小品日録

ふと目にした光景(写真)や短篇などの「小品」を気の向くままに。

夏目漱石 「長谷川君と余」

2006-05-06 23:59:19 | 随筆・エッセイ
漱石が二葉亭四迷のことを書いた追悼文で、読んだことのある方も多いと思います。
二人は、ともに朝日新聞の社員でしたが、実際に会ったのは数度にすぎなかったようです。
しかしながら、漱石のこの短い文章は、二葉亭四迷という人物の本質をよくとらえているように思えます。
初対面で、「あらゆる職業以外に厳然として存在する一種品位のある紳士」と、鋭く鑑定しています。
共通点が多そうでありながら、実人生ではすれ違いがちだった二人ですが、漱石の二葉亭四迷に対する一種の尊敬の念が伝わってきます。
追悼文とはいえ、二葉亭からの「此方の寒さには敵はない」との端書に、「…一種の可笑味を覚えた。まさか死ぬ程寒いとは思はなかつたからである。然し死ぬ程寒かつたものと見える。」など、所々にユーモアが込められているのも、いいですね。
その後の、「長谷川君は余を了解せず、余は長谷川君を了解しないで死んで仕舞つた。」との一文に、胸を打たれます。
漱石全集第12巻(岩波書店)で、8ページ。
岩波文庫『思い出す事など 他七篇』に収録。
思い出す事など 他七篇

岩波書店

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武田百合子 「富士日記」(昭和44年5月3日)

2006-05-03 23:54:54 | 日記文学
この日の一番の出来事は、山椒の芽を採りに行ったことです。
管理所の人が山椒の生えているところに案内してくれて芽を摘むのですが、その秘密めいた感じがいいです。
香りが伝わってくるよう。
また、月を見たことについて泰淳と交わす会話や、夜見る桜が耳無芳一の琵琶を聞きに集まってくる平家の亡霊のように見えて怖いという話も可愛らしいです。
「耳無芳一!!」
中公文庫などでどうぞ。
富士日記〈中〉

中央公論社

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西脇順三郎 「天気」(詩集『Ambarvalia』より)

2006-05-01 23:59:33 | 
『Ambarvalia』の最初のパートである「ギリシア的抒情詩」の冒頭に掲げられた、「天気」と題するこの詩は、たった3行からなる次のようなものです。

 (覆された宝石)のやうな朝
 何人か戸口にて誰かとさゝやく
 それは神の生誕の日。

ここには、感情の吐露も、思想の表出もありません。
ただただ、鮮やかなイメージの創出に圧倒されるばかりです。
何事にもとらわれない、詩のための詩、という感じがします。

講談社文芸文庫『Ambarvalia・旅人かへらず』は在庫がないようですので、他の本でお読み下さい。
Ambarvalia

日本図書センター

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