情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

民放連は申し入れではなく、抗議を!~裁判員に対する接触禁止について

2009-02-07 05:56:01 | メディア(知るための手段のあり方)
 民放連は、2月5日、最高裁判所に対し、「裁判員裁判の取材にあたっての申し入れ」を手渡したことを発表した(http://nab.or.jp/index.php?2009%C7%AF02%B7%EE05%C6%FC%20%A1%CA%CA%F3%C6%BB%C8%AF%C9%BD%A1%CB%BA%C7%B9%E2%BA%DB%C8%BD%BD%EA%A4%D8%A4%CE%A1%D6%BA%DB%C8%BD%B0%F7%BA%DB%C8%BD%A4%CE%BC%E8%BA%E0%A4%CB%A4%A2%A4%BF%A4%C3%A4%C6%A4%CE%BF%BD%A4%B7%C6%FE%A4%EC%A1%D7%A4%CB%A4%C4%A4%A4%A4%C6)。この申し入れは、「1.法廷内撮影も含めた裁判の全面可視化」と「2.裁判員への取材について」の2つを内容とするもので、正論を述べている感じもあるが、捜査機関との密接な関係に比べると、あまりにも裁判員への取材を遠慮している感があり、納得できない。単なる申し入れではなく、報道ボイコットをしてでも要求するくらいの強い姿勢で臨んでほしいところだ。

 そもそも、裁判員制度では、未公開の手続きが多いため、民放連が

【法廷は原則として公開のものであると考えます。公判の過程が映像と音声によって可視化されることにより初めて、真の意味で「開かれた司法」「開かれた裁判」が実現されると考えるからです。
 そのためには、裁判員選任手続、評議室、法廷における冒頭陳述、証人尋問・論告求刑など、各段階で映像と音声取材が必要であり、当事者、関係者などの同意のもと、可能な限り撮影・録音が認められるべきです。
 また、新たな制度を検証するためにも、必要な情報は原則公開とすべきです。特に、公判前整理手続は運用上非公開となっているにすぎないと認識しており、さらに情報公開を進めるべきと考えます。】

と述べているのは、可視化が必要という限りでは、基本的には正しい。もちろん、法廷内の手続きについて、どこまで撮影放送を認めるべきであるかは、議論が分かれるところであり、個人的にも全面的な放送を認めることには賛成できない。

 しかし、少なくとも、裁判員選任手続きや公判前整理手続きが公開されず、取材できないというのは、裁判の公開原則に反するように思われる。

 他方、評議を公開することは行きすぎだ。民放連のいう「評議室」の公開は、いわゆる「頭撮り」ということだろうが、それが透明性を高まることにどれほど寄与するかは、疑問だ。もちろん、映像メディアとして、頭撮りだけでも希望するのはよく分かるが、そのあたりは、きちんと区別して論じる方が、説得力があるように思われる。

 つまり、可視化することと、放送することは、イコールではないのであり、そこを区別した議論をしないと、可視化の議論にのっかって、放送要求しているように受け止められてしまう、ということだ。

 で、次に、その評議の問題だ。評議自体を公開しろっていう議論はないはずだ。といって、評議をブラックボックス化するわけにもいかない。そこで、後でチェックできるように、判決後には、裁判員に自由に接触できるようにし、評議の内容も、名誉毀損、プライバシー侵害にあたらない範囲で発表できるような仕組みにしておく必要がある。

 ところが、何度も書いてきたように、裁判員には評議について守秘義務が課され(懲役最長6か月罰金最高50万円)、記者が評議の秘密を取材する目的で接触することは禁止されている。

 これは、やっぱりおかしい。これでは、裁判官が強引に裁判員を丸め込んだような場合に、その問題点を指摘したり、取調過程が録音録画されていないことが議論となった場合、市民がいかに問題があると考えたか、それに対して裁判官がどのような意見を述べたのか、などという肝心なことがまったく明らかにならないからだ。

 他方、マスメディアは、夜討ち朝駆けと称し、地方公務員たる警察官からその守秘義務違反に反する捜査情報をとってきては、「こいつが犯人だ」「こいつはこんなに悪いやっちゃ」と報道している。捜査側から情報をもらうことは、安全地帯にあることが分かっているからであり、結局は、捜査側にとって漏らしてもいい情報をもらって報道しているだけってことになる(もちろん、そこに熾烈な取材競争があることは否定しないが、結局は、手のひらの上の争いってことだ)。

 本当に、必要なことは、「こいつがこんなに凶悪だ」っていう情報ではなく、「この人を有罪にする過程で、こんなに問題があった。これらのシステムは改善する必要がある」っていう情報でしょう。

 ならば、裁判員であった者に対する取材はフリーに行われるべきであり、そのためには、民放連は連帯して、裁判員経験者に対する取材を全面解禁解禁するよう強く抗議し、場合によっては、解禁されない限り、裁判員制度について一切報道しないくらいの断固たる決意をもって臨むべきだろう。

 マスメディアに保障されている「表現の自由」「取材の自由」を金儲けのために使うのか、本来の権力監視のために使うのか、市民は裁判員制度そのものと同様に、マスメディアの姿勢にも注目しているはずだ。




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