情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

公衆浴場よりも表現の自由の場の方が公共性は高いのでは?

2005-12-30 18:04:58 | インターネットとメディア
BigBanさんから【「交通事故により受傷した救急患者の治療を拒否しその後患者が死亡した場合において、診療拒否に正当事由がないとして市に不法行為責任が認められた事例」や 「公衆浴場が入場拒否して違法とされた事例」と、インターネット上における検索広告とでは明らかに公共性の度合いが違う。例示された2例はいずれも契約を拒否されることで、生存権や生活権の根本を脅かされる重大な権利侵害が生じるが、本件では広告契約を拒絶されただけであり、権利侵害の重大度が違う。これらを一緒に言及することは乱暴ではないか。】というご指摘をいただいたが,「公衆浴場に入れないこと」と「インターネット上の検索連動型広告システムでの広告掲載を拒否されること」のいずれがより公共性の高い問題なのか?これは,自明ではないでしょうか?(二重の基準論参照)

日本における表現の自由に関する議論は非常に低調であり,このことは他の国の学者の議論や判例と比較すると明白です。奥平教授は「なぜ『表現の自由か』」(東京大学出版会)で,「日本では,これまでに一体,表現の自由の原理論が本格的な争点の的になったことがあるだろうか。私にはなかったように思われる」と指摘しています(9頁)。インターネットというこれまでにない情報流通伝達手段の枠組みを決める際,その意識の低さこそが問題にされるべきなのです。

診療拒否されること,あるいは公衆浴場に入れないことについてどう思いますか?という問いかけをし,それがやはり違法なことだとみんなが考えるようになるのも表現の自由が確保されているからこそ実現されることなのです。表現の自由が確保されていなければ,そのような問題があることすら伝達されなくなる。

BigBanさんが引用するサイトには【gooleやyahooは、検索における「支配者」であり、そのルールは神聖不可侵なのだ。その上で決められた「遊び=検索上位」をするだけ。 】とあるが,表現の自由の優越性を理解していない発言ではないでしょうか?表現の自由は,「支配者」の掌で飛び回る孫悟空であってはならないのです。

奥平教授は上記著作で「公共的なことがらについて人々にメッセージを伝達したいと欲する者がつねにかならずしも,この目的のために必要な場所あるいは空間を自ら所有・管理しているとは限らない。いやむしろ,それにふさわしい場所・空間を自らが所有・管理していないのが,普通一般である。そこで,実際には他人の所有・管理する場所・空間であるが機能上多かれ少なかれ公共的な場所・空間と見なされているところを用いて,伝達行為を行うことが現代社会では事実上比較的に大目に見られている状況がある」と指摘しています。

オーバーチュア(ヤフーの100%子会社)が提供する広告システムは,インターネット上で検索という入り口の部分を寡占的に使用したものであり,そのような場所はグーグルとオーバーチュアしか提供していない。もちろん,寡占体制が崩れる見込みがあれば問題はないが,恐らく,より寡占化が進むだけだろう。したがって,そのような場所をいかに活用するかについては,当然,公共性が考慮されるべきだと思うのです。

方法としては,広告規程に反しないものは全て受け付けるという内容規制か,検索連動型広告を多くの会社に門戸を開かせるという中立規制かしかないのではないでしょうか?

例えば,NTT以外の企業が通信事業に参入する際,NTTの回線が使われた。
であれば,ヤフーの検索システム上の検索連動型広告スペースだって,門戸を開放させるべきではないか?それは新たな立法を伴うかもしれないが,公共性の高さからは必要な枠組みづくりではないだろうか?

そうでなければ,やはり,違法な広告など一部の広告を除いて全て掲載するような法的枠組みを作るか?

インターネット上の表現の自由の枠組みが作られようとしている今,表現の自由の優越性をいかに考慮するかを正面から検討する必要があると思う。

参照:踊る新聞屋さん
【新聞でもしばしば、広告掲載拒否“事件”が起きる<「誤報」広告掲載を拒否 朝日新聞、週刊新潮に抗議>が、神保さんのエントリによれば、<はじかれたキーワードを見てみると、「憲法改正」「靖国参拝」「中国反日デモ」のような政治的にデリケート>なキーワードが標的となっており、自社への批判を含む広告はともかく、この程度の文言で広告掲載が拒否される例というのは、新聞では恐らくないだろう。
 Yahooといえば以前、論談同友会による批判の対抗手段として、同会のwebサイトを検索結果から外したことを思い出す。<論談:孫 正義(ソフトバンク(株))社長の暗部をえぐる>。現在は、yahooで「論談」「論談同友会」と検索すれば、1位で表示されるのだが。】

ネットの無秩序の異常さについて参照記事
【欧州連合(EU)の欧州委員会は22日、米マイクロソフト(MS)のEU競争法(独占禁止法)違反問題で「5週間以内に十分な改善策が示されなければ、1日当たり最大で200万ユーロ(約2億7000万円)の制裁金を科すことを検討する」と発表した。 欧州委によると、MSは基本ソフト「ウィンドウズ」の独占的な地位を利用し、音楽・映像再生ソフト「メディア・プレーヤー」を抱き合わせ販売するなど、公正な競争を阻害している。MSはメディア・プレーヤーを搭載しない基本ソフトの販売も始めたが、値段は従来と変わらず、ほとんど売れていない。】