脚本 押川國秋、監督 宮越澄
1986年2月6日放送
【あらすじ】
ある夜、たまたま立ち寄った交番で、時田は自転車に乗った若者と出会う。負傷していながら、頑なに事情を話そうとしない若者に閉口し、所轄署に後を任せて退散する。
同じ頃、一人暮らしの資産家が自宅で刺殺され、1千万円が奪われる。その手にはゲートボールの①と⑧の球が握られており、現場から自転車で逃走する若い人影が目撃されていた。
翌朝、事件を知った時田は、昨夜の若者が事件と関係しているのではと見て行方を追う。だが、手掛かりは腹痛で苦しんでいたということだけだった。翌朝、事件を知った時田は、昨夜の若者が事件と関係しているのではと推測する。だが、所轄署では身許を聞かぬままに若者を解放しており、手掛かりは腹痛で苦しんでいたということだけだった。
若者が交番に残したハンカチの血痕は、資産家の血液型と一致する。また、被害者のゲートボール仲間の証言によると、若者は数日前、ゲートボール中の資産家に「自転車で募金旅行をしている」と声をかけ、盛んに売り込んでいたという。特命課は「募金がうまくいかずに困った若者が、資産家の金を狙った末の犯行」と推測し、その行方を追う。
時田らは若者が腹痛を訴え駆け込んだ病院を発見。病院周辺の旅館を探したところ、若者を発見し、追跡の末に拘束する。取調べに対し、若者は犯行を否定。時田と叶は旅館を捜索するが、凶器や1千万円は見当たらない。そこに、若者宛に募金仲間の娘から電話が入る。時田が若者を装い応対したところ、二人は山口県の宇部出身とわかり、叶が事情を調べに向かう。
若者の取調べが難航するなか、時田は現場付近の「一八寿司」が食中毒の疑いで保健所に調べられている現場に遭遇。もしやと思って板前に被害者や若者の写真を見せるが「覚えがない」という。だが、病院からの連絡で、若者の腹痛の原因はサルモネラ菌による食中毒と判明。被害者の遺体からもサルモネラ菌が検出される。二人が一緒に寿司を食べたと見て、証拠固めのために再び「一八寿司」訪れる時田だが、板前は行方をくらませていた。
一方、叶の調べで若者の素性が判明。若者は2ヶ月前、事故で半身不随となった弟のために、身障者の施設を設立する目的で、同級生の娘と東西に別れてロード募金の旅に出た。募金は思いのほか難航するが、地元のマスコミが派手に報道したこともあり、簡単に諦めることも、警察沙汰になることもできなかったのだ。
若者の志を知って同情を寄せる時田に、若者も心を開く。「大勢に見送られて出発するとき、自分がヒーローになったような気分でした・・・でも、世間は思ったほど甘くはなく、次第に、素通りする人間が憎くなってきました」そんな若者に、資産家は寿司をふるまいつつ一千万円の存在を明かし「その金を寄付するのは容易い。しかし、男たるもの、日本中を巡ってでも初志を貫くことだ」と励ましたという。真犯人は、その会話を聞いていた板前だった。若者は板前が資産家のマンションに入っていくのを目撃。後を追ったところ、資産家が殺されており、板前は若者の反撃にあって逃走。若者は残された1千万に目がくらみ、金を奪って逃走したのだ。
若者の証言により、隠していた1千万円は発見され、海外逃亡を図った板前も逮捕。事件は解決する。送検される若者に、特命課は心尽くしの寄付を送る。刑事たち一人ひとりに頭を下げる姿を見て、今後は挫けることなく現実に立ち向かってくれることを祈る時田だった。
【感想など】
マスコミに踊らされた若者の愚行を描いた一本です(このまとめ方に異論はあろうかと思いますが、個人的な感想ということでご容赦ください)。ラストシーンで神代が若者に向けた「マスコミが犯罪者までをヒーロー扱いする世の中だ。それに乗っかって目立ちたがる気持ちはわかるが、本当のヒーローというものは、不可能と思われることを成し遂げる人を言うんだ。わかるか?」との言葉こそ本編のテーマであり、それ以上語ることもありません。
現実を見ることなく、甘い考えで旅立つ若者が愚かなことは言うまでもありませんが、その愚行を止めようともしない親や、あたかも英雄のごとく派手に騒ぎ立てるマスコミは、さらに愚劣。とくにマスコミは読者の興味さえ引ければそれでよく、若者が失敗しようが、自分たちの報道のせいで引っ込みがつかなくなろうが、知ったことではありません。さらにタチの悪いことに、そうした自分たちの卑劣さを自覚することすらなく、むしろこうした報道を「いいことをした」とでも思ってしまいかねないあたり、ほとほと救いようがありません。
もちろん、マスコミが愚劣なのは周知の事実であり、それによって若者や娘の愚行が肯定されるものではなりません。とくに、娘の「私たちの青春のモニュメントなのよ!」などとはしゃいだ言葉には、呆れるというか何と言うか、「弟は貴様らの人生にアクセントを与えるために半身不随になったんとちゃうぞ!」と怒鳴りつけたくなる思いでした。
私が募金は大嫌いだという話は、以前に第396話「万引き少女の告白!」の感想でしつこいほどに語りましたので、ここでは繰り返しませんが、加えて気になったのは、特命課の捜査態度です。血液型の一致だけでは決定的な証拠とは言えないにもかかわらず、若者を犯人と決め付けて捜査するのは特命課らしくありません。また、北条清嗣演じる板前が、念願かなってニューヨークに寿司バーを出店する予定にもかかわらず(もちろん、金が欲しい時期だというのは分かりますが)強盗殺人という危ない橋を渡る理由もさっぱり分かりません。
とはいえ、そんな瑣末なことはどうでもよくなるほど、若者と娘の自己陶酔的な自己中心さが不愉快極まりなく、私にとってはドラマの評価以前に「不快な一本」という印象しか残りませんでした。
1986年2月6日放送
【あらすじ】
ある夜、たまたま立ち寄った交番で、時田は自転車に乗った若者と出会う。負傷していながら、頑なに事情を話そうとしない若者に閉口し、所轄署に後を任せて退散する。
同じ頃、一人暮らしの資産家が自宅で刺殺され、1千万円が奪われる。その手にはゲートボールの①と⑧の球が握られており、現場から自転車で逃走する若い人影が目撃されていた。
翌朝、事件を知った時田は、昨夜の若者が事件と関係しているのではと見て行方を追う。だが、手掛かりは腹痛で苦しんでいたということだけだった。翌朝、事件を知った時田は、昨夜の若者が事件と関係しているのではと推測する。だが、所轄署では身許を聞かぬままに若者を解放しており、手掛かりは腹痛で苦しんでいたということだけだった。
若者が交番に残したハンカチの血痕は、資産家の血液型と一致する。また、被害者のゲートボール仲間の証言によると、若者は数日前、ゲートボール中の資産家に「自転車で募金旅行をしている」と声をかけ、盛んに売り込んでいたという。特命課は「募金がうまくいかずに困った若者が、資産家の金を狙った末の犯行」と推測し、その行方を追う。
時田らは若者が腹痛を訴え駆け込んだ病院を発見。病院周辺の旅館を探したところ、若者を発見し、追跡の末に拘束する。取調べに対し、若者は犯行を否定。時田と叶は旅館を捜索するが、凶器や1千万円は見当たらない。そこに、若者宛に募金仲間の娘から電話が入る。時田が若者を装い応対したところ、二人は山口県の宇部出身とわかり、叶が事情を調べに向かう。
若者の取調べが難航するなか、時田は現場付近の「一八寿司」が食中毒の疑いで保健所に調べられている現場に遭遇。もしやと思って板前に被害者や若者の写真を見せるが「覚えがない」という。だが、病院からの連絡で、若者の腹痛の原因はサルモネラ菌による食中毒と判明。被害者の遺体からもサルモネラ菌が検出される。二人が一緒に寿司を食べたと見て、証拠固めのために再び「一八寿司」訪れる時田だが、板前は行方をくらませていた。
一方、叶の調べで若者の素性が判明。若者は2ヶ月前、事故で半身不随となった弟のために、身障者の施設を設立する目的で、同級生の娘と東西に別れてロード募金の旅に出た。募金は思いのほか難航するが、地元のマスコミが派手に報道したこともあり、簡単に諦めることも、警察沙汰になることもできなかったのだ。
若者の志を知って同情を寄せる時田に、若者も心を開く。「大勢に見送られて出発するとき、自分がヒーローになったような気分でした・・・でも、世間は思ったほど甘くはなく、次第に、素通りする人間が憎くなってきました」そんな若者に、資産家は寿司をふるまいつつ一千万円の存在を明かし「その金を寄付するのは容易い。しかし、男たるもの、日本中を巡ってでも初志を貫くことだ」と励ましたという。真犯人は、その会話を聞いていた板前だった。若者は板前が資産家のマンションに入っていくのを目撃。後を追ったところ、資産家が殺されており、板前は若者の反撃にあって逃走。若者は残された1千万に目がくらみ、金を奪って逃走したのだ。
若者の証言により、隠していた1千万円は発見され、海外逃亡を図った板前も逮捕。事件は解決する。送検される若者に、特命課は心尽くしの寄付を送る。刑事たち一人ひとりに頭を下げる姿を見て、今後は挫けることなく現実に立ち向かってくれることを祈る時田だった。
【感想など】
マスコミに踊らされた若者の愚行を描いた一本です(このまとめ方に異論はあろうかと思いますが、個人的な感想ということでご容赦ください)。ラストシーンで神代が若者に向けた「マスコミが犯罪者までをヒーロー扱いする世の中だ。それに乗っかって目立ちたがる気持ちはわかるが、本当のヒーローというものは、不可能と思われることを成し遂げる人を言うんだ。わかるか?」との言葉こそ本編のテーマであり、それ以上語ることもありません。
現実を見ることなく、甘い考えで旅立つ若者が愚かなことは言うまでもありませんが、その愚行を止めようともしない親や、あたかも英雄のごとく派手に騒ぎ立てるマスコミは、さらに愚劣。とくにマスコミは読者の興味さえ引ければそれでよく、若者が失敗しようが、自分たちの報道のせいで引っ込みがつかなくなろうが、知ったことではありません。さらにタチの悪いことに、そうした自分たちの卑劣さを自覚することすらなく、むしろこうした報道を「いいことをした」とでも思ってしまいかねないあたり、ほとほと救いようがありません。
もちろん、マスコミが愚劣なのは周知の事実であり、それによって若者や娘の愚行が肯定されるものではなりません。とくに、娘の「私たちの青春のモニュメントなのよ!」などとはしゃいだ言葉には、呆れるというか何と言うか、「弟は貴様らの人生にアクセントを与えるために半身不随になったんとちゃうぞ!」と怒鳴りつけたくなる思いでした。
私が募金は大嫌いだという話は、以前に第396話「万引き少女の告白!」の感想でしつこいほどに語りましたので、ここでは繰り返しませんが、加えて気になったのは、特命課の捜査態度です。血液型の一致だけでは決定的な証拠とは言えないにもかかわらず、若者を犯人と決め付けて捜査するのは特命課らしくありません。また、北条清嗣演じる板前が、念願かなってニューヨークに寿司バーを出店する予定にもかかわらず(もちろん、金が欲しい時期だというのは分かりますが)強盗殺人という危ない橋を渡る理由もさっぱり分かりません。
とはいえ、そんな瑣末なことはどうでもよくなるほど、若者と娘の自己陶酔的な自己中心さが不愉快極まりなく、私にとってはドラマの評価以前に「不快な一本」という印象しか残りませんでした。