脚本 桃井章、監督 北本弘
1986年4月24日放送
【あらすじ】
一人暮らしの若い女性を狙った連続婦女暴行事件を追う特命課。手掛かりは被害者の証言をもとにしたモンタージュ写真だけで、捜査は難航する。そんななか、モンタージュとよく似た男が死体で発見される。男は大崎のアパートで一人暮らしのタクシー運転手で、死因は「凍死」だった。酒と一緒に睡眠薬を飲んで公園のベンチで眠ってしまい、折からの雨で体が冷えて死に至ったらしい。被害者が男を暴行犯人と確認し、事件は解決を見る。だが、叶は男の向かいのアパートに住む女の姿に、ある違和感を覚えた。
数ヶ月後、ある事件の捜査で空港を訪れた叶は、ぶつかったスチュワーデスが大崎で見た女だと気づくが、女は「人違いでは?」と否定し、立ち去った。女が落としたカギを届けるべく、勤務先で住所を調べる叶。上司の話では、数ヶ月前にも女を訪ねてきた刑事がいたという。女の住むマンションを訪れた叶は、やはり大崎で見た女だと確信。女もその事実を認め、似つかわしくないアパートに住んでいた理由を「ただの気まぐれ」と答えた。
アパートの大家に確認したところ、女は名も職業も偽って部屋を借り、わずか1ヶ月で引っ越したという。女の部屋からは、凍死した男の部屋が丸見えだった。女を訪ねたという刑事に事情を聞く叶。どうやら女は連続婦女暴行の被害者の一人らしいのだが、刑事に対しては強く否定したという。だが、通報した当時の隣人の話では、被害事実は間違いなかった。「彼女は復讐のために接近したのではないか?」と推測する叶。
その後、男が死の直前に立ち寄ったスナックが判明。マスターによれば、男はいたずら電話に悩まされ、睡眠不足だとこぼしていた。その後、隣に座った女性から睡眠薬をもらい、先に出た女を追うように出て行ったという。その女性も、男に電話を掛け続けたのも、女に違いなかったが、証拠は何一つない。事件当日の降水確率は90%で、予想雨量は10ミリだった。とはいえ、男が確実に死ぬ保障はなく、完璧主義な女が偶然に賭けるとは思えない。叶は「女が寝込んだ男に水をかけたのでは」と推測する。
やがて、事件当夜は予想と違って、わずか2ミリの雨しか降らなかったことが判明。しかし、男のポケットのタバコはびしょ濡れになっており、何者かが水を掛けたことが立証される。また、橘らの捜査により、女が海外のホテルから男の部屋に電話を掛け続けていたことや、男が飲んでいた睡眠薬が海外にしかないものだと判明する。
女の部屋を訪れる叶。確かな証拠を突きつけられ、観念した女は「着替えるので少し待って」と扉を閉める。女の着替えを待つ叶の脳裏に、女の言葉が甦る。「そんな男のために逮捕されるくらいなら・・・」「まさか!」慌てて部屋に駆け込んだ叶が見たものは、ベランダから身を乗り出す女の姿だった。「私の負けね。刑事さん」そう言い残して女は投身自殺を遂げた。叶の報告を受け、衝撃を受ける特命課。「彼女、逮捕されて、忌まわしい事実が明らかになるのが耐えられなかったんでしょうか?」紅林の呟きに、桜井が付け加える。「それと、敗北感だろう。自分の犯罪は誰にも見破れないという自信があったんだ」「それを、叶の執念が打ち負かしたんだ・・・」橘の言葉に、事件解決の喜びはなかった。
すべてが終わった後、叶は一人、女が住んでいた大崎のアパートを訪ねる。女はこの部屋で、灰色の空とドロ色の川に向かって憎悪を燃やし続けていた。そんな哀れな女の胸中を思いつつ、叶は弔いの花を投げ入れるのだった。
【感想など】
端的に言えば、好きになれない話。気に入らない点を数え上げればキリがないが、大きく3点だけ指摘しておきます。
第一に、なぜ大崎という街を取り上げたのかが意味不明な点。同様のタイトルとしては第286話「川崎から来た女」や第330話「佐世保の女」などがありますが、前者は公害問題、後者は安保闘争と、それぞれ社会問題の象徴となる地名でしたが、今回の場合は、「品川と五反田に挟まれ、妙にくすんだ印象を与える街」という脚本家の偏見(事実かもしれませんが)が語られるのみで、大崎に住む方々からすれば失礼極まりない話ではないかと。「若く美しい女性(それもスチュワーデス)が住むには似つかわしくない」というのが、叶の違和感の理由らしいのですが、はっきり言って大きなお世話です。
第二に、これは私が男だからかもしれませんが、本来は不幸な被害者なはずの女に全く感情移入できないこと。女が喋れば喋るほど、人間性が描写されればされるほど、同情する気になれなくなってしまうのは何故でしょうか?脚本と演出と女優さんの演技すべてが相まってのことかと思われますが、やはり脚本の責任は少なくないでしょう。
第三に、叶の行動がおかしいこと。そもそもの違和感が唐突であり、叶の刑事としての優秀さを示すというよりも、ご都合主義としか思えません。また、スチュワーデスの自宅を突き止めるあたりの行動は、ストーカーと非難されても仕方ありません。さらに、女に対して「犯人が男を殺したのは、男が多くの女性に行ったことと同じ」などと言うのは、あまりに無神経ではないでしょうか?
そして、何よりもひどいのが、女の自殺を許してしまうこと。捜査中に被疑者を自殺させるというのは、刑事としては大失態では?女の両親はすでに死亡している設定ですが、遺族がいれば訴えられても仕方ないくらいのミスだと思うのですが、課長らが責めるでもなく、本人も無念そうではあるとはいえ、責任を感じているような描写もありません。
こうした欠点を挙げていても虚しく思えるのは、とにかく脚本に「視聴者を喜ばせよう」という思いや、「これを訴えたい」というテーマ性が全く伝わってこないこと。何というか、「ただ一本とりあえず作りましたよ」というやる気のなさが伝わってきてしまうのが誠に残念。こんな話を放送するくらいなら、もう1週放送が休みのほうが良かった、とすら思ってしまう自分が切ないです。
1986年4月24日放送
【あらすじ】
一人暮らしの若い女性を狙った連続婦女暴行事件を追う特命課。手掛かりは被害者の証言をもとにしたモンタージュ写真だけで、捜査は難航する。そんななか、モンタージュとよく似た男が死体で発見される。男は大崎のアパートで一人暮らしのタクシー運転手で、死因は「凍死」だった。酒と一緒に睡眠薬を飲んで公園のベンチで眠ってしまい、折からの雨で体が冷えて死に至ったらしい。被害者が男を暴行犯人と確認し、事件は解決を見る。だが、叶は男の向かいのアパートに住む女の姿に、ある違和感を覚えた。
数ヶ月後、ある事件の捜査で空港を訪れた叶は、ぶつかったスチュワーデスが大崎で見た女だと気づくが、女は「人違いでは?」と否定し、立ち去った。女が落としたカギを届けるべく、勤務先で住所を調べる叶。上司の話では、数ヶ月前にも女を訪ねてきた刑事がいたという。女の住むマンションを訪れた叶は、やはり大崎で見た女だと確信。女もその事実を認め、似つかわしくないアパートに住んでいた理由を「ただの気まぐれ」と答えた。
アパートの大家に確認したところ、女は名も職業も偽って部屋を借り、わずか1ヶ月で引っ越したという。女の部屋からは、凍死した男の部屋が丸見えだった。女を訪ねたという刑事に事情を聞く叶。どうやら女は連続婦女暴行の被害者の一人らしいのだが、刑事に対しては強く否定したという。だが、通報した当時の隣人の話では、被害事実は間違いなかった。「彼女は復讐のために接近したのではないか?」と推測する叶。
その後、男が死の直前に立ち寄ったスナックが判明。マスターによれば、男はいたずら電話に悩まされ、睡眠不足だとこぼしていた。その後、隣に座った女性から睡眠薬をもらい、先に出た女を追うように出て行ったという。その女性も、男に電話を掛け続けたのも、女に違いなかったが、証拠は何一つない。事件当日の降水確率は90%で、予想雨量は10ミリだった。とはいえ、男が確実に死ぬ保障はなく、完璧主義な女が偶然に賭けるとは思えない。叶は「女が寝込んだ男に水をかけたのでは」と推測する。
やがて、事件当夜は予想と違って、わずか2ミリの雨しか降らなかったことが判明。しかし、男のポケットのタバコはびしょ濡れになっており、何者かが水を掛けたことが立証される。また、橘らの捜査により、女が海外のホテルから男の部屋に電話を掛け続けていたことや、男が飲んでいた睡眠薬が海外にしかないものだと判明する。
女の部屋を訪れる叶。確かな証拠を突きつけられ、観念した女は「着替えるので少し待って」と扉を閉める。女の着替えを待つ叶の脳裏に、女の言葉が甦る。「そんな男のために逮捕されるくらいなら・・・」「まさか!」慌てて部屋に駆け込んだ叶が見たものは、ベランダから身を乗り出す女の姿だった。「私の負けね。刑事さん」そう言い残して女は投身自殺を遂げた。叶の報告を受け、衝撃を受ける特命課。「彼女、逮捕されて、忌まわしい事実が明らかになるのが耐えられなかったんでしょうか?」紅林の呟きに、桜井が付け加える。「それと、敗北感だろう。自分の犯罪は誰にも見破れないという自信があったんだ」「それを、叶の執念が打ち負かしたんだ・・・」橘の言葉に、事件解決の喜びはなかった。
すべてが終わった後、叶は一人、女が住んでいた大崎のアパートを訪ねる。女はこの部屋で、灰色の空とドロ色の川に向かって憎悪を燃やし続けていた。そんな哀れな女の胸中を思いつつ、叶は弔いの花を投げ入れるのだった。
【感想など】
端的に言えば、好きになれない話。気に入らない点を数え上げればキリがないが、大きく3点だけ指摘しておきます。
第一に、なぜ大崎という街を取り上げたのかが意味不明な点。同様のタイトルとしては第286話「川崎から来た女」や第330話「佐世保の女」などがありますが、前者は公害問題、後者は安保闘争と、それぞれ社会問題の象徴となる地名でしたが、今回の場合は、「品川と五反田に挟まれ、妙にくすんだ印象を与える街」という脚本家の偏見(事実かもしれませんが)が語られるのみで、大崎に住む方々からすれば失礼極まりない話ではないかと。「若く美しい女性(それもスチュワーデス)が住むには似つかわしくない」というのが、叶の違和感の理由らしいのですが、はっきり言って大きなお世話です。
第二に、これは私が男だからかもしれませんが、本来は不幸な被害者なはずの女に全く感情移入できないこと。女が喋れば喋るほど、人間性が描写されればされるほど、同情する気になれなくなってしまうのは何故でしょうか?脚本と演出と女優さんの演技すべてが相まってのことかと思われますが、やはり脚本の責任は少なくないでしょう。
第三に、叶の行動がおかしいこと。そもそもの違和感が唐突であり、叶の刑事としての優秀さを示すというよりも、ご都合主義としか思えません。また、スチュワーデスの自宅を突き止めるあたりの行動は、ストーカーと非難されても仕方ありません。さらに、女に対して「犯人が男を殺したのは、男が多くの女性に行ったことと同じ」などと言うのは、あまりに無神経ではないでしょうか?
そして、何よりもひどいのが、女の自殺を許してしまうこと。捜査中に被疑者を自殺させるというのは、刑事としては大失態では?女の両親はすでに死亡している設定ですが、遺族がいれば訴えられても仕方ないくらいのミスだと思うのですが、課長らが責めるでもなく、本人も無念そうではあるとはいえ、責任を感じているような描写もありません。
こうした欠点を挙げていても虚しく思えるのは、とにかく脚本に「視聴者を喜ばせよう」という思いや、「これを訴えたい」というテーマ性が全く伝わってこないこと。何というか、「ただ一本とりあえず作りましたよ」というやる気のなさが伝わってきてしまうのが誠に残念。こんな話を放送するくらいなら、もう1週放送が休みのほうが良かった、とすら思ってしまう自分が切ないです。