小品日録

ふと目にした光景(写真)や短篇などの「小品」を気の向くままに。

鷲谷七菜子 「遠ざくら」の句

2006-04-08 23:59:38 | 短歌・俳句
大西巨人『春秋の花』(光文社文庫)を久しぶりに捲ってみたら、この句が目に止まりました。

「老僧の眉がうごきて遠ざくら」  鷲谷七菜子 (句集『花寂び』(1977)所収)

こんな場面を(勝手に)想像します。
じっと落ち着いている老僧の顔に向かっていると、ふとその眉が動くのに気付いた。
その視線の遠い先を見ると、山の中に桜の花が咲いている。
何事にも動じない老僧の心を惹きつける桜に自分もしばし眺めていよう。
「近」(老僧)から「遠」(さくら)への視点の切り換えと、「静」(「老僧」のイメージ)から「動」(眉の動き)への動きや時間の流れが、俳句というごく短い形式に見事に詠み込まれています。
春秋の花

光文社

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カフカ 「ポセイドン」

2006-04-06 23:43:33 | 小説
海神ポセイドンの仕事は、机に向かって計算を行って、すべての海の管理を行うことだった!
不満を抱きながらも、黙々と耐えて仕事をしている姿に、しがない勤め人の自分を重ねて、苦い笑いを浮かべてしまいます。
「虚業」の多い現代を予測しているかのような作品です。
岩波文庫『カフカ寓話集』で、2ページちょっと。
カフカ寓話集

岩波書店

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内田百 「沿線の広告」

2006-04-04 23:59:37 | 内田百
百鬼園先生は、電車に乗って窓の外を眺めているのが大好きで、見飽きることはないという。
気難し屋の百鬼園先生のことだから、そんな景色の中に無粋な広告なんかあったら、カンシャクを起こしてしまうのでは、と心配するが、存外、先生は寛容である。
なぜなら、広告によって風景が分断されることによって、景色を惜しむ心が生じ、印象を強めるから、との御説に、なるほどと思わされます。
電車に乗っているときに、本や雑誌を読むばかりでなく、車窓の風景をぼうっと眺めているのもなかなかよいものですね。
旺文社文庫『つはぶきの花』で、3ページ。
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泉鏡花 「絵本の春」

2006-04-01 23:59:57 | 小説
「私」は、昔、旧藩の邸町だったところにある裏小路の、春の景色を思い描く。
十余りの小僧である「私」が、その裏小路で、「貸本」の文字を眺めていると、易者をしている小母さんに声をかけられる。
そして、小母さんは、「私」にその場所にまつわる因縁じみた話を教えてくれる。
春のぼうっとした、とろけるような、夢うつつの空気には、不思議な話が似合います。
訳ありげな小母さんの存在感がいいですね。
鏡花は、妖しげな世界を魅せるのに長けています。
ちくま文庫「泉鏡花集成8」で、12ページ。
泉鏡花集成 (8)

筑摩書房

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