「お、落ち着けだって、まるで私が犯人のような尋問じゃないですか」 

「ま~ま~、これも私らの仕事なんでね、疑うことから始める因果な商売なんですよ」

 「いい加減にしてくださいよ」

「本当に知らないんですね」

「だから知らないって言ってるでしょ」

「わかりました」 

 

 

取調室3 

 

「田代さん、何故データの削除なんてされたんですか」

 「それは松山さんからお願いされて」 

「田代さん、これって証拠隠滅という罪なんですよ」 

「それは、でもやるしかなかったんですよ」 

「やるしかなかった、そういえば田代さん、今回の事件があったので私らは関連部署に携わるお宅の社員さんの行動もチェックさせてもらってるんですが、田代さん、奥さん以外 の女性とお付き合いをされてますね」 

「それはプライベートのことでしょ、お宅らには関係ないことじゃないですか」 

「確かにそうなんですけど、事件解決のためには色々情報収集も必要でしてね、その女性にお話しも伺ってるんですよ」 

「警察は何故そのような勝手な事をするんですか」 

「ですから、お宅が正直にお話をしていただければこのような話題も強いて出す必要はなかったんですね」

「・・・・・・・・」

「どうして削除されたんですか」 

「実は、その女性との付き合いは当然家内も知りません、ですがその事をバラそうかと言われやもなくやったんです、しかも同郷の先輩で仕事上のトラブルの際にもそれなりにお世話になったので、何度か断ったたんですが私の自宅まで直接訪ねてきて頼むもんですから」 

「そうですか、それはそれで大変でしたね、でもこれはれっきとした犯罪ですからね」 

「はい」 

「とりあえず今日はこれでお帰り下さい、改めてまたご連絡を差し上げますので」 

 

 

本社応接室 

 

「大越警部さん、この度は大変お世話になりましたね」 

「犯罪という物はどこでも起こりうるものでね、仕組みが完成されてなければいくらでも落とし穴があります、今回のようにまさかと思うところから物がなくなる、これも仕組み の未完成から起こった現象ですね」

「そうですね、私どもの商売は信用が第一、それを無くしては成立しませんからね、再度このような事が起こらないよう我々全員が一丸となって徹底していきたいと思います」 

「では失礼致します」と大越と橘は本社を後にした

「警部、田代はどうします」

「ま〜それは彼にとっては自分の幸せを壊されたくない一心からの出来心、適当に反省文でも書かせてやれ」

「わかりました」

「橘」

「はい」

「ちょっと時間は早いが、一杯付き合わないか」

「はい」

 

 

終わり


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1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
今回も為になりました (入社1年目新米君)
2024-06-06 09:36:14
前回の『俺は外商セールスマン』を読ませて頂いてから自分なりに頑張り現在6勝2敗の成果です
今経済も厳しいですからねなかなか思うように売れません
でも今回の『丸菱百貨店』を読ませて頂いて思ったのが、売る事ばかり考えていてはダメなんだなと思いました
やはり人間関係から生まれる信頼がなければこの外商は成り立たないと思いました
ありがとうございました
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