tokyo_mirage

東京在住・在勤、40代、男。
孤独に慣れ、馴れ、熟れながらも、まあまあ人生を楽しむの記。

「サプラ~イズ!」

2017-04-14 15:56:11 | 雑感
最近見た映画で、立て続けに出てきたシーン。

「アメリカ映画あるある」とでも呼ぶべきもののひとつだが、
誰かが自宅に帰ってきて玄関のドアを開けると、パパパ~ンとクラッカーが鳴り、
真っ暗な室内が突然明るくなり、身を潜めていた大勢の人たちが一斉に叫ぶ。
「サプラ~イズ!」。
誕生祝いだ。

昔、3か月ほどの“交際未満”の関係で終わった女性に、
イタリアンの店で「誕生日サプライズ」を仕掛けられたことがある。

ひととおり食事をして、あとはデザートを待つのみ、となった頃、
店内が不意に暗くなり、「ハッピバースデ~」という女性ボーカルのアップテンポな“あの例の曲”が流れ、
「おっ?誰か誕生日みたいだよ」と呟いたら、パチパチと花火を散らせたケーキが、なんと、
自分のところに運ばれてきたのだった。

「えっ!俺?」と間が抜けた反応をしてしまったのも無理はない。
その日は僕の誕生日ではなく、実際はその1週間後だったからだ。

「交際未満」のビミョーな関係らしく、僕としては、翌週土曜日の自分の誕生日に
彼女が会ってくれるのかどうかを量りかねていたわけだった。
だからまず思ったのは、「あ、彼女は来週の僕の誕生日には(今日と同じ土曜日なのに)
会うつもりはない、ということなのだな」ということだった。

店員が「ケーキと一緒に写真をお撮りしますね」とカメラを構えた。
僕がケーキに顔を寄せると、ケーキを挟んで僕の正面に座る彼女は、“反射的に、身を引いた”。
僕は努めて明るく「一緒に入ろうよ!」と言い、それでようやく彼女もケーキに顔を寄せてきた。
正直、少し白けた。
彼女は僕と一緒の「ツーショット」の写真におさまるつもりはないのだな、と。

――いやあ、びっくりしたよ。いつの間にか店員さんにこんな相談をしてたんだね。
――うん。意外と早くデザートまで進んじゃったから、間に合うかどうかドキドキしてたの。

嬉しいことは嬉しかったが、自分たちの関係の浅さ(まだ数回しかデートしていない)を考えると、
こういうサプライズ演出も少し「行き過ぎ」に思えなくもなかった。

写真は間もなく木製のフォトフレームに入って席に届けられた。
僕の名前、「HAPPY BIRTHDAY!」、そして“今日の日付”がペンでカラフルに書き込まれていた。
…うーん、今日じゃないんだよなあ、とやっぱり思ってしまう。

会計の段になった。テーブルに置かれた伝票の金額は8000円くらいだった。
彼女は5000円札を僕に差し出して、「1000円ある?」と訊いてきた。
誕生日サプライズが、ぴったり割り勘か…と思った。
「今日はお祝いだから、私がごちそうするね!」とはならないのだった。
なんだか情けなくなったので、「いいよいいよ、僕が出すから」と、
自分のクレジットカードを店員に渡した。
店員の目には「自分の誕生日サプライズを自分で支払う客」と映ることになった。

その彼女とは、その1か月半後に別れた。

別れ方もはっきりしなかった。
「好きです」とは言われていた。メールを送ってくるのも彼女の方が積極的だった。
なのに、デートに誘っても、すんなり「いいよ!」と返事が来ることは一度もなかった。
いつも、何回か食い下がってあれこれ提案しないと、デートに漕ぎ着けないのだった。
自分は前に進みたかったのだが、彼女に「終わりにしたいの?」と訊くと、こっくり頷いた。
にもかかわらず、終わった後で、「あなたのことが自分なりに好きでした」とメールが来るのだった。
「自分なりに」…?これは、「それなりに」と読めばいいんだろうか?
「それなりに」とは「十分ではないが一応」という意味だ。言い換えれば「そこそこ」になる。
なんとも配慮に欠ける言い回しだと思うが、
彼女なら、「あなたのことがそれなりに好きでした」と平然と言いそうな感じもあった。
性格が悪いからでも、知恵が足りないからでもない。
きっと、彼女は自分の気持ちに「あまりにも正直」だったからだ。

彼女のことはよくわからなかった。わかりたいのにわからせてもらえなかった。
「終わってしまった」と言うより、「何も始められなかった」。

今もたまに、眠れない夜、あの子はいったいなんだったんだろう?と思うことがある。